基岡夕理(きおかゆうり)

物語を書く

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マガジン

  • 【願いの園】

    これは種の営み 【不定期更新】 藤田知仍は、気づくと不思議なところにいた。 あまりに突飛な場所ゆえに夢だろうと結論付けたけど、そこに一人の青年が現れる。 塾で知り合い、今では疎遠となっている河西祷吏という人物だった。 知仍は彼とともに機械仕掛けの島を旅することになる。 本当にただの夢なのか。 疑ってしまうのは、彼に関する"不思議なお願い"を言われていたから。

  • 小説

    書いた小説のまとめ

  • 【中編小説】恋、友達から

    『恋、友達から』がセクションごとに収録されます(全20セクションですが、全19本です)

最近の記事

「OOPTOY」あらすじ

 カートは孤児院に入り、十歳にして孤児が増え続ける現状を問題視していた。ある日孤児院にサーカス団がきた。世界中を旅する彼らに孤児を減らす方法を訊いたところ『全能』のオープトイへ挑戦することを提案された。友達が一緒に旅に出ると言ってくれた。  十年後、『全能』を手に入れたカートは半ば引きこもっていた。その日ユルマリという友人が「会ってほしい人がいる」とカートを連れだした。少女が追われていた。  ひとまず追っ手を鎮圧したが、根本的な解決には組織に乗り込む必要があった。『全能』を持

    • 「OOPTOY」第3話:追っ手

      「あの子は助けちゃダメだ!」  マルンは必死でカートを羽交い絞めにした。国境の平原を一人の女の子が歩いていく。その先にいるのは百人を超える鉄砲部隊である。  そんな光景が城壁の向こう側にあって、カートは門扉の前で暴れていた。 「離せマルン! あの子を見捨てろって言うのか!」 「彼女は何百人も殺めてる! それが彼女の望まなかったことでも、彼女は今、その罪を償おうとしてる!」 「だからって――」 「それに!」マルンは言葉を遮った。「彼女は極めて政治的な立場にいる。彼女

      • 「OOPTOY」第2話:箱庭の神

        『オープトイ』  それはおとぎ話に登場する魔法の道具である。  両開きの窓を繋ぐアームが自ずと外れ、風に押されるように内側に開いた。そこへ大きな鳥が飛び込んできた。 「トゥルッポ! トゥルッポ! へいへいモーニングバードの参上だぜ! まだベッドでおねんねしてるのはどこのどいつだい?」  鳥は家具や床をぴょんぴょん跳ね回り叫び回り暴れ狂い、最終的に「ふぉおおおお」と奇声を撒き散らしながらドアに突進し、頭を盛大に打ち付けたことで気絶した。  カートはベッドの上で億劫そうに

        • 「OOPTOY」第1話:渡されたもの

           カートは母親に手を引かれ森の深いところまで連れて来られた。当時四歳であり母親を疑うことなどしなかった。 「これ、約束のプレゼント」  手渡されたのは木製のオモチャ。脚が車輪になった馬だ。地面に置いて押せば車輪がコロコロ回って前後に動かすことができる。以前ねだっていたものだった。  カートはパッと笑顔を咲かせると、さっそく地面に押し付けるようにして転がした。  遊ぶことに夢中になっていた。  気づいたとき、母親はいなくなっていた。  郊外にある孤児院。  大きな

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        • 【願いの園】
          19本
        • 雑多
          17本
        • 小説
          27本
        • 【中編小説】恋、友達から
          19本

        記事

          「頂戴姫」あらすじ

           ギアロはその日、彼女であるミリアにプロポーズするつもりだった。訳あって彼女は一度家に帰り、ギアロは待ち合わせ場所で待っていた。そのとき彼らの住む島で噴火があった。ギアロは避難できたが、彼女は地割れに落ちた。  やがて噴火の影響が収まり、ギアロを含め調査隊が島に向かった。逃げ遅れた島民たちはゾンビのようになっていた。ミリアはその親玉となっており、ギアロを襲った。  言葉が通じずギアロは逃げるしかなかった。調査隊は島を去ることに。どうやったら元に戻せるのか。悩むギアロの前にミリ

