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予想外の出合い「だから写真はやめられない」

前回は、写真展が出会いの場であるとお伝えしましたが、引き続き「出合い」の話を続けたいと思います。

写真集「Touch the forest, touched by the forest.」より

■大学で学んだことが、仕事で役に立たない

前作の「Touch the forest, touched by the forest.」では、北海道にある精神科病院で行われていた森林療法を取材しました。

自然の中に身を投じるだけで気持ちが晴れやかになる経験は、誰しもあると思います。

森林療法というのは、森林浴を医療の現場に持ち込んだものと解釈していただいて問題ないと思います。

なぜ、そもそもこのテーマにたどり着いたかといいますと、私自身が写真家を目指す前、学生時代に似たような実体験があったからです。

「大学で学んだことは、仕事で役に立たない」としばしば言われますが、間違いなく私も当てはまるそのひとりです。私は工学部出身で研究職を目指していました。専攻は写真とは全く関係のない分野の「鉄冶金」です。鉄の精錬技術にまつわる研究をしていました。ご存知の方もいるかもしれませんが、日本の製鉄技術は世界一で、とてもやりがいのある分野だと、いまも思っています。

大学4回生になって始まった研究生活。成果を簡単に出せるわけでなし、誰かに助けてもらえるわけでもない。どうもうまく馴染めずすさんだ日々を送っていたところ、たまたま友人が「面白いところを見つけたから、一緒に行かないか?」と誘ってくれた場所がありました。

里山です。

■ヒトは、やっぱりサル

そこは京都の西にある山を開墾して営まれていた市民農園でした。野菜作りにいそしむベテランの先輩たちに囲まれて、草を刈り、土を起こし、種をまき、実を摘む。このサイクルをしているだけで、不思議なことに元気を取り返せました。
秋に収穫祭でおいしいもの食べたり、広場でコンサートを開いたり、冬の夜にたき火をして星空を眺めたり、五感をフルに使う、とても豊かな時間を過ごせたのが理由だと思っています。

世界的な霊長類研究者の河合雅雄先生が、

サル類を生んだ森林こそが生命の源であり、人間のふるさとである。現代人が失いつつある生きものとしての生命力や生きる力を回復するために、われわれは森に還り、森からの発想によって、生きる力をとり戻さなければならない。

と、森とヒトの生きる力について言及している本がいくつかありますが、まさにその通りでした。力をとり戻せただけではありません。絵になる空間だったので写真に没頭してしまい、挙句の果てには里山で出会った方のつながりで写真家を志すにまで至りました。そして大学院を中退し、人生が大きく変わっていきました。

実はそれまで海外旅行で写真を撮るのが好きでしたが、あくまで趣味。外国でいい写真を撮れるのは当たり前だし、日本でこれを仕事にするなんて絶対にありえないと思っていたぐらいなのですが・・・。

そして写真をなりわいにして数年が経ち、作品撮りをする余裕が生まれてきました。日本をテーマに定めて取り組むべく、木をキーワードに調査をしていると、「森林保健活動」という言葉に巡り合ったのです。聞き慣れないながら、どこか懐かしい感じもして、これを研究対象にしている東京農業大学の上原巌先生にお話をうかがう機会を得ました。すると自分の過去の経験から腑に落ちて、実践をしている病院や施設を見てみたくなり、ご紹介いただいた次第です。

ドキュメンタリーを撮っていると、知らず知らずのうちに、自分の内面を見つめるテーマに出合うのだと気付かされます。

予想外な出合いの連鎖。
だから写真はやめられません。

学生時代に撮影した写真より

■追記

またひとつ宣伝させてください。

11月に横浜市港北区にある社会福祉法人「かれん」さんのギャラリーで開かれる絵画と写真を中心としたグループ展に参加させていただきます。
主催者である写真家の尾崎大輔さんが、最終日に視覚障がい者と一緒に楽しむ写真教室(!)を企画していますので、ぜひご参加ください。
私も一度、アイマスクをして公園を散策して撮影するワークショップに参加し、視覚障がいの世界を疑似体験しました。その大変さとともに、人に伝えるということの難しさを違う角度から味わうことができました。
以下に概要を転載します。よろしくお願い致します。

