30歳になった元被虐待児のいま

最近、物欲が湧くようになった。

物心がついた頃から物欲がなかった。
誕生日やクリスマスには、さすがに「いらない」とも言えないし、子どもながらにあまり値の張らない金額のおもちゃを買ってもらっていた。
もちろん買ってもらったら遊んでいたけど、何かに物凄くハマるだとかそういうことは一切なかった。

仕事をする意味もわからなかった。
働かなければ食べていけないけれど、それよりも「どうして働かなきゃいけないの?」、「どうしてみんな当たり前のように働いてるの?」と疑問の方が強かった。
だから、働くことは苦行以外の何物でもなかった。
それもあって精神的な体調を崩したのもある。
それだけさっぱり意味がわからなかった。

既に精神疾患で苦しんでいる私に、一般雇用で正社員にさせるために大学に行かせたと親は言っていた。
また仕送りを止められたり、勝手に私の住んでいる家を退居させられるのが怖くて、私は就労困難な状態で一般雇用の正社員になった。

年収は400万円くらいでその点はいいところだったが、その価値もよくわからなかった。
ほしいものだとか考える前に、必ず休職するタイミングが来るはずだからと1年間で100万円貯めた。

旅行とか高い買い物とかしている同世代が少し妬ましかった。
私は物欲がないと言うより、物欲が湧くほどの安全な環境にいなかっただけだった。
お金では手に入らない。
でも、だいたいの人は手に入れてるように見える。

私は物心がついた頃から統合失調症と自閉症のある両親の介護をしてきた。
そしてストレスの捌け口として暴力を受けていた。
多分、精神疾患のある家族がいる人には、暴力って珍しくないんだと思う。
私とは逆パターンで、子どもから物を投げられたりする親御さんがいるといった話も聞いたことがあるし。
でも、子どもが親代わりとなると話はまた別だ。
子どもは守られるべき存在だし、自分の意思で生まれてくるわけでもない。

親とは2度縁を切った。
1度目は通院先の心療内科で私が解離を起こして倒れてしまい、救急搬送された時に両親が来てしまった。
そしてまた親の介護が始まった。

2度目は昨年の夏。
実家は荒れに荒れていて、飼っている犬が肺炎を起こすほど埃まみれだった。
私は当たり前かのようにキッチンのシンク、洗面台、お風呂場を洗い、2~3ヶ月でも両親が掃除できなくてもいいようにという思いで大掃除をした。
相当汚かった。
母親は「本当に大人になった」と初めて私に言った。
でも、なりたくてなったんじゃないんだよ。

結局、また父親が自閉症特有の癇癪を起こし(普段、母との二人暮らしなのに私が来るといつもと違うからパニックになる)、母の妄想が始まって怒鳴り始め、「あんたなんかに何も頼んでない。帰れ」と夜23時に言われた。
もうバスはなかった。

もう十分やってきた、とどこかスッキリした気持ちになった。
落ち着いてさえいた。
もういいだろう、とすぐに両親の電話番号を着信拒否にし、引っ越した。
前にはうちのアパートの廊下で大声を出されて迷惑だったし、もう怖い思いをしたくない。
警察にも相談し、DV支援措置として両親には私の個人情報が見れないようにしてもらった。
あと、父親が個人情報を取り扱う会社で不正な作業をしてたからそれもチクった。
古い情報だから何も罰せられなかったかもしれないけど、私の個人情報を探られたら困るから、虐待の件も全て話した。

私の20代ってなんだったんだろう。
そう思いたくないけど、それが事実だよなって。
20代って若くて綺麗だし、30歳の今に比べると断然出会いが多い。
本当に出会いが段違いに減った。

親と完全に縁を切ってから、常に頭の中が親のことだらけだったのが、自分のことを考えるようになった。
こんな育ちじゃなかったら結婚や出産に前向きだったのかな。
希望を持たないと何事も進まないけど、私には精神的なDVの傾向がある(症状が悪化した親に対して言い返すのが常だったから怒りが湧きやすい)と思うし、普通の家庭で育ってないからどうすれば人と生活できるのかわからないし、どうやって子どもを育てればいいのかもわからない。

でも、親と縁を切って少し落ち着いた今、自分の将来を初めて考えるようになった。
世の中、40代でも60代でも結婚する人はいるけど、出会いの数が断然減った現状を思うと不安になる。

仕事のことも考えるようになった。
初めは、好きなブランドの服がほしいということから始まった。
地雷系やサブカル系の服が学生の頃から好きで、30歳の今のうちに着ないともう着れなくなると思った。
そういう系統のブランドって高くて、例えばパーカーなら15000円くらいする。
臨時収入でもないと買えないし、お金を貯めて買っても貯金は底を尽きる。

普段の生活でも今時期はお金がカツカツ。
現金は15000円あって、aupayが残り3000円くらい。
その現金も手をつけられないものだから、aupayでなんとか今月を生きなきゃいけない。

そこでふと、「なんかお金ほしいな」と思うようになった。
この生活はもう3年くらいしているけど、物欲が湧いたのが大きいと思う。
ほしい服を買ったり、たまにはコンビニ飯を食べたり、ウーバーしたり、インテリアにこだわったりしたい。

今はクローズで週2回バイトしてる。
週3だと体調を崩してしまった。
社会人になりたての頃は年収400万円もあって困らなかったけど、本来の私はこれくらいしか働けないのだと思う。
そこそこの国立大学を卒業してるだけに悔しい。

でも、ドクターからは「就労困難。ゆくゆく週1で働けるようになれるといいね」と言われていたけど、特に体調を崩すことなく週2で働けている。
ドクターの話には耳を傾けているようにしているけど、結局決めるのは本人だと強く思った。
それに、大学時代は普通に週2~3でバイトしていたから、そりゃ働けるわけだ。

あと、「希望を持つこと」の大事さに気付いた。
仮に本来できることであったり、頑張ればできることでも、自信をなくして希望をなくしてしまえば挑戦することさえしなくなってしまう。
それに、そういった人間を魅力的に思う人も多くないと思う。

今の仕事は段々楽しさが分かってきた。
中古屋の事務員なんだけど、私の好きなカメラ用品を触る時が特に楽しい。
職場の人も優しく、そして緩く、更によく仕事の出来を褒めてくれる。
私は自分の中で人間不信や恐怖があるだけで、仕事のスキルには問題がないタイプ。

自分で言うのもあれだけど、なんかもったいないよね。
でも最近、変な猜疑心とか人間不信とか減った。
人の発言をそのままスっと受け止めるだけにできたり、自分からも交流を持つことに抵抗がなくなってきた。
それでも、笑顔はぎこちないけど。

まだ始めたばかりの仕事だし、フルで働ける状態ではないけど、いつか中古カメラの専門店で正社員になりたいなってちょっと思うようになった。
求人見ても全然ないんだけどね。
やっぱり今はバイトだから、仮にフルで働いても月収は11万円。
もしフルで働ける状態になったら正社員になりたい。

なんて、最近は思うのでした。
普段は家族のことを考えなくなったけど、きょうだいの命日があったのでちょっと考えていました。

30歳でも人生まだ遅くないですか?
私の人生は私だけのものだし、生きていたらわかる。
だから、不安がありつつもこれからが楽しみでもあります。

似たような状況で悩んでいる人に少しでも希望を与えられるような人間になれたらいいな。

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