JW155 母と子
【孝霊天皇編】エピソード10 母と子
紀元前282年、皇紀379年(孝霊天皇9)となった。
そんなある日のことである。
第七代天皇、孝霊天皇(こうれいてんのう)こと、大日本根子彦太瓊尊(おおやまとねこひこふとに・のみこと)(以下、笹福(ささふく))の元に、一人の人物がやって来た。
阿蘇国(あそ・のくに)の人、速瓶玉命(はやみかたま・のみこと)(以下、パヤオ)である。
パヤオ「オル(私)が、パヤオばい。エピソード86以来の登場ばい!」
笹福「し・・・しばし待たれよ! エピソード86と言えば、二代目様の御世ではないか?」
パヤオ「その通りですばい! 二代目様の御世に登場したとです。」
笹福「そ・・・そのような御仁(ごじん)が、まだ生きておると?」
パヤオ「心配なかっ。オルの父上、健磐龍命(たけいわたつ・のみこと)は、神八井耳命(かんやいみみ・のみこと)の息子とか、孫とか、玄孫(やしゃご)とか、来孫(らいそん)とか、挙句の果てには、雲孫(うんそん)の曾孫(ひまご)という説まで有るとです。」
笹福「ん?」
パヤオ「ですから、いろんな説が有るというこつ(事)で、オルが、大王(おおきみ)の御世に生きとっても、なぁんも、おかしく無かとです。」
笹福「さ・・・左様か・・・。」
パヤオ「そうたい(そうです)!」
笹福「そ・・・それで、ヤマトに来られた理由(わけ)は?」
パヤオ「何(なん)言うとぅと!? 今年、大王が、お命じになるち聞いて、遥々、阿蘇からやって来たとですよ?!」
笹福「わ・・・我(われ)は何を命じたのじゃ?」
パヤオ「仕方なかねぇ。阿蘇神社(あそじんじゃ)の創建たい。」
笹福「なっ! なんと! 今年、阿蘇神社の創建を命じたと申すか?!」
パヤオ「そうたい。そんで、オルを呼び出したんやなかですか・・・。」
笹福「す・・・すまぬ。作者にしてやられた・・・。」
パヤオ「聞いてなかったとですか?」
笹福「と・・・とにかく、阿蘇神社の創建は任せた。よろしく頼むぞ。」
パヤオ「任せてはいよ(任せてください)!」
こうして、エピソード84.9で紹介された阿蘇神社が、今年、正式に創建されたのであった。
そして、あっという間に九年の歳月が流れた。
すなわち、紀元前273年、皇紀388年(孝霊天皇18)のある日のこと。
笹福の元に、大后(おおきさき)の一人、細媛(くわしひめ)(以下、細(ほそ))がやって来た。
細「大王。わらわは、ついにやりましたよ。」
笹福「つ・・・ついにやったのじゃな?」
細「はい! 皇子(みこ)が産まれました! 大日本根子彦国牽尊(おおやまとねこひこくにくる・のみこと)ですよ! 『ニクル』と、お呼びくださいませ。」
笹福「ニ・・・ニクルか・・・。」
そこに、笹福の第一皇子、鶯王(うぐいすおう)がやって来た。
鶯王「母上様。皇子御誕生、おめでとうござりまする。」
細「ウグ・・・寿(ことほ)いでくれるのですか?」
鶯王「弟が産まれたというに、それを喜ばぬ兄が、どこにおりましょうや。」
細「ウグちゃん・・・(´;ω;`)ウッ…。」
鶯王「母上様。その呼び名は、おやめくださりませ。わ(私)は、もう大人にござりまするぞ。」
笹福「鶯王よ。兄として、ニクルを支えてやってくれ。」
鶯王「かしこまりもうした。」
するとそこに、もう一人の大后、春日千乳早山香媛(かすがの・ちちはや・やまかひめ)(以下、山香)がやって来た。
山香「どういうことにあらしゃいますか!? なにゆえ、大王の御世から、誰が誰を産んだか、はっきり書かれているのであらしゃいますか?!」
笹福「如何(いかが)致した?」
山香「先代までは、誰が誰を産んだのか・・・はっきりと書かれていなかったのであらしゃいます。ところが、大王の御世となった途端、はっきりと書かれるようになって・・・。」
笹福「それだけ、記録が残るようになってきた・・・ということではないか?」
山香「されど・・・おかげで、私も真舌媛(ましたひめ)殿も、母親面(ははおやづら)できなくなったのであらしゃいます!」
笹福「そ・・・そのようなことを言われてもな・・・。」
するとそこに、最後の一人、真舌媛(ましたひめ)がやって来た。
真舌「山香殿は良いではありませんか。皇女(ひめみこ)を産んでいらっしゃるでしょう?」
山香「その通りにあらしゃいます。その名も、千千速比売命(ちちはやひめ・のみこと)にあらしゃいます。『チチ』と呼んでください。」
真舌「私なんて・・・私なんて・・・。一人も産んでないのよ! (´;ω;`)ウッ…。」
山香「ですが、娘は『古事記(こじき)』のみの登場にあらしゃいますよ? それも、名のみの登場で、何も活躍しておりませんのや。嘆かわしいことにあらしゃいますぅ。(´;ω;`)ウッ…。」
笹福「ふ・・・二人とも・・・。泣かずとも良いではないか・・・。」
鶯王「母上様・・・。心中お察し申し上げまする。されど、待望の皇子御生誕。国の吉兆(きっちょう)を寿ぐべき時に、涙は、よろしからず。」
細「そ・・・そうですよ。二人の気持ちも分かりますが、今は、めでたい時なのですから・・・。」
山香・真舌「それは分かっているのですが・・・。」×2
するとそこに、笹福と山香の娘『チチ』がやって来た。
チチ「おっとう! おっかあ! オラ、名のみの登場だべか?!」
笹福「チチよ・・・。そんなことよりも、皇子誕生を祝ってはくれぬか?」
チチ「細様、おめでとうございますだ・・・・・・・・・・・・。そんで、オラのことだけんどな。名のみの登場ってのは、なんか気に入らねぇだ。どうにかしてけろ!」
笹福「そのようなことを言われてもな・・・。ど・・・どうすることも出来ぬのだ。許せ。」
チチ「ええぇぇぇ!!!」
こうして、笹福に皇子が誕生したのであった。
のちの第八代天皇である。
つづく
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