「みえるもの、みえないもの」

かれんでアート活動に参加しているメンバーの作品(絵画中心)、一般の写真家の写真作品、また視覚障がいのある方が撮影した写真作品を合同で展示する合同展です。それぞれの作品を通して、「みえるもの、みえないもの」を作家自身はもとより、観覧者の方々にも探っていただくことを目的にしています。写真家の尾崎さんは、7年前から「視覚障害者と一緒に楽しむ写真教室」を開催しています。都内やその近郊の公園で撮影会を行い、そこで撮った写真を特殊な印刷方法を使って凹凸のある画面になるようにプリントして撮影者の方にお渡ししています。その教室の中で視覚障害のある参加者から、「見えない世界よりも、もっと見える世界も教えて欲しい」といった声や、またほかの晴眼者の方からは「もっと視覚障害のある方の話を聞きたい」といった声が出てきているそうです。今回のテーマ「みえるもの、みえないもの」は、そういった声がきっかけに、改めて私たちの取り巻く世界について考えてみようと、生まれました。

日時:2018年11月6日(火)~11月17日(土)  11/11(日)休み
平日 10:30~17:30(11月10日土曜は12:00~16:00)
最終日 17日 12:00~17:00

会場:ギャラリーかれん(アートかれん)

〒222-0037 神奈川県横浜市港北区大倉山1-11-4

参加者:アート・メープルかれん利用者/絵画プログラム参加者

進藤環、佐久間里美、紀成道、清水裕貴、齋藤陽道、盛山麻奈美、黒田菜月、西尾憲一、尾崎大輔、山崎雄策

主催・企画:かれん

共催:日本視覚障碍者芸術文化協会
協力:小高美穂(フォトキュレーター)、尾崎大輔(写真家)

【写真教室】

御好評頂いている視覚障害者と一緒に楽しむ写真教室を開催致します。視覚障害者 の方だけではなく、様々な方に参加していただきたいので一般の方も参加頂ける写真教室となっています。健常者の方はアイマスクを着用し、仮想視覚障害者を 体験してもらいながら写真撮影、食事を行ってもらう予定です。また、視覚障害者の方で触ることの出来る凹凸の立体写真にしてほしいという写真がありましたら、ご持参頂き、可能な限り当日に凹凸の立体写真にお渡しすることもやらせて頂きます。(1枚目無料、2枚目以降追加料金500円)世の中を様々な視点で 見ることがどれだけ興味深いことか体験できる1日になることを期待しています。参加者には当日撮影した写真の数枚を凹凸の立体写真にして差し上げます。ご 興味などございましたら、お気軽にご連絡下さい。

日時:11月17日(土) 10:00〜16:00 (雨天決行)

集合場所:東急東横線・大倉山駅改札(公園口)前に9:45集合

午後からトークイベントのみの参加希望者で介助が必要な視覚障害のある方は12:45に大倉山駅に迎えに行きますので、12:45までに大倉山駅にお越しください。

参加定員:最大30名(介助者含む)

参加費:午前の撮影会からの参加者 2000円

(交通費、昼食代(約600円)、写真現像代などは個人でご負担をお願い致します。介助者の方の参加費は無料です。)

当日スケジュール

10:00〜12:00 撮影会
12:00〜13:00 食事休憩
13:00〜 トークイベント

トーク予定者:尾崎大輔(写真家)、小高美穂(フォトキュレーター)、視覚障害者と一緒に楽しむ写真教室にご参加いただいている視覚障害のある方2名、原田裕規(美術家)

撮影会講師:尾崎大輔

追記:カメラは各自ご持参下さい。お持ちでない方はニコンのカメラを10台まではお貸し出来ますので、その有無をお教え下さい。お申し込みの際、必ず介助者の方が同伴するかもお教え下さい。いらっしゃらない場合はこちらで手配致します。

主催:日本視覚障害者芸術文化協会

申込先:080-6507-7746(尾崎携帯)もしくは info@daisukeozaki.com

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