見出し画像

東大院卒と働く中卒が学業を放棄するまでの話②/⑨

〜前回までのお話〜
学業大嫌いっ子でやり場のないエネルギーを教員への反抗に注いでいた少年(私)は中二の春、シカゴ帰りの巨漢同級生に一緒に帰ろうと誘われ、ビビりながらも好奇心から彼と帰路をともにすることに。
これが少年(私)の人生に大きな影響を与えることも
知らず……

・まくら

この世には「あらかじめ決められた運命」はなく
「全知全能の神」は存在しないらしい。
それはグレゴリー・チャイティンというおっさんが
数学によって証明したという。
要するに人生で起こるすべての出来事は
偶発的なものだと。

私はこのことについて深く調べてみようと試みたが
Wikipediaに掛かれている内容すら理解できずに
断念した。
そうだった。私は学業には向いていないのだった。

・Bボーイの「グルーヴ」

さて、始業式ということで午前中に開放された
我々。
疲れどころか眠気も覚め、
活動的になっている時間帯に
直帰しろ、と言うのは無理な話だ。

案の定、シカゴ帰りの巨漢は
「腹が減った。マックが食いたい」
と言い始めた。
アメリカ仕込の本能に忠実なフリーダムさは
ある程度、予想していたが
見事にそれを裏切らない。

が、学校から駅までの道すがらに
寄り道や買い食いするのはリスクを伴う。
教員に見つかりでもすれば担任にチクられ、
鬼のごとく恐ろしい部活の顧問にチクられ、
ビンタ数発と罰トレという名の下に強要される
ドS教員の趣味に付き合わされる覚悟をせねば
ならない。
それは "できる限り" 避けたかった。

よって私と巨漢は自宅方面へ向かう電車に
数駅、揺られて「ここなら教員に見つかることはなかろう」と思われる適当な駅で途中下車しマックに入った。

電車内で話していて気がついたが、
彼は身体こそタメと思えない完全体だが
どこか愛嬌があり、日本文化に疎く、
中身は純粋で適度にワガママな屈託ない
「デカい子ども」だった。

そして話し方に独特の「グルーヴ」がある。
いつの間にか彼の会話のペースに巻き込まれた。
そして私も彼の口調に引っ張られる。
自然と彼のような話し方になってしまう。
それがカッコいいとか悪いとかではなく。

ほんの数十分前までビビっていたのが
嘘のように私は彼に心を開いていた。

・マックにて

マックで巨漢がハンバーガーとコーラしか
頼まなかったのを覚えている。
ハンバーガー10個くらい食いそうな彼も
所詮は中学生。暇はあっても金はない。
恐らく私もなけなしの金で同じものを
注文したんだと思う。

私はそのころから音楽が好きだった。
主にブルーハーツなどロックに寄った音楽。
しかし洋楽はビートルズしか聴いたことが
なかったと思う。
そこで彼の音楽の好みを尋ねた。

帰ってきた答えは
PUBLIC ENEMY と N.W.A
初めて耳にするグループ……。
どうやらラップというものらしい。
当時から日本にもラップのアーティストは
存在したと思うがアンダーグラウンドも
アンダーグラウンド。
ヒップホップなんて名称も浸透していなかった。

ラップという音楽を知ってはいたが
英語を聴き取れない自分が黒人の「喋り」を
(当時はそのように認識していた)
聴いて楽しめるとは到底、思えず、さらに尋ねた。

「アメリカで今一番人気のあるロックバンドは?」

Guns N' Roses

彼の回答はカッコいいのかダサいのか
判断できかねる変わった名前のバンド。
なにやら映画「ターミネーター2」の
主題歌はそのバンドの曲だったという。

そのときはまだ「ふーん、そうなんだ」
といった感じだったのだが、
食事を終えたのちに立ち寄った本屋にて
少年の私はドSの部活顧問から喰らうビンタよりも
強烈な衝撃を受けることになる。

それは偶発に偶発が重なったことによる
「運命」だったんだと思う。結果的には、だが。

その衝撃については、また次回に。

なかなか「学業を放棄した」という本題に
たどり着かない。
しかし、そこに至るまでの過程なくして
語れないので話が長くなるのは仕方がない。

この記事が参加している募集

沼落ちnote

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?