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地域の森林を未来に繋ぐ。創造的問題解決とプロジェクトマネージメント。

森林の未来を再設計:持続可能な森林活用と官民連携

日本の風土の大部分は森林によって形成されていますが、適切な管理が行われず、その真の経済的・環境的価値はまだ十分に活かされていません。特に、里山林は人々との関わりが薄れ、放置されています。
株式会社四国の右下木の会社(以下、木の会社)は、徳島県南の美波町を拠点に、この問題に真摯に取り組んでいます。

私たちは、伝統的な林業手法「樵木(こりき)林業」を現代的に継承し、持続可能な森林活用を追求しています。この活用は、林業だけでなく、製炭、飲食、ツーリズム、教育といった多岐にわたる分野に及びます。特に、「樵木備長炭」という新ブランドを生み出す製炭事業では、製炭窯の建設、製炭士育成、海外での認知拡大などの取り組みが進行中です。
さらに、私たちの活動は、各自治体や関連機関との官民連携を基盤としています。この連携を通じて、新たな価値を創出し、地域社会に貢献することを目指しています。

複雑な舞台裏:自然と人、そしてビジネスが交錯するプロジェクトマネージメント

地域の自然という要素を扱うことが、私たちのプロジェクトマネージメントに独特の複雑さをもたらしています。表面上はシンプルに見えるプロジェクトも、実際には法制度、地域社会との関係から、人的資源とナレッジマネージメント。これらに予測不能な自然の要素が絡み合うことで、日々新たな挑戦が生み出されています。

そこで、今回は、実務の最前線で活躍する3名のメンバーを通して、私たちがどのようにこれらのプロジェクトを推進しているのか、その舞台裏を深く掘り下げてご紹介します。彼らの生の声を通じて、自然と人、そしてビジネスが交錯する現場のリアルな挑戦と学びをお伝えします。


Senior Vice President / Strategic Designer:能沢 和寛 ノザワ カズヒロ

対象をシステムとして捉えて、デザインプロセスを適用し、目的を果たすために必要な複数の専門性を綜合しながら意思決定をサポートする舵取り役。株式会社ヴェルト:代表。慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネージメント研究所:研究員 在籍。

Chief Manager:中村 悠 ナカムラ ユウ

プロジェクト管理からコーポレート機能まで。現場とオフィスそれぞれとコミュニケーションをとりながら、社内のマネージメントを統括する。 前職で通信インフラの企画営業としてマネージャーを経験 インドネシアに赴任し企画営業チームを立ち上げに従事 帰国後に徳島に移住。
一般社団法人Disport:理事。

Intern:鳥越 洋平 トリゴエ ヨウヘイ

学生、インターン、地域おこし協力隊という様々な立場を最大限活用し社内の実働を横断的にサポートする。神戸大学大学院 工学研究科機械工学専攻 在籍。

インタビュアー:
木の会社が取り組むプロジェクトは、自然環境や地域の文化、そしてビジネス要求という多様な要因が交錯しています。このような背景の中で、プロジェクトを進める際の課題や挑戦を教えてください。

中村:
私たちが取り組むプロジェクトには、地域の方々や事業者、また官公庁といった多様なステークホルダーが関わっています。特に、地域の環境資源に関わるため、円滑な官民連携が非常に重要です。しかし、国や県、そして市町村といった異なる行政レベルとの連携は、それぞれが見えている景色や利害の構造が異なるため、矛盾や不整合が生じやすいです。このため、一緒に解釈を作っていくところから取り組む必要があります。このコミュニケーションが一番難しく、カロリーがかかっているところです。それぞれの自治体や行政レベルが持つ利害の構造を考慮した上で、話を持っていく順番やアプローチも非常に重要となってきます。

それに加えて、ビジネスとしての経済合理性も考慮しないといけません。前例や正解がない事柄、特に結果がわかるのは数十年先という点を、過去と現状から考えられるリスクや潜在的な課題を検討し、認識を合わせながら、利益を生み出せる構造を作り出すことの難しさを実感しています。
時間もお金も人も限定され、100%理想を追求することはできない中での合意形成。さらに、20年先の森林の更新を見越した丁寧な林業施行でかかる工数と、生産性観点からの効率化という矛盾。これらのバランスを取るのは、至難の業です。

