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書籍紹介:「父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。」その9


前回に引き続き経済学者ヤニス・バルファキス氏の著書
「父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。」の紹介を行います。

前回の内容はこちら。よろしければ読んでみてください。

はじめに~必要なのは自立し考え続けること

最終章でのヤニス氏の未来の予言である、市場社会の商品化によるディストピアの誕生。これに対抗するには、民主主義による国民1人1人が経済を理解し、関心を持ち、議論できる様に成る事。
では、どうしたらその様な考えを持ち、希望ある未来を切り開いていけるのでしょうか。

ヤニス氏はエピローグでその方法を語っています。

エピローグ 進む方向を見つける「思考実験」

結論:知らない間にテクノロジーに取り込まれない様に、自身を客観視する思考を持つこと。

エピローグはヤニス氏の思考実験から始まっています。
もし仮に、映画マトリックスに出て来る様な人間を奴隷とする機械ではく、それとは正反対で完全に人間と信頼し合える機械が有ったとしよう。
その機械は人間に喜びを与え、人間の脳波を読み取り好みも知り完璧な仮想現実を作り上げる。そして、自身の生身の体は機械により完全な健康状態を保障してくる。

この状態であなたはこの仮想現実に参加したいと考えるか。

答えはおそらくNOだと思います。
ただそれが自分でも気が付かない間に仮想現実に組み込まれていたらどうでしょうか?
ヤニス氏はイギリス人哲学者ジョン・スティワート・ミルの言った言葉を紹介します。
「満足なバカより不満なソクラテスの方がいい。」
という何とも毒づいた言葉ですが、言い換えるとと「無知とは幸せ」という意味です。
無知であれば、望まない仮想現実に取り込まれていても気が付かない。ですので無知の反対の何かが必要になります。
そこでヤニス氏はアルキメデスの言葉を引用します。
「十分に長いテコと足場を我に与えよされば地球をも動かさん」
比喩が過ぎて何か良く分からない言葉ですが、人を支配するには、物語や迷信を与え外を見えないようにすればいい、但し今の世界を一歩外に出て、外から自身を眺めてみると、なんて愚かだか分かる。という意味との事です。
部外者の様に客観視して自分の状態を見てみると答えは出る筈とヤニス氏は言います。

さらに最後にヤニス氏のお気に入りの詩で締めくくります。

「私たちは探査をやめる事はない
 そしてすべての探索の終わりに
 出発した場所にたどりつく
 その時にはじめてその場所を知る」

最後に、

私はこの本でヤニス氏の考えに触れる事が出来て良かったと感じます。
良い本は読んだ後に自分の行動が変わる本だと誰かが言っていましたが、まさに私にとって良い本に該当します。
ただ、読み始め序盤に感じた事は、ヤニス氏はギリシャ人という事もあり、説明の比喩が日本人の感覚では分かりにくい。メフィストフェレスやフォータスのマーロウの戯曲やルソーやミノス王の例えは、世界史に詳しい人は分かるだろうが、少なくとも私は当初はピンと来なかった。しかしこれらのピンと来ない比喩を自身で調べながら理解していくと、パズルゲームを一つ一つ説いている様な感じで小さい高揚感を感じる事ができる。意外と楽しい。この分かりにくい比喩はあえての作戦かと思えるほど、どんどん読んで行ける。

内容が分かって行くにつれ、ヤニス氏の言う、現実世界の不条理に改めて気づかされる事となります。
市場を破壊し続ける商品化は、まさにGAFAの事でしょう。人々は知らない間に無料という名の仮想現実に取り込まれる。
Appleは他とちょっと異なりますが、Google検索でみんなの検索ニーズを把握する。Youtubeで時間を浪費し広告収入を得る。FaceBookで個人の情報を入手する。Amazonの顧客データ、ビッグデータ構築に協力する。などなど既にテクノロジーに支配されている現状を目の当たりにします。
ヤニス氏はテクノロジーも民主化しろと言っていますが、分かって言っていると思いますが相当険しい道です。
Googleに「検索機能のアルゴリズムを民主化し公開しなさい」とか、Amazonに「AIのアルゴリズムを民主化し公開しなさい。」と言っても、言う事を聞く筈がないし、政治で行動を抑制するのも法律を変えるにも手続きが必要で簡単では無いと感じます。
そこで政治以外のもう一つの方法としては、私個人的にはブロックチェーンの分散型のデータモデルに将来の希望を感じています。それは、GoogleもFaceBookもAmazonも全てクラウドの様な中央集約型のデータモデルです。これに対抗しブロックチェーン型の個人個人がデータを保有する分散型のデータモデルをGAFAも気が付かないほど狡猾に普及させる事が出来ればGAFAのテクノロジーに対抗できるのではないでしょうか。ブロックチェーンで理想の社会、ユートピアが構築できるという事を信じてやまない今日この頃です。

最後までお読み頂きありがとうございました。

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