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「オミクロン/BA.2株の増殖能と病原性はBA.1株と同様」

TONOZUKAです。


オミクロン/BA.2株の増殖能と病原性はBA.1株と同様

以下引用

東京大学医科学研究所の浦木隆太氏らは、主に動物モデルを用いて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者から分離したSARS-CoV-2オミクロン/BA.2株の増殖能、病原性や、既存の治療薬の効果などを検討し、増殖能と病原性はBA.1株と同程度で、抗体製剤と抗ウイルス薬はいずれも有効だったと報告した。結果は2022年5月16日のnature誌電子版に掲載された。

 オミクロン株の流行は、多くの国でBA.1系統から始まったが、その後少なくとも68カ国で、BA.2株が優勢になった。南アフリカ、スウェーデン、豪州など早くからBA.2株を報告していた国のデータを見ると、BA.2株の方がBA.1株より伝播性が高い可能性を示していた。

 SARS-CoV-2の基準株であるWuhan/Hu-1/2019と比較すると、オミクロン株のスパイク蛋白質には数多くの変異が存在しており、BA.1株では36個、BA.2株では31個の置換が起きている。それらのうち、BA.1株とBA.2株に共通するアミノ酸置換は20個だ。BA.2株とBA.1株の間の差も決して小さくないことから、病原性や伝播力が異なり、既存のワクチンや治療薬の効果が弱まった可能性が懸念された。そこで著者らは、COVID-19患者から分離したBA.2株の増殖能と病原性を、齧歯類モデルを用いて評価し、さらに、治療用抗体と抗ウイルス薬の効果を検討することにした。
 野生型マウスの鼻腔内にウイルスを感染させて、日々の体重の変化を比較した。BA.2株感染群には、BA.1株感染群、非感染群と同様に、体重減少は見られなかった。また、BA.2株感染群、非感染群、BA.1株感染群のいずれも、感染の2日後と5日後の時点で、呼吸機能を示す最大呼気流量の低下を示さなかった。

 感染から2日目と5日目のマウスの鼻甲介のウイルス量を測定したところ、BA.2株感染群とBA.1株感染群の間に差はなかった。肺のウイルス量は、2日目にはBA.1株に比べBA.2株の方が有意に多かったが、5日目にはBA.2株で有意に少なくなっていた。

 感染マウスを対象として組織病理学的な分析を行った。BA.1株とBA.2株の両方がマウスの細気管支と肺胞の上皮に同様に感染すること、ベータ株(B.1.351)と比べると、それら変異株の肺への感染性は低いことが明らかになった。

 感染後1日目、2日目、3日目のサイトカインやケモカインを検出することにより、肺の炎症反応を調べたところ、BA.2株の感染による炎症反応は、ベータ株感染後に比べ限定的であることが観察された。

 続いて、野生型のマウスに比べ易感染性であるヒトACE2(hACE2)発現マウスを用いて一連の実験を行ったが、結果は野生型マウスで得られたものとほぼ同様で、BA.2株の病原性はBA.1株と同様であることが示された。

 次に野生型のゴールデンハムスターを対象とする感染実験を行った。非感染群とBA.2株感染群、BA.1株感染群のいずれの個体でも、体重は徐々に増加していた。3日後、5日後、7日後の最大呼気流量も、3群全てにおいて低下しなかった。感染から3日目の気道のウイルス量を測定したところ、BA.2株の増殖能は、BA.1株と同様かやや低いことが明らかになった。

 肺の炎症反応の程度と、ウイルスRNAおよび抗原の分布は、BA.1株感染個体とBA.2株感染個体の間で同様だった。これらの変異株は気管支に主に感染して、気管支炎/細気管支炎を引き起こすこと、炎症の程度は同様で、従来株や他の変異株と比較すると軽いことを示した。

 感染から7日後のハムスターモデルに対してCT検査を行い、感染個体の肺を分析したところ、BA.2株感染ハムスターでは、BA.1株感染ハムスターと同程度のわずかな炎症しか見られなかった。

 ハムスターにBA.1株とBA.2株を混合して感染させ、その後の鼻甲介と肺での増殖を観察した。感染の2日後と4日後に採取した標本に存在していたウイルスの割合は、ほとんどの場合、BA.2株よりBA.1株の方が高く、優勢であることが示された。

 hACE2発現ハムスターを用いた感染実験も行ったが、BA.2株の病原性はBA.1株と同程度で、肺での増殖能はBA.1株より低いことが明らかになった。

 先の研究では、回復期血漿およびmRNAワクチン接種者の血清の中和活性は、従来株や他のVOCに比べ、BA.1株とBA1.1株で低いことが示されていた。そこで著者らは、BA.2株に対するそれらの中和活性を検討した。BNT162b2の3回接種後14日以上が経過していた人、第1波で感染し、その後2回接種を受けてから1カ月後、3カ月後、6カ月後の人、BNT162b2の2回接種後にデルタ株にブレイクスルー感染した人、BNT162b2またはmRNA-1273の2回接種後にオミクロン株にブレイクスルー感染した人の血漿を用いて、中和試験(FRNT50)を実施した。

 ワクチンを3回接種した人の血漿のBA.1株、BA.1.1株、BA.2株に対する中和活性は、従来株、デルタ株を対象とした場合に比べ有意に低かったが、オミクロン株間の差は有意ではなかった。感染後に2回接種を受けていた人の血漿も同様だったが、従来株やデルタ株と比較した中和活性の低下は、BA.2株に比べBA.1株、BA.1.1株の方が大きかった。2回接種後にオミクロン株にブレイクスルー感染した人の血漿のBA.1株、BA.1.1株、BA.2株に対する中和活性は、デルタ株を対象とした場合よりも低かった。こうした結果は、ワクチンまたは感染によって誘導される中和抗体のBA.2株に対する活性は、従来株やデルタ株を対象とした場合よりも低いことを示し、BA.2株の抗原性がそれらと異なる可能性を示唆した。

 続いて、BA.2株を感染させたハムスターに対して、感染の翌日に治療用モノクローナル抗体である、イムデビマブ/カシリビマブ、チキサゲビマブ/シルガビマブ、またはS309(ソトロビマブの前駆体)を投与したところ、感染から4日後の時点で、肺でのウイルスの増殖は抑制されていた。一方で、鼻甲介での増殖は抑制されていなかった。なお、先に行われた、BA.1株を対象とした同様の実験では効果が見られなかった、イムデビマブ/カシリビマブとS309も、肺におけるBA.2株の増殖を抑制できていた。得られた結果は、BA.2株に対してこれらの治療用抗体は有効であることを示唆した。

抗ウイルス薬のモルヌピラビル(Merck社)、ニルマトレルビル(Pfizer社)、S-217622(塩野義製薬)の効果を検討する実験においては、ハムスターにBA.2株を感染させ、翌日から1日2回、3日間いずれかの薬剤を投与して、感染後4日目にウイルス量を評価したところ、いずれも肺でのウイルスの増殖を抑制していた。また、ニルマトレルビルとS-217622は鼻甲介での増殖も抑制した。

 これらの結果から著者らは、齧歯類モデルでは、BA.2株の増殖能と病原性はBA.1株と同様で、従来株や他のVOCより低く、既存の治療用モノクローナル抗体と抗ウイルス薬は、BA.2株に対して有効であることが示唆されたと結論している。

 原題は「Characterization and antiviral susceptibility of SARS-CoV-2 Omicron/BA.2」、概要はnature誌のウェブサイトで閲覧できる。

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