鳥越:
僕が特に感じるのは、知識や経験の部分です。林業や製炭の現場には、経験や勘、直感に基づく知識がたくさんあります。これをどうチーム内で共有し、後継者に継承していくか。特に、山や製炭窯での実践的な知識は、言葉だけでは伝えきれない部分が多いです。ある時、製炭士が備長炭の品質を確認するのに炭を叩いて音を聞いました。私は何を判断しているかを聞いたのですが、製炭士は何を聞いて、どう判断しているかを明確に言語化できませんでした。

それと、やはり合意形成の難しさですね。関係者同士の会話が、なかなか擦り合わないことが続いたことがありました。後で気づいたのが、関係者がよく使う「択伐(たくばつ)」という言葉の意味が、伝統的な林業、学術領域、自治体業務、それぞれで違っていたのです。それぞれが当たり前としている言葉の定義の違いは、合意形成をとることの難しさに繋がっていると感じています。

能沢:
現場の、経験や勘、直感に基づく豊富な知識は「暗黙知」と言われるものです。中でも個人の身体を通した体験や感覚に基づくものは「身体知」と呼ばれ、特に言語化が難しいものです。これらの知識は自然を相手にしていることで、より複雑化するので益々厄介です。
暗黙知や身体知を言葉や図で表現し、共有可能な「形式知」として、蓄積、改善、再利用することは、私たちの大きな課題の一つです。更に、外部の専門家との連携や、IT技術との組み合わせは、私たちにとってチャレンジングな取り組みとなっています。

背景が異なるステークホルダーとのコミュニケーションは、それぞれの知識量や立場を考慮しながら、情報の取捨選択や調整を行う必要があり、その難易度は高いです。しかし、これらの課題を乗り越えることこそが、新しい価値を生み出すことに繋がると考えています。

多面的な課題:複雑な事業環境での成功への鍵

創造的問題解決の重要性

インタビュアー:
官民連携の難しさや時間軸の違い、暗黙知の活用、そして多様な専門性が交錯する環境。木の会社の事業は、多面的な課題に直面しています。これらの複雑な要素をどのように乗り越え、事業を効果的に推進しているのでしょうか?

能沢:
我々が対峙する複雑な課題を解決するためには、個人の知識や経験だけでは不十分です。必要なのは、多様な視点や知識を持つ人々の意見やアイディアを組み合わせ、新しい解決策を生み出す力です。これを実現するためには、チーム内のそれぞれの知識や経験を最大限に活用し、一緒に考え、一緒にアイディアを出し合うことが重要です。そんなアプローチをとることが、既存の枠組みや常識に囚われず、より柔軟で効果的な解決策を見つけ出すことに繋がります。「集合知による創造的問題解決」を実践する、そしてガイドするというのは、私たち3人が日々心がけていることです。

鳥越:
能沢さんが言われる「集合知による創造的問題解決」を、実際の現場で実践するのは想像以上に難しいです。
机上の議論や計画だけでは、現場の実際の状況やトラブルを完全に予測することはできません。計画通りに物事を進められないことの方が多いので、事前に準備した体制や知識だけでは困難な対応が多発します。

あと、コミュニケーションの難しさもあります。危険が伴う現場での作業や、人の主観が大きく影響する状況では、よりフィジカルで直接的なコミュニケーションが求められます。でも、森林づくりは山の中で、早朝から。製炭は炭窯で夜通し作業なんてこともあります。そして私たちは庁舎やオフィスにいる。能沢さんなんて東京からオンラインですし(笑)。

能沢:
今日は美波町にいますが、私は普段は東京にいて。コミュニケーションは主にオンラインになっています。中村くん、鳥越くんとはほぼ毎日、顔を合わせていますが(笑)。
私たちの事業の特性上、計画の不確実性が高く、緊急性を伴う対応や意思決定が日常茶飯事です。更にメンバーの活動している場所は、山の中や製炭窯と、オフィス。空間も時間も異なる状況下では、情報や知識の属人化を促進してしまうリスクがあります。だからこそ、難易度は高いものの、集合知を最大限に活用し、創造的に問題解決をするアプローチが我々にとっては必要不可欠だと感じています。

中村:
私が重視しているのは、関係性の構築です。私自身、森林や製炭の専門知識はほとんどありませんでした。だからこそ、最初から「私は素人です、教えてください」というスタンスで臨みました。それが、内部の現場メンバーはもちろん、外部のステークホルダーとの信頼関係を築く第一歩だったと思います。そして、お互いの前提知識や認識を強く意識するようになりました。これにより、誤解や認識のズレを防ぎ、より効果的なコミュニケーションが可能になります。

