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それキケン② ~伝染する負の連鎖~

身近で起こったサスペンス


以前勤めていた会社で
中途入社して数か月経ったとき、
お金がなくなる事件があった。

ある日、会社内で開催される飲み会の
参加費用を集金されることがあって、
お釣りの要らないよう、数千数百円、
きっちり準備して待っていた。

しかし、集金役の幹事に急ぎの用件が入ったため
途中で集金は打ち切られ、集金されなかった人は
翌日払うことになった。


財布にお金が入っていると
安心してちょこちょこ使ってしまう癖があって
また、改めてきっちり会費を揃えるのも面倒だったので
会費の金額を机の引き出しにしまったまま、
その日は仕事を終え、会社を後にした。


そして翌日、今日は会費を払わなければならないので
引き出しから取り出して準備しようと思ったら、

ない。


奥を探したり、下に落ちていないか
いろいろ探したが、

ない。


そして幹事がやって来る。

まだ財布の中には
かろうじて参加費分残っていたので
仕方なく、財布の中から支払った。


そんなはずはないだろう、と
支払ったあとで、改めて机の中も外も調べたけど

やはり、ない。


さすがに諦めた。

中途で入社して、
そこまで時間が経っていなかったので
騒ぎ立てるのは気が引けた。

だから、周囲に話すこともせず
事実だけを受け止めた。

そもそも、自分が不用心に
鍵のかからない机の引き出しに
現金を入れたままにしたことを
反省した。


当時の社内も、オフィス内は清掃業者に
掃除をしてもらっておらず、
自分たちで行っていた。

ということは、
外部のひとが社内に入る可能性は低い。

つまり、
「手癖のいい社員がどこかにいるんだろうなぁ」
と思った。

後輩社員からの、カスリ(みかじめ料)


別のある日、
オフィスの入居する建物の1階スペースを借りて、
プチファミリーセールが開催されていた。

そこで、担当していた海外の新鋭ブランドの
サングラスが販売されていた。


驚いて、二度見した。


なぜなら、そのサングラスは、
販促キャンペーンなどを行う際のノベルティとして
ブランド側から無償で提供されたものだったから。

それに値段をつけて、
現金のみで販売していた。

結局、市場価格に比べたら安く、
またけっこうカッコいいサングラスだったので
自分も購入した。

棚卸除外品の販売で
しかも現金のみの決済。


当時は、違和感を感じながらも
それを掘り下げるだけの時間的余裕と知識もなかったので
それ以上、何も思わなかった。


しかし数年後、後輩も増えてきた頃に
あるベテラン社員とお酒を飲んでいて
衝撃的な話を耳にする。


「時々、ビルのロビーでやってるファミリーセールあるだろ。
あれって在庫商品以外も販売してるの知ってる?」

「知ってます、サンプルとか時々買ってますよ。」

「バカだなぁ。サンプルなんて言えばもらえるのに。
それより何よりそんなの買ってたら、仕切ってるオッサンたちの
飲み代払ってるようなもんだよ。」

「・・・。」


え、まぢかよ。何だそれ。

衝撃的な事実を受け入れられず、その後、
言うまでもなく、お酒のペースは上がっていった。


つまり、そこで行われていたセールはこういうこと。

棚卸除外品など帳簿にないものが多く販売されていて
全額とは言わないまでも、売上の一部が着服、横領されていたのだ。


あぁ、ヤバい会社入ってしまったなぁ。。と思いつつ、
他にも何かあるんじゃないか、とアンテナが敏感になっていく。

膨らむ疑念、でもゴチになります!


すると、また別の日にこんなことがあった。

社歴が浅いので、休日に行われるファミリーセールや
東京ビッグサイトなどの外部で行われる催事にはよく駆り出された。

ある日、ビッグサイトでの催事のヘルプに行ったとき、
なぜか歓待を受けた。
ランチもごちそうになり、仕事終わりの酒代も
全てその担当者が支払ってくれた。

休日返上だから気遣ってくれているんだろうと思っても
少し後ろめたい気もあった。


また別の日も、御馳走してくれる。
御礼を伝えつつ、経費で処理してるんだろうなぁとは思っていたが、
時々、催事の隣のブースで仲良くなった他社の人たちの分まで
支払っていることもあった。バブルの時代でもないのに。

催事の売上額はそこまで大きくなく、セール販売をしているので
粗利も多くない。
出店費用や配送費、什器レンタル、人件費など諸々考えると、多分赤字。

その部署がそこまで交際費使えるのか?
まさか、自腹で?

