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フレンチで働く day2

前回のnoteで無事(?)にフランス料理店のウェイターとして採用された私だが、今回はお仕事のあれこれを書いていきたい。


店には家から自転車で15分もかからないうちに着いてしまうため、初日に頂戴したナイスな制服は着ていく。ちなみに、他のアルバイトの子たちと同じスカートは断念し、グローバルワーク様の黒いパンツを合わせた。足元はローファーと、全身真っ黒で自転車に跨る。テロっテロのこのブラウスは生地のせいか、首元のスカーフみたいな紐が解けて風になびく。さながら、なんとかライダーになった気分で毎日出勤する。恥ずかしいことこの上ない。

料理店はアパートの地下部分を使っているので、住人と同じ自転車置き場に自転車を停める。面接の時におりた階段を降りると、まだ灯りの着いてない暗い背景のガラス扉が待っている。店内は一番奥の窓から光が通っているだけで薄暗い。縦に長い店内の壁一面にシェフの集めた抽象画が掛けられていて、少し美術館みたいな雰囲気が出ている。仕切られたキッチンに仕込み中のシェフがいるので挨拶をする。

「おはようございまぁーす」

目が開いてるのか開いてないのか定かではないシェフの顔をチラッと見て(シェフごめんなさい)、荷物を置いてから掃除機を握る。真っ赤な掃除機は私なら絶対買わないが、この店にあるとインテリアのひとつみたいだ。フロアに戻る途中でコーヒーマシンとエスプレッソマシーンの電源を入れる。そのままの流れでフロアの電気も付けていく。端っこのコンセントを目指して歩くローファーの足音だけがフローリングの床に響く。


手順は簡単だ。店の端から順番に掃除機をかけていくだけ。テーブルの下にあるパンくずやら、キッチン周りの細かい材料やらを吸い込んでいく。時々、マスクなんかが落ちている。

「今日は暑いですね〜」

と掃除機をかけているタイミングで、今日一緒にホールを回す女の子がやってくる。大抵は早くきた方が掃除機をするんだけど、あまりにも掃除機ばかりやっていた気がする。私とシフトが被ったら、私が掃除機という暗黙の了解が出来上がってしまったらしい。ちなみに、もう一人は玄関掃除と窓拭き、トイレ掃除なんかをやる。暑い時とか寒い時とかに、すごく申し訳ない気持ちになる。

掃除機を終えたらモップがけ。バケツと水切りが合体した画期的なやつにお湯と洗剤を入れ、キッチンの壁に立てかけてあるホール用のモップをつかむ。ジャバジャバとモップを濡らしてせっせと床を擦っていると、まるでレストランの下っ端として下積みをする映画のシーンが頭をよぎる。しかし、残念ながら私はただのフリーターである。



掃除を終えると、相方の女の子とテーブルセッティング開始。真っ白いクロスの上に、予約の席にだけお手拭きとメニューを乗せていく。足元には荷物を置くカゴ。冷蔵庫からラップのしてあるバターを取り出して、バター用の器に入れていく。シルバーのこの器はドーム状で、猫足の装飾もおしゃれ。しかし、実用性には少々欠けており、開けるのがめんどくさいお客様は中のバター容器を出してしまう。どうしたものやら。

そうしていると、シェフがのっそり出てくる。

「朝礼を始めまーす」

予約表を手に、シェフがお客様の人数と来店時間を改めて伝える。

「今日は常連の方が来られます。奥の席にお願いします。」

「このお客様はバースデーです。後でデセール何頼んだか教えてね。」

この日に出す料理についても付け加える。

「今日のスープはジャガイモのスープで、魚はタイのソテー生姜のソース。」

「そういえば帆立貝は4つしかないので、よろしくね。」

次々出てくる新しい情報を組み立てる。シェフはセッティングした後に変更とかを伝えてくる。嫌がらせかと思うこともあったが、単に抜けているおっちゃんのようだ。許してやろう。

「それじゃあ、今日もよろしくお願いしまーす」

朝礼が終わって、エプロンとマスクを付けたらクラシックのU線をオン。オーダーを取るタブレットもオン。そして、手前のフロアAと奥のフロアBのちょうど真ん中にあるレジの前で、眼光鋭く玄関のガラス扉を見つめる。オープン準備完了。どっからでもかかってこい。

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