          「頂戴姫」あらすじ

          「頂戴姫」第3話

          「じゃあ寄越せ‼」  ギアロはしゃがんだ姿勢で頭上にある彼女の髪を見上げていた(ニコラオは何メートルか後ろに逃げていた)。  悲しげな目でミリアを見る。 「なんでこんな……⁉ 何があったんだよ⁉」  彼の悲痛な叫び。彼女はむしろ自分が被害者のような悲しげな顔で項垂れた。 「嘘つき……」  呟きは彼女だけに聞こえた。彼女は牙を剥く猛獣のように口端を吊り上げて怒鳴った。 「この嘘つきがァ!!!」 「は⁉ 何が⁉」 「黙って寄越せよ‼」 「ギアロ‼ 話は無理だ‼」ニコラオが彼の

          「頂戴姫」第2話

           本土の港は船で溢れていた。満杯なところに更に船が停まっており、船をロープで連結することで無理やり繋留している。ごちゃごちゃしていた。  島に近いところに建つ背の高いホテルがいくつか避難民のために解放された。 「こちらです」  警備ロボットの音声とホログラムで誘導される。灰の降る中ギアロも浮かない顔で人の流れに付いて行った。  ロビーはすでに半分ぐらい埋まっていた。ギアロはキョロキョロと見渡す。目当ての人は自分を手招きしていた。家族だ。 「良かった、二人は無事だったんだ」

          「頂戴姫」第1話

          「……愛して」  縋りつくように女性は言った。ぺたりと割座で、両手を伸ばして何かを挟んだ。  頭だ。青年の頭。  青年は横向きに転がされ、顔だけを天井に向けられている。彼の瞳は目の前の恐怖に微細に揺れていた。  辺りは暗いが、遠くのシャンデリアが二人をぼんやりと白く照らしている。 「……愛してよ」  彼女の手からパチっと火花が上がった。  少しして男はだらりと立ち上がった。  肌は青白く染まり、猫背でぐったりと、まるでゾンビのようになって、ふらふら歩いていく。 「

          【願いの園】間章2

          「よし、完成」 原稿を一枚両手で大切に持ち上げて、リチャードは満足そうに言った。それは漫画の一ページ。一人の青年が不満そうな顔をして『演劇部』のプレートが掛かったドアの前に立っている絵だ。 その姿を一瞥し、祷吏は溜め息をついた。事切れたようにテーブルに突っ伏したまま呻くような声を出す。 「今度こそは通ってほしいよなぁ」 切実に、しかし諦めが多分に含まれていた。何度も何度も新人賞に応募して、悉く結果が振るっていない。期待だけを持つには心が丈夫ではなかった。 リチャード

          【願いの園】間章2

          【願いの園】第二章 07

          まだ生きてるかもしれない。警戒してしばらく浮いていたけど、泡の一つも立たず、どうやら無事に倒せたようだった。これで安心できるだろう。 ちょうど抱き留める力が緩んでいたから、私は彼女の片手を握ってから脱出した。彼女が驚いた顔をしていたからもう一方の手も握る。 「一人で飛んでみなよ」 私は言った。 ビビリといじっていたときは随分と快活だった彼女も、いざ一人で飛べと言われたら緊張するらしい。すっかり青ざめていた。 さてどう説得しようか。 思案を始めようとしたところで、ふ

          【願いの園】第二章 07

          【願いの園】第二章 06(2)