いや、そこまで払える給与水準の会社じゃない。
どうしているんだろ。


自分だけ歓待してくれてるの?何も出ないよ、と思いながら
同じようにヘルプに行った同僚に聞いてみた。

すると、同僚も同じように
ごちそうしてもらっている、とのことだった。


そうなんだ。
でも、なんだか、怪しい。。


ある日、催事責任者が店頭でお客さんと話していて、
口頭で値引販売していた。

あれ?口頭で値引って、そこまでの裁量認められているのかな?
一応ブランドビジネスだし、そんなに融通きかないはず、
と不思議に思った。


また他方で、まだセール対象に指定されていない商品が
箱の中に大量に入っていて、転売目的と思われる、いわゆる転売ヤーに
まとめて販売しているのを目撃した。

そのやり取りは馴れ馴れしく、
転売ヤーとは顔なじみのようだった。


なるほど、これが錬金術か。

レジはPOSなどの単品管理でなく、
金額と数量を手入力する、簡易的なレジを使っていた。

ということは、在庫情報とは連動しないレジ。
だから、悪意を持って臨めば
色んなことができてしまう。

クレジットカードの金額や件数はいじれないけど、
レジの操作は売上の取消も金額の訂正もできてしまう。

現金売上の調整なんか、お手の物だ。
社内交際費以外も、捻出しているのだろう。


また、闇を垣間見てしまった。


マジメにやってる自分が、バカバカしくなる。

「いかん、ここでダークサイドに引き込まれたら、同類だ」

以降、自分の飲み食いした分は受け取りを断られても
強引にお金を渡し、
強い意志で?自分のスタンスを貫く。

大胆になる犯行、優秀な捜査官が追い詰める


似たり寄ったり、どこの部署でも
当たり前のように同じようなことが行われていた。

ベテラン社員はそういったことに
疑問を抱くというより、年次が進むにつれ

「ようやく自分の番、これでオイシイ思いができる」
という感じだった。



そして、そういった思いが大きくなって
どんどんエスカレートしていき、

ついに文明の利器を使って国内全域を対象とした
小遣い稼ぎが行われるようになる。


ある日、仲の良かった先輩が

「ん?なんだコレ」
と言って、PC画面を見せてきた。

覗いてみると、自社商品が
ヤフオクにたくさん出ている。

当時から転売ヤーがたくさんいて、
さまざまルートから仕入れ、
さまざまなルートで販売していたので
大して珍しくなかった。

「どうかしました?」

「よく見てみ。変じゃない?」

「え、どこか変ですかねぇ。
バイヤーとか転売業者じゃないですか?」

「違う違う、商品だよ」

「あぁ、なるほど!」


当時、主力ブランドの商品企画や販売よりも
新規ブランドを担当していたので、すぐに気づかなかったが
発売されて間もない主力ブランドの商品が並んでいたのだ。

発売されて間もない商品は数量が少ないので、
基本、正規ルートでしか販売されない。

しかも、正規ルートなので定価販売だ。
定価で仕入れて、定価以上で販売する転売ヤーもいるが、
希少性の高さなどのプレミアがつかないと、成り立たない。

だから、転売ヤーは大抵、セールや催事、もしくは正規店での
大幅なポイント還元時期を利用して大量購入し、仕入金額を抑える。


でもヤフオクで見るその新作の価格は、
定価よりだいぶ安い入札開始価格になっていた。


では、生産工場から直接流れたのか。

いや、生産工場も新作の納品はスケジュールがタイトなので
余剰商品をつくることは難しい。
滞留した古い商品を闇のルートに流すことはあっても、
新作を流すのは考えにくい。


社内から流れているのではないか。。

あまり想像したくないことに踏み込んでいくことになるが、
いろいろな契約もあって、不正が事実であれば
会社としての責任も問われるので、その先輩は少し調べることにした。

ヤフオクは出品者の発送地を開示する義務がある。
すると、出品者の発送地は本社のある首都圏近郊とは
異なる場所になっていた。

でも、
その場所にも、事業所が、ある。


そこは小規模で人数はごくわずか。
更に、ヤフオクに出品できる知識を
持っているだろう人も、限定される。


「アイツかもしれない」

その先輩は目星をつけた上で、
勘付かれて全てのデータを消されないよう
その事業所から怪しい人物が本社に来るタイミングで
直接自席に呼んで、PC画面を見せることにした。


「ビンゴ」

後から聞いた話では、

「新作が出品されてるとかおかしいよね。
この地域から発送されてるみたいだけど、
何か心当たりある?」

と怪しい人物に質問したところ、
大きく取り乱して、大量の汗をかきながら
とぼけていた、とのことだった。


そしてその夜、全てのデータがヤフオクから消された。


タイミング的に、ほぼクロ。


数日後、役員が聞取り調査をしに
その事業所へ出張し、
社内では一切、公にされないまま
月末、その社員が消えていた。

「責任を取って退職に同意すれば、
外に情報は出さない」

という密約がされたそう。
聞けば、家族ぐるみで発送などの作業を
行っていた、とのこと。

会社から持ち出した商品なので、
仕入は0円。

家族がそういった事実を認識しながら
加担していたかどうかまでは、聞いていない。
でも、違和感はあったのではないか。


大なり小なり、どんな組織にも不正はあると思うけれど、
今、世間を賑わせている芸能事務所のニュースも含め

特殊な環境にずっといると、その環境が普通になり
何も疑問を抱かないようになって
その価値観に染まっていくことに恐怖を感じた。



ちなみに、ヤフオクに気付き、
調査を行っていた先輩もプロパー社員でなく、
わたしと同じ中途入社組だった。


まだこの組織の価値観に染まっていない人を
社内に見つけられ、とても安心した。

キケンから身を守るには、遠ざかるのが一番。


あちこちで当たり前のように犯罪が起こっている中、
それが常識で何の疑問も感じられない組織では
自浄作用は期待できない。


こういった組織はキケン。
キケンというより、アウト。


経営陣、主要管理職が
一気に外部人材に変わらない限り、
状況は変わらない。


もし、こういった組織に入ってしまい、
他社に買収されて主要人員が入れ替わることが見込めないのであれば、
今すぐでなくとも、中期的には
その組織から離れることを、強くおすすめします。


運悪く自分がいるタイミングで公になると、
加担していなくても経歴にキズがつくリスクもあるし、
長い時間を掛けて培った「常識」を変えるには
やはり長い時間がかかるから。



長文をお読みいただき、ありがとうございました。
また改めて、別の危ない兆候も記したいと思います。


最後までお読み頂き、ありがとうございます。

マネジメントでお悩みの方、
管理職になって日が浅い方、
上司の考えに「?」と思っている方、
カッチカチに古い体制の会社に疑問を持たれている方、
などなど。

お仕事でそんなお悩みを持たれている方に向けて
発信していきたいと思います。

 きのした

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