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JW513 信じられぬ大王

【垂仁天皇編】エピソード42 信じられぬ大王


第十一代天皇、垂仁天皇(すいにんてんのう)の御世。

ここは、纏向珠城宮(まきむくのたまき・のみや)。

地図(纏向珠城宮)

垂仁天皇こと、活目入彦五十狭茅尊(いくめいりひこいさち・のみこと)(以下、イク)の元に、大臣(おおおみ)の尾張建諸隅(おわり・の・たけもろすみ)(以下、ケモロー)が参内(さんだい)している。

系図(尾張氏:ケモロー)

ケモロー「大王(おおきみ)! 丹波道主王(たにわのみちぬし・のきみ)こと『ミッチー』が薨去(こうきょ)してしもうたがや。もう待つことは出来んでよ。大后(おおきさき)の件、一体、どうするがや!?」 

イク「ついに、この日が来たんだね。彼女たちを迎えようじゃないか!」 

ケモロー「えっ? い・・・いきなり、気が変わったんきゃ?」 

イク「気が変わったというか、この日を待っていたというか・・・。」 

ケモロー「どういうことだがや?」 

イク「『記紀(きき)』には、何も書かれてないけど、僕は『ミッチー』を恐れていたんだと思う・・・。」 

ケモロー「恐れる?」 

イク「そう・・・恐れていたんじゃないかって・・・。『ミッチー』が、次の狭穂彦(さほひこ)になるんじゃないかって・・・。」 

ケモロー「此度(こたび)、婿殿(むこどの)が薨去したのは、作者の妄想だがや。『記紀』や伝承には、いつ亡くなったのか書かれとらんのだで?」 

イク「そんなことは分かってるよ。でも、僕は『ミッチー』を恐れて、すぐに大后を迎え入れようとしなかったんじゃないかって・・・。」 

ケモロー「馬鹿なこと言わんでちょうだゃぁ(ください)。婿殿が、そんなこと考えるわけないが!」 

イク「分かってるよ。分かってるけど、信じられないんだ。」 

ケモロー「そんなことで、どうするがや。豪族たちを信じてこそ、大王が務まるんだで。」 

イク「それも分かってる。でも、僕は、想い人に殺されそうになったんだよ? それでも、人を信じろと?」 

ケモロー「そ・・・そう言われてしまうと・・・。」 

イク「大臣・・・。僕が、今、生きているのはね・・・。殺そうとした人が、狭穂姫(さほひめ)こと『さっちん』だったからだよ。彼女が想い人だったから、僕は死なずに済んだんだ。でも『ミッチー』の娘たちは、そうじゃない。僕よりも、父親を選ぶだろう・・・。それでも、信じろと? 大臣が、同じ立場でも、そう言える?」 

ケモロー「そ・・・それで『ミッチー』が薨去するのを待っていたと?」 

イク「そういう流れにしてもらったんだよ。その方が、安心して、妃を迎え入れることが出来るからね。」 

ケモロー「ほ・・・ほんで、誰を妃に迎え入れるがや?」 

イク「誰を? 何を言ってるの? 五人、まとめてだよ。」 

ケモロー「なっ?! 何を言うとるがや! ほんなら、丹波(たにわ)を治める、跡継ぎが、いなくなってまうでねぇの!」 

イク「婿を取って、跡継ぎを決めようとしていたみたいだけど、そんなモノは要(い)らないよ。」 

ケモロー「要らぬ? なんでだがや?」 

イク「昔のように、尾張氏(おわり・し)が治めれば良いだけのことじゃないか!」 

ケモロー「なっ?! それでは『ミッチー』の一族では無くなってしまうがや。」 

イク「そう! その通り! 『ミッチー』の一族じゃなきゃいけない・・・だなんて、そんな法律は無いよね?」 

ケモロー「大王・・・。汝(いまし)という御方は、そこまでして、王位を狙(ねら)える者の力を削(そ)ぎたいと・・・。」 

イク「父上の御世に、武埴安彦(たけはにやすひこ)殿が謀反(むほん)を起こし、僕の時は、狭穂彦だ。いずれ産まれてくる、僕の息子には、そんな想いはさせたくない。今なら、父上の申されていたことが分かる。あんな想いは、僕の代で終わりにさせる!」 

こうして、五人全員が妃になると決定したのであった。 

つづく

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