JW327 不思議な旅人
【東方見聞編】エピソード10 不思議な旅人
第十代天皇、崇神天皇(すじんてんのう)の御世。
ここで、時は遡(さかのぼ)る。
すなわち、紀元前88年、皇紀573年(崇神天皇10)10月22日。
武渟川別(たけぬなかわわけ)(以下、カーケ)は、東海地方に向けて旅立った。
付き従う者は、下記の通り。
息子の武川別(たけかわわけ)(以下、ジュニア)。
そして、大伴豊日(おおとも・のとよひ)。
それから、久米彦久米宇志(くめ・の・ひこくめうし)(以下、うし)である。
豊日「・・・ということで、ここは何処(どこ)っちゃ?」
カーケ「尾張国(おわり・のくに)なんだぜ。」
うし「えっ? 尾張に立ち寄ったなんて、伝承が有るんすか?」
ジュニア「そんな伝承は、なかったはずです。」
カーケ「せっかくだから、尾張建諸隅(おわり・の・たけもろすみ)こと『ケモロー』に逢おうと思っているんだぜ。」
しかし、そこに現れたのは「ケモロー」ではなく、妻の諸見己姫(もろみこひめ)(以下、ロミ子)であった。
ロミ子「エピソード235以来の登場にござりまするよ。」
カーケ「おお! 久しぶりなんだぜ。ところで『ケモロー』は何処かね?」
ロミ子「夫(つま)は、丹波(たにわ)に向かったのでござりまするよ。」
豊日「ん? なして、丹波に行ったんや?」
ロミ子「彦坐王(ひこいます・のきみ)こと『イマス』様をお迎えするとか、なんとか・・・。」
うし「そっちの方に行っちゃったんすねぇ。」
カーケ「そ・・・そういうことなら、仕方ないんだぜ。それじゃあ、先に進むんだぜ。」
ロミ子「お気を付けてぇぇ。」
こうして、一行は「ケモロー」とは会えぬまま、旅を続けたのであったが・・・。
ジュニア「父上? あそこに面妖(めんよう)な人物が・・・。」
カーケ「ん? 面妖? あの男かね?」
ジュニア「はい・・・。ただの旅人とは思えませぬ。」
豊日「ちょっと、話しかけてみるっちゃが。」
うし「だ・・・大丈夫なんすか?」
豊日「そこの御仁(ごじん)・・・。しばし、お待ちいただきたい。」
旅人「ん? 皆様方は?」
豊日「『おい』たちは、四道将軍(しどうしょうぐん)の一行やじ。四つの地方に将軍が派遣されたこつ、聞いちょるやろ?」
旅人「おお! 四道将軍の一行にござったか。では『カーケ』様の一行にござりまするな?」
カーケ「その通りなんだぜ。それがしが『カーケ』なんだぜ。」
旅人「お初にお目にかかりまする。我は、多弖(たて)と申しまする。」
ジュニア「して、多弖殿・・・。御無礼を承知で、尋ねたきことがござる。」
多弖「何でございましょう?」
ジュニア「貴殿から、尋常ならざる雰囲気を感じまする。もしや、名の有る国津神(くにつかみ)ではござりませぬか?」
多弖「国津神などと、滅相もない。ただ・・・。」
うし「ただ?」
多弖「のちに、多弖命(たて・のみこと)として祀(まつ)られることにはなりまするが・・・。」
カーケ「なにかしらの伝承に名を残す人物ということかね?」
多弖「我らが出会う場面は、伝承にも『記紀(きき)』にもなく、作者オリジナルにござりまするが、これも神々のお導きにござりましょう。子細(しさい)を申し上げまする。」
ジュニア「よろしく頼みまする。」
多弖「我の御先祖様は、綺日女命(かむはたひめ・のみこと)と申しまして、天津彦彦火瓊瓊杵尊(あまつひこひこほのににぎ・のみこと)こと『ニニギ』様と共に降臨した神にござりまする。」
カーケ「おお・・・。『ニニギ』様は、それがしの遠い御先祖様なんだぜ。」
多弖「承知しておりまする。」
ジュニア「されど、宮崎県の高千穂(たかちほ)に、そのような神の子孫がいたなど、聞いたことがござりませぬ。」
多弖「それは、至極当然のこと・・・。我が祖、綺日女命は、その後、高千穂から三野国(みの・のくに)に移住したのでござる。」
うし「三野といえば、千年後の美濃国。二千年後の岐阜県南部っすね?」
多弖「左様。我は、生まれも育ちも三野にござる。」
豊日「じゃっどん、なして、三野の御仁が旅をしちょるんや?」
多弖「実は、久自国(くじ・のくに)に移住しようと考えておりまして・・・。」
カーケ「久自? 久自というと、千年後の常陸国(ひたち・のくに)の久慈郡(くじ・こおり)のことかね?」
多弖「左様にござりまする。二千年後の地名で言うと、茨城県の常陸太田市(ひたちおおたし)や大子町(だいごちょう)などが有る地域にござりまする。」
ジュニア「なにゆえ、そちらに移ろうと思われたのです?」
多弖「実は『常陸国風土記(ひたち・のくに・ふどき)・久慈郡条(くじぐん・じょう)』に、そう書かれておりまして・・・。して、これを機に、移住しようと思い立った次第。」
カーケ「ようするに、作者の陰謀かね?」
多弖「身も蓋(ふた)もありませぬが・・・。」
カーケ「では、ここで出会ったのも、何かの縁(えにし)なんだぜ。共に旅をしようと思うんだぜ。」
多弖「よろしゅうござりまするか?」
カーケ「何の問題もないんだぜ。」
豊日「作者の陰謀なら、仕方ないっちゃ。」
うし「そういうモンなんすか?」
ジュニア「多弖殿・・・。こちらこそ、よろしゅう御願い申し上げまする。」
こうして、作者の陰謀により、多弖が仲間に加わったのであった。
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?