初めての始まり
こんなに 大きい
こんなに 爪が鋭い
こんなに 牙があって
こんなに 怖い顔
そうだよ 僕は怪物だ
あの人間達も言ってた
「怪物は 町に近づくな」
だから 僕は 洞窟に 閉じこもる
洞窟は僕のことを守ってくれる
町のみんなも僕がここにいると安心するだろう
これでいい
これでいいんだ
そう思いながら
安心して 隠れていた
.........
知ってる
本当はこんな穴ぐら嫌だ
みんなが 怖がって 怒るから
逃げてきただけだ
僕は なんだ
怪物ってなんだ
誰も傷つけやしない
みんな 僕のことを 邪魔者扱いして
なにも知らないくせに
人間は嫌な奴らなんだ
......
いつのまにか少女は そこにいた
その少女は 僕に言うんだ
「なんで 人間を嫌うの?」
(だって 僕を知らないくせに あいつらは!!)
「ふーん...そりゃあ、みんな知らないし、怖がるの当たり前だよ」
(どうしてさ 僕は 何もしていないのに)
「だって、何もしてないから」
僕は いつの日からか
誰かのせいにしていた
勝手に 逃げて 勝手に 隠れて
勝手に 自分を怪物だと思い込んで
「私は あなたのこと 可愛いと思う
おっきくて けむくじゃらで ヌイグルミみたい それに優しそうな顔してる」
そんなこと 生まれてから 初めて言われた
少女は僕にキスをした
誰かを包みたいと自分から思ったのも初めてだ
この大きな体は君を包むために
この鋭い爪も牙も君を守るために
だから持って生まれたんだ
僕は少女を背に乗せて朝陽の方へ歩き出す
「あなたの名前は?」
(僕は怪物だよ。名前はあったような気がするけど忘れた)
「同じね、私もよ。みんなは 姫としか呼んでくれないの」
(ヒメ 素敵な響きだ いい名前だね 可愛い君にとても似合ってる)
「可愛い?初めて 言われた....ふふふ...あなたにヒメと呼ばれるのは悪くないかも、優しい優しいカイブツさん」
なぜだろう 僕もヒメに そう 呼ばれると なんだか 嫌な気がしない
いい天気だな
ヒメはいつの間にか僕の背で安らかな寝息を立てて眠っていた
僕は歩こう ゆりかごの様な優しさで
こんなに誰かを、こんなに自分を、
こんなに世界を
愛しく感じるのなんて初めてだ