          目の前に妖精がやって来た。 てのひらサイズの人の形で、青を基調とした服を着て、シオカラトンボのような透明な羽を生やしている。女の子っぽい。彼女は背後に指を差す。湖の方だ。 「『こっちに来い』って言ってるんじゃない?」吉岡さんが言った。 立ち上がってお尻の砂を払うと、すぐに吉岡さんが後ろから抱き着いてきた。それだけなら分かるけど、ぐりぐりと私を押すのはどういうことだ。 「移動に制限があるでしょ?」 尋ねるまでもなく答えを得られた。 「そりゃそうだけど」 「それじゃあ行こう

          【願いの園】第二章 06(2)

          【願いの園】第二章 06(1)

          ちょうどサスペンスドラマで犯人が追い詰められるような崖に降り立った。いや、隠岐の摩天崖のように鋭く突き出て切り立っていると言った方がいいのかな。とにかく、先端にいる。下が巨大な湖になっていて、数百メートルはある。落ちたら死ぬ高さだ。 森の境界線は崖から随分と離れていて、仮にムカデの登場に狼狽してしまっても落ち着きを取り戻せるだけの余裕はありそうだ。 「きっつ」 と悪態をついて吉岡さんは勢いよく手を離す。腕の負担は大きかったと思う。重力の影響は弱められても私を抱き寄せてお

          【願いの園】第二章 06(1)

          【願いの園】第二章 05

          場当たり的にやるのもどうかと思い河西くんをヒントにアプローチは準備していた。まさか初っ端から応用を求められるとは思っていなかったけど。 「元気にしてた?」 初対面の体で進められる自信がないため、素直に『約二年振りの再会』の感じで挑んだのだけど、自分でも分かるぐらい声がぎこちない。顔もたぶん強張っている。 「藤田さん。やっぱり藤田さんなんだ」 確かめるように呟く吉岡さん。 この状況を彼女はどう認識してるだろう。夢の中で多少因縁のある元クラスメイトと出会ったことをどう受

          【願いの園】第二章 05

          【願いの園】第二章 03,04

          ホワイトアウトした視界は数秒で色彩を取り戻した。 眼前に広がるのは、新緑の生い茂る森。比較的背の高い広葉樹から木漏れ日が落ち、抜け感があって輝かしい雰囲気を持っている。よく晴れて少し高めの気温、風が吹けば涼しいぐらいで、五月って感じだった。正面には遊歩道らしき道が通っていた。乗用車一台が余裕を持って通れそうな幅で、ハイキングにちょうど良さそうな緩い傾斜。 さて、人はどこだろう。 ざっと見渡してみる。四方八方に森が続いているけど、門の周囲は草一本ない裸の土地だった。人は見

          【願いの園】第二章 03,04

          【願いの園】第二章 02

          「こんばんは、藤田さん」 気づくと目の前に兎梅ちゃんが座っていた。学生服らしき姿で、歓迎とも迷惑とも取れない平坦な声と表情だ。その背後にはシックな内装――管理棟のラウンジと確認でき、奥にはガラスの壁があって、遠景に草原と雲海が見える。挨拶に対して真っ昼間の明るさだった。 ちゃんと『願いの園』に呼んでもらえたようだ。 昨日と逆で、入って左側の席にいるのだけど、これは単純に来客用と呼び出し用で分けてるだけかもしれない。そう。今回の私は従業員側なのである。 寝る前に練習してい

          【願いの園】第二章 02

          【願いの園】第二章 01

          アラームがけたたましく鳴っている。 寝惚け眼には見慣れた天井。朝だった。 なんだか凄く疲れる夢を見た気がする。凄くだるい。二度寝したい。早く夏休みになればいいのに。怠け者な私とは対照的に枕元ではスマホが一生懸命仕事しており、うーんとうめきながらガシッと掴んでアラームを止めた。入れ替わるように蝉の声が聞こえてきて、起きなきゃなぁと。ふわあ、とあくびしながら部屋を出る。 午前七時前であり、汗をかく手前の暑さだった。 それにしてもなんの夢を見たんだろう。思い出さなきゃいけない気

          【願いの園】第二章 01