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「「ワクチン敗戦」への処方箋は?」

TONOZUKAです。


「ワクチン敗戦」への処方箋は?

以下引用

2022年4月19日、日本で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する4番目のワクチンとして、厚生労働省は遺伝子組換え蛋白質ワクチンの「ヌバキソビッド筋注」を承認した。米Novavax社の技術を利用し、武田薬品工業が山口県の光工場で生産するワクチンで、初回免疫(1回目、2回目)と追加免疫(3回目)の使用が認められた。2度から8度の冷蔵保存が可能なワクチンで、5月下旬から流通を開始する予定。国内の3回目のワクチン接種率はまだ50%程度だが、今後の接種率拡大に寄与しそうだ。

 COVID-19への対抗策として、国産ワクチンの開発が期待されたが、その取り組みは遅れに遅れた。国内で製造されたCOVID-19向けワクチンとしては、JCRファーマが原液の製造を受託し、第一三共と第一三共バイオテック、Meiji SeikaファルマとKMバイオロジクス、ニプロなどが製剤化を担当した英AstraZeneca社のワクチンの例もある。ただし、日本企業が主体となって国内製造、供給を行うという点ではヌバキソビッドが初めてのケースだ。

 塩野義製薬やKMバイオロジクス、第一三共などによるワクチン開発も終盤に差し掛かっており、これから国産ワクチンが幾つか登場してくるだろう。ただ、米Pfizer社とドイツBioNTech社のワクチン「コミナティ」が日本で承認されたのが2021年2月、米Moderna社の「スパイクバックス」とAstraZeneca社の「バキスゼブリア」が承認されたのが2021年5月だったことを考えると、国産ワクチンは1年以上の後れを取った。このことからも日本のワクチンの研究開発力の乏しさは明らかだ。ヌバキソビッドも国産とはいえ、技術はNovavax社のものだ。

なぜ日本企業は出遅れたのか。ゴールデンウイーク前に「コロナと創薬─なぜ日本の製薬企業は出遅れたのか」というタイトルの書籍を日経BPより上梓した。企業側の課題や行政側の課題を整理したので、ぜひお読みいただきたい。

 「日本企業が出遅れた理由」に対する私見を一言で述べると、日本のワクチンに関する施策が国際標準からかけ離れており、それが故に日本のワクチン産業がグローバル化できていなかったことだ。

 もちろん、衛生などの環境や、医療制度、医療体制は国によって違いがあり、感染症に関する施策がそれぞれの国に応じて異なるものになるのはよく理解できる。ただ、医薬品やワクチンなどの製品に対して、国によって独自の規制を設ければ、その分がコスト高や開発期間の長さにつながることを忘れてはならない。

 例えば、コミナティやバキスゼブリアの一般向け接種は欧米では2020年中に始まっていたが、日本では国内治験のデータを要求したために導入が数カ月遅れた。国内での治験は、2020年12月に予防接種法を改正した際に、国会での付帯決議に書かれたことなので厚労省だけのせいではないが、感染拡大の状況などに応じてもう少し柔軟な対応があってもよかったのではないか。

審査報告書から読み取れるPMDAの対応
 日本と海外の審査の考え方の違いは、審査報告書を読むと浮き彫りになる。ヌバキソビッドはウイルスのスパイク蛋白質の遺伝子を組み込んだバキュロウイルスを、昆虫細胞(Sf9細胞株)に感染させて作った抗原蛋白質と、サポニンを主成分とするアジュバントを使用している。4月18日付けで公開されたヌバキソビッドの審査報告書は、このSf9細胞のゲノムにラブドウイルス科のウイルス(Sf-RV)が混入していることに関して、全体で79ページの審査報告書の2ページ以上を割いて規制当局と企業とのやりとりを載せている。最終的に医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、「リスクが適切に管理されるとの前提で、Sf9細胞のセルバンクを使用することは可能と判断した」としているが、1月に欧州医薬品庁(EMA)が公開したヒト用医薬品委員会(CHMP)のアセスメントリポートのあっさりした書きぶりとは大きな違いがある。

 審査報告書からは、申請者(つまり武田薬品)が「Sf-RV未感染の細胞を用いてGMP生産を行うにはGMP対応細胞株の自社開発が必要となる」「新規セルバンクの樹立および追加の製造プロセス検討には数年を要する」「これまでに製造された製剤ではSf-RVは検出されておらず、また、日本人を含む3万例以上の臨床試験で安全性が確認されている」などと説明しつつ、「今後もSf-RVフリーの細胞基材に変更する必要性については継続的に検討を行う」としてPMDAを納得させたことが読み取れる。

 Sf9細胞株にSf-RVが混入していることは、米国の研究者らが2014年に報告した。しかし、Sf9細胞株を用いて生産した米Protein Sciences(PSC)社のインフルエンザワクチン「Flublok」は、その前年2013年に米食品医薬品局(FDA)の承認を取得していた。その後、PSC社は2017年にフランスSanofi社に買収され、Flublokは欧州やオーストラリアでも販売されてきたが、安全性上の問題は生じていない。

 しかし、日本の当局の対応は違った。PSC社から技術を導入したUMNファーマがアステラス製薬とインフルエンザワクチンを共同開発し、2014年5月にはアステラスが日本で承認申請した。だが結局、2017年1月にアステラスは申請を取り下げ、UMNファーマとの提携を終了した。アステラスが承認取得を断念したのは、PMDAがSf-RVが混入していることに対して慎重な姿勢を崩さなかったからだ。

その後、UMNファーマはSf-RVフリーの技術を確立して塩野義製薬の傘下に入り、COVID-19向けワクチンの開発を進めている。一方、武田薬品はヌバキソビッドの承認後、どれだけ真剣にSf-RVフリーの細胞株への変更を検討するかは分からないが、競合他社が次世代の技術開発にしのぎを削る中で、武田薬品がSf-RVフリーの技術開発に注力しなければならないとすれば、次世代の技術開発に後れを取る要因となりかねない。安全性への配慮を理由に、ワクチンメーカーに対してグローバルスタンダードとは異なる要求を行うことが、企業の競争力をそいでいることを、行政サイドは認識すべきだろう。

 一方で、市場をグローバルに広げなければ、開発などにかけた投資を回収しきれないことは、医薬品業界においてはもはや常識だ。革新的な技術を適用した製品は高額化せざるを得ず、アフォーダブル(手ごろ)な価格で供給するためにも市場をグローバルに広げる必要があるというのは、医薬品だけでなく、ワクチンでも共通していえることだ。

 日本政府はCOVID-19での「ワクチン敗戦」の轍(てつ)を踏まないようにと、2021年6月にワクチン開発・生産体制強化戦略を閣議決定した。2022年3月にはその司令塔となる先進的研究開発戦略センター(SCARDA)を日本医療研究開発機構(AMED)内に設け、研究開発の支援に乗り出した。そうやって種まきをすることも重要だが、グローバルな観点から規制を調和して、日本のメーカーのグローバル展開をサポートすることも、日本のワクチン産業のてこ入れには不可欠だと感じている。




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