全体を捉える問題の本質的把握

中村:
私がこれまでのプロジェクトを通して特に痛感しているのは、問題の本質を理解することの重要性です。単に「なにが起きているのか?」を知るだけでは不十分で、その背後にある本質や原因を理解して「どうなることが目的なのか?」を明確に設定することが、本当の意味での解決に繋がるというのを感じています。
それには、問題を部分的に捉えるだけではなくて、全体を俯瞰して捉える視点も大切になります。全体を客観的に捉えつつ、リスクを自分事として捉えて意思決定し、プロジェクトを推進していくことを心がけています。なかなかできないんですけど(笑)。

能沢:
問題の本質を捉えて、どういう解決を目的とするか定義するというのは本当に重要なことだと考えています。ただ、意識するだけではなかなかその実践は難しいので、そのガイドとなるようなフレームワークや思考ツールをいくつか使っています。その中でもよく使うものが3つあります。

一つは「システム思考の氷山モデル」です。これは、問題の表層だけでなく、背後にある要因や構造を探るモデルです。眼の前で起きている出来事は、水面から出ている氷山のごく一部でしかない。その出来事のパータンや、それを起こしている構造、その構造を作っているステークホルダーの意識・無意識の前提が層を成していることを表しています。
メンバーの間で、このモデルが共通理解になっていることが、議論の質とスピードを向上させていると思っています。

社内レクチャーで用いている「システム思考の氷山モデル」の図

次に「因果ループ図」です。多くの要素が複雑に相互作用する全体像を把握するために描く図です。私たちの事業は様々な変動要素が複雑に作用しあっていて、かつ、日々変動しています。例えば、原木の伐採、搬出、搬送は、製炭の工程と連動させる必要があります。これに天候、原木の質、重機・人員の配分などが加わり、複雑な相互作用が生まれます。これらを把握、予測することが困難なのですが、因果ループ図を描くことで、その状況を視覚化して、社内で共有、検討しています。
因みに、因果ループ図はちゃんとしたお作法があって、それに則って正しく描くのはなかなか難しいです。ので、私たちが描く時は、厳密なルールに則ることよりも、多少お作法から外れていても、自分たちが状況を把握・検討できることを優先しています。

製炭と伐採業務の相互作用を可視化した因果ループ図

最後に「ステークホルダーマップ」です。プロジェクトに関わる個人やグループ間を流通する利害や情緒を視覚的に表現します。ここで気をつけているのが、人中心で考えるということです。
ついつい物や金、効率ということに注目してしまいやすいのですが、関与者の目線で感じる感情や価値も同様に重要です。直接的な関与の先にある間接的な関与を可視化することで、全体最適の在り方を検討できるようになります。これを描いてみると、これまでは不満の矛先だったような人に対して「この人、こんな大変なんだ…可哀想だな…」なんて気持ちになることが起きます(笑)。

木の会社の事業に関わるステークホルダーマップ

中村:
能沢さんが紹介してくれたフレームワークや思考ツールを活用することで、私たちは複雑な情報を効果的に整理し、共有することが可能になりました。これは、創造性、業務効率という観点でもかなり効果があると思いますし、同時にリスク管理という観点からも意義があると感じています。個人的には、氷山モデルのレクチャーを受けた時には雷に打たれたような気分になりました。心当たりがあることが満載で(笑)。因みに、うちの奥さんに仕事の相談ごとをされた時に氷山モデルを説明したら、妻も雷に打たれていました(笑)。

鳥越:
正直この会社の手法を自分のものとして扱うのに多少時間はかかりました。ですが、過去の自分の勉強方法は視覚で覚えたり、理解することが多かったので、扱いに慣れてきてとても自分に合っていると感じています。まだ、自分の理解を表現すること、それをわかりやすい構造で表現することに苦労していますが。

効率的なプロジェクト運営

インタビュアー:
「集合知による創造的問題解決」のアプローチと、活用しているフレームワークやツールについて非常に興味深いお話でした。プロジェクトの内容が多岐にわたり、情報量も膨大で、さらには複数のプロジェクトが同時に進行しています。これだけ多くの要素が絡み合っている状況で、チームはどのようにしてプロジェクトを効果的にマネージメントしているのでしょうか?具体的な進行方法や、使用しているツールなどについて、もう少し詳しく教えていただけますか?

