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JW287 輪韓河の戦い

【疫病混乱編】エピソード39 輪韓河の戦い


第十代天皇、崇神天皇(すじんてんのう)の御世。

紀元前88年、皇紀573年(崇神天皇10)9月某日。

山代(やましろ)で兵を挙げた、武埴安彦(たけはにやすひこ)(以下、安彦)。

これを兄の大彦(おおひこ)が迎え撃つ。

副将に、和珥彦国葺(わに・の・ひこくにふく)(以下、くにお)を添え、両軍が、那羅山(ならやま)の麓、輪韓河(わからがわ)を挟んで、ぶつかろうとしている。

皇室系図(大彦と安彦)
系図(和珥氏)
地図(那羅山)
地図(輪韓河)
地図(輪韓河の戦い)

大彦「安彦! 腹違いとはいえ、同じ兄弟・・・。とても悲しいんだな!」

安彦「兄上! 申し訳ありません。でも・・・僕は、新しいヤマトを作りたいんです!」

大彦「やめるつもりは無いのかな?」

安彦「こればかりは・・・。どうしても、止めると言うのであれば、押し破るのみです!」

大彦「し・・・仕方ないんだな。」

安彦「ところで、兄上・・・。輪韓河ですが、僕たちが戦いを挑(いど)んだことから、挑河(いどみがわ)と呼ばれるようになるそうですねぇ。」

大彦「その後、訛(なま)って、泉河(いずみがわ)になるんだな。」

安彦「二千年後は、何と呼ばれているか知っておられますか?」

大彦「木津川(きづがわ)なんだな。」

安彦「流石は、兄上・・・。」

地図(輪韓河→木津川)

ここで、たまらず、副将の「くにお」が叫んだ。

くにお「安彦様! 解説も、よろしゅうござりまするが、さっさと『記紀(きき)』の台詞を申し述べてくださりませっ!」

安彦「そ・・・そうでしたねぇ。僕としたことが・・・。では、言いますよ・・・。『くにお』よ! どうして、人数を繰(く)り出しているのか?!」

くにお「汝(なれ)は、天津神(あまつかみ)に逆らい、勝手な振る舞いを致し、ヤマトを傾(かたむ)けようとしておる。それゆえ、正邪(せいじゃ)の別(べつ)を明らかにせんと、討伐の軍を起こしたのじゃ。これは、大王(おおきみ)の命であるっ!」

安彦「正邪の別ですか・・・。いいでしょう。どちらが正で、どちらが邪か・・・。汝(いまし)と僕で、弓矢にて決しましょう。」

くにお「承知仕(しょうち・つかまつ)った。」

こうして二人は、共に矢をつがえ、互いに射ち合うこととなった。

まず、安彦が射かけたが、外れてしまう。

次に「くにお」が射かけた。

安彦「グフッ・・・。」

山代衆「ああ! 安彦様ぁぁ!!」×多数

矢は、安彦の胸に命中。

安彦が崩れ落ちると、山代の軍勢は、一目散に逃げ始めたのであった。

くにお「逃すなっ! 追い討ちじゃぁあ!!」

追撃に入る、ヤマトの軍勢。

それを遥かに見やりながら、大彦は、安彦の元に駆け寄り、胸中に抱きかかえるのであった。

大彦「安彦! 安彦!」

安彦「はぁ、はぁ・・・。兄上? いけません。こんな場面・・・『記紀』にはありませんよ?」

大彦「それは百も承知なんだな。でも、兄として、弟の言の葉を聞いておきたいんだな。」

安彦「で・・・では、言わせてください・・・。謀反にしろ、何にしろ、何かを起こす時は・・・勝機(しょうき)が有って、おこなうモノなんです・・・。」

大彦「勝てる見込みということかな?」

安彦「そ・・・その通りです。作者は、川内(かわち)や山代の豪族たちに不満があった・・・と考えています。」

大彦「それがしも、そう聞いているんだな。」

安彦「でもね・・・。それ以外の見方も、有るんじゃないかと思うんですよ。」

大彦「どういうことかな?」

安彦「四道将軍(しどうしょうぐん)に反対する勢力が、僕を担ぎ出したんじゃないかと・・・。中つ国にも、僕の支持者がいたとしたら、王位を狙うことにも、現実味が有ると思うんですよ。」

大彦「反対者がいても、大王は、四道将軍をやめないと思うんだな。」

安彦「ええ・・・。それでいいと思います。大王に伝えてください。もう・・・ヤマトは、中つ国などと言っている時ではありません。多くの国の・・・多くの民(おおみたから)が・・・ヤマトになっているのです。」

地図(ヤマト連合政権)

大彦「わ・・・分かったんだな。」

安彦「川内や、山代や、多くの人々の声に、み・・・耳を傾けてくださいと・・・。」

大彦「分かったんだな・・・(´;ω;`)ウッ…。」

安彦「はぁ、はぁ・・・。ぼ・・・僕は、父上(八代目)や、ピッピ兄上(九代目)に・・・叱られるんですかねぇ?」

大彦「そんなことは無いんだな。それがしも、一緒に謝るんだな。だから、心配しないでほしいんだな。」

安彦「はぁ、はぁ・・・。そ・・・それから、最後に御願いしたいことが・・・。」

大彦「何かな?」

安彦「僕の妻・・・吾田媛(あたひめ)については、ゆ・・・許してやってください。か・・・彼女は、僕のわがままに・・・付き合ってくれただけなんです。どうか・・・。」

大彦「うん、うん・・・(´;ω;`)ウッ…。分かったんだな・・・。」

安彦「はぁ、はぁ・・・。よ・・・よろしく御願いします。あにう・・・ガクッ。」

大彦「安彦ぉぉ!!」

大彦が「記紀」には無い設定で、落涙していた頃、副将の「くにお」は、大彦に成り代わり、追い討ちをかけていた。

くにお「逃げる者は、山代衆じゃ! 向かってくる者は、鍛(きた)えられた山代衆じゃ!」

執拗な追撃により、山代衆の半数が、首を切り落とされた。

くにお「多くの敵を屠(ほふ)った。よって、この地は、羽振苑(はふりその)と呼ばれるようになったのじゃ。二千年後の、京都府精華町祝園(せいかちょう・ほうその)のことじゃ!」

地図(羽振苑)

敗走する山代衆。

追うヤマト勢。

戦いは、追撃戦に移行していた。

つづく

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