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無職になったから、ミニシアターに行った話。

先日、映画を見てきた。
「悪は存在しない」

映画の中身も話したいけれども
言語化するとこぼれ落ちていく感覚のする
そんな映画。

映画を見る側から、映画に取り込まれていくような
そんな感覚。

告知ポスターには
「これは、君の話になる」とコピーが。

今日は、そんな映画を見に行ったときの話。

「悪は存在しない」

県内で上映している劇場が少なくて
車で1時間半のミニシアターへ。

「夜店通り」と言われる
商店街の中に、このシアターはある。

Tシャツでも汗をかく暑い日。
太陽から逃げるように建物へ入る。

初めて入るそこは
入替制のレトロな
昔懐かしの空間だった。

そんなことを言っているけど
入替制なんて、初めての経験。

なんだか愛を感じる時間表

受付には、元気でハツラツとした細いおばさま。
ロビーには一人、真っ赤な顔を
ハンカチで仰ぐおじさん。

じ~んわりと汗をかく。蒸し暑い。
し~んとしたロビー。

窓の外の遠くからは
工事の音。

まるで、この空間が
映画の中で
自分自身も、なんてことない登場人物の
一人になっているかのよう。

「これが映画なら首筋に
べたっとした汗をかくのも
必要な演技だよな」

と勝手に思いながら、開演を待つ。

古いのだけれども、どこか上品

「はい、お待たせしましたー」

そんな静かなワンシーンを
突如として、ブレイクする、受付のおばさまの声。

暑さでぼんやりする頭を起こして
劇場内へ。少しひんやりする。

劇場内には、小さなスクリーン。

後輩のお家にあるプロジェクターを映した
壁のほうが大きい。
だけど、それでいい。

客入れの映像はない。

約50の座席に
大人が5人。

無音が広がる。

映画がはじまる。
静かな映画。美しい映画。
なんとなく親近感の湧く映画。
だけど、どこか緊張感のある映画。

(リゾート開発に伴なう説明会での
 開発会社のスタッフと町民の会話劇が、痛快だった)

ときどき、
一緒に見ている人たちの
生きている音がする。

あ、ロビーで
見かけたハンカチおじさん
寝てる。暑かったもんね。

自分が眠くなった時に
いびきが聞こえてきたり

同じシーンでモゾモゾ姿勢を変えたり

知らない人たちだけど
同じ時間・空間を共有している。

そういう意味だと
やっぱり、一人ひとりが登場人物なんだよな。

お家でサブスクでいろんな映画が見れるけれども
お外に映画を見に行くのも悪くない。
改めてそう思った。

そんなことを思いながら
劇場の階段を下りると
圧巻の光景。

最後まで
「まるで映画みたい!」

こういう時代の積み重ね、興奮する。

素敵な映画だったなあ、と外を出る。
夕方だけど、まだ明るい。

しかも、なんだかソースの焼ける良い匂いが。

ジュルリ。辺りを見渡すと

昼には、存在しなかった
夜店が、ズラリ。

「おいおい!映画かよ!」
そんな僕の話。

退職したことも
こうやって映画を見たことも
映画みたいな経験をしたことも
後で振り返れば、「僕の話」になるよね。きっと。

夜店通りって、本当に「夜店通り」なんだ。
絶対美味しい、じゃんね。

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