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140字小説

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秋祭りの夕方、子供と手を繋いだ中学の同級生と近所で出会した。小型犬のリードを引く男性も一緒だ。「久し振り。お祭り?」「ん…。そっちは?」「行ってきたとこ。これから家で御飯」連れの男性とも会釈を交わして別れる。当時のニキビは跡形もなく、終始笑顔の彼女に、「お幸せに」と言えなかった。

毎年一緒の秋祭りを、高一の姉は「もう小四なんだから友達と行きな」と一人で出掛けてしまった。慌てて後を追うと、姉は街角で、背の高い、犬を連れた同年代の男の人と話している。「この子がトト?賢そう」その人と姉は並んで神社の方へ向かう。私は、二人と一匹の後姿に紐付けられたように歩き出す。

帰る間際「…久し振りに辰巳屋の『曙の桜』が食べたいな…」と財布を預けられた。好物だった羊羹だ。「明日見てくる。一口サイズを一個でいいね?」「…ううん、二個入りの…」「二個入り?また買うよ?」「…違う、…アンタの分も…」胸が詰まる。自分が世を終える寸前まで、我が母とは斯く在る人か。