中村:
まず、プロジェクトの全体像を把握し、効果的なコミュニケーションを確保するために、8つの異なる会議体を設定しています。これらの会議体は、事業活動における対話を全網羅することを目的としていて、チーム内での情報共有と意思決定のプロセスをスムーズに進めるための核となっています。
これらの会議体を中心に、チャットツール、プロジェクト管理ツール、データストレージ、オンラインホワイトボードを連携させて管理しています。そうすることで、情報の一元化とアクセスの容易さを実現し、チーム全体での情報共有とコラボレーションを促進しています。
チャットツールは「Slack」。プロジェクト管理ツールは「monday work management」。データストレージは「Google Drive 」。オンラインホワイトボードは「miro」を使用しています。
会議体で発生したアジェンダは、リアルタイムでmonday上で可視化し、関連する会議体に振り分けます。各会議体では、会議の冒頭でアジェンダリストを重要度と緊急度を評価し、優先順位を決定します。これにより、重要な課題が見逃されることなく、効率的に取り組むことができます。

鳥越:
僕はまだまだ社会経験が浅いので、他との比較はできないですが、限られたメンバーで、多様なプロジェクトを議論、検討、実行していかなければならない状況で、会議体を中心にアジェンダが管理され、各ツールが連動して表現されているというのはわかりやすく効率的だと感じています。

能沢:
会議体であがったアジェンダは、monday上でスケジュールと成果の仮説を設定されることで、プロジェクトとして取り扱われるようになります。プロジェクトの初期段階で要求の詳細化やコスト設定をしていきます。
プロジェクトは、都度、方向性を見直し必要な調整を行う柔軟性が求められます。 状況に応じてプロジェクトの連携や統廃合を行い、再設計することも重要です。これによって、社内のリソース調整や、取引先のカウンターパートを変更するなど、ステークホルダーマネージメントにも影響がでます。
ツールとその運用はもちろん、会議体の設計を中心としたプロジェクトデザインの全てが連動していることが重要だと考えています。

創造的問題解決がもたらす多面的な成果

インタビュアー:
今日お話しいただいた内容を通して、「集合知による創造的問題解決」が、プロジェクトの進行だけでなく、森林活用、官民連携、地域社会にも大きな影響を与える可能性があることがよくわかりました。これらの分野での具体的な成果や変化を、もう少し詳しく教えていただけますか?また、これからプロジェクトを推進していく上で、どのような仲間や力を求めているのでしょうか?

中村:
まず、森林活用に関しては、持続可能な資源管理と新しい利用方法の開発を通じて、森林の価値を最大限に活かすことを目指しています。これにより、地域経済の活性化とともに、森林そのものの健全な維持管理が可能になります。

官民連携については、異なるバックグラウンドを持つステークホルダーとの効果的なコミュニケーションを通じて、包括的なプロジェクト運営を目指しています。これにより、公共の利益と民間のイノベーションが融合し、より大きな成果を生み出すことができます。

鳥越:
会社として、3期目で一通りの設備や人員が揃い、ある程度の実績ができてきた中で、現在のステークホルダーとのより密な事業計画に、新たなステークホルダーとの関係構築など、今後さらに頭も体もフル回転できる環境になると思います。
ハードですが海山川空、リフレッシュには困らない場所です。山の中や製炭窯からミーティングに参加することもあります。現場重視で移動も多いですが、これも程よいリフレッシュになって、移動中も頭の中では業務の整理が進みます。
海も川も生態系を考えれば全て繋がっているので、そういう意味では全ての場所が遊び場、仕事場になり得ます。

能沢:
地域社会と森林関係人口の増加に向けて、私たちの取り組みがポジティブな影響を与えることを強く期待しています。地域社会の活性化と持続可能な生計の確立は、私たちの最終的な目標の一つです。森林と共生し、そこで生計を立てることの価値を人々が再認識し、結果として森林関係人口が増加することを願っています。

これからのプロジェクトを推進していく上で、私たちは創造的で柔軟な思考を持ち、異なるバックグラウンドを持つ人々と効果的にコミュニケーションを取ることができる仲間を求めています。不確実な状況の中でも冷静に判断し、迅速に行動できる力を持つ人材が必要です。私たちと一緒に、新しい価値を創造し、社会に貢献していく意欲のある方々をお待ちしています。


「長期研修受け入れ」と「採用」

木の会社では、⾃治体の職員や企業の担当者を対象に、新しい視点を持つ⼈材を募集します。特に、中⼭間地域の地域活性化、森林問題やグリーンファイナンス、ESG経営に関わる⽅々に、実践的な経験を提供する⻑期研修プログラムを⽤意しています。
また、正社員も募集します。私たちのビジョンに共感し、⼀緒に成⻑
していく熱意ある⽅々の応募をお待ちしています。
是非、下記フォームより、お問い合わせください。


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