JW272 酒を造ろう
【疫病混乱編】エピソード24 酒を造ろう
第十代天皇、崇神天皇(すじんてんのう)の御世。
年が明け、紀元前90年、皇紀571年(崇神天皇8)となった。
ここは三輪山(みわやま)の麓、磯城瑞籬宮(しきのみずかき・のみや)。
崇神天皇こと、御間城入彦五十瓊殖尊(みまきいりひこいにえ・のみこと)(以下、ミマキ)は、ある一人の人物を呼び出していた。
4月16日のことである。
ミマキ「では、早速、紹介致そうぞ。高橋邑(たかはし・のむら)から来た、活日(いくひ)と申す者じゃ。」
活日「お初にお目にかかりまする。我(われ)が活日にございます。」
ミマキ「うむ。汝(いまし)を呼んだのは、他でもない。汝を大物主神(おおものぬしのかみ)の掌酒(さかびと)に任命しようと思ったからじゃ。」
活日「かしこまりました。一所懸命に、酒を造りまする。」
そのとき、大臣(おおおみ)の物部伊香色雄(もののべ・の・いかがしこお)(以下、ガーシー)が過敏に反応した。
ガーシー「ちょっと! 待ってくださいよ。ちゃんと説明してくれんと、訳わからんでしょ!」
ミマキ「何を申しておるのじゃ。活日を大物主神の掌酒に任命したと申したではないか・・・。」
ガーシー「ほな、なんで、活日を掌酒に任じたんです?」
ミマキ「酒造りの職人だから・・・ではないか?」
活日「まあ、当然、そうでしょうねぇ。」
ガーシー「ほな、大物主神に捧げる酒を造らんといかん、理由は何ですの?」
ミマキ「神様に神酒(みき)を捧げるのは、当たり前のことでは?」
ガーシー「ほな、これまでは? 天照大神(あまてらすおおみかみ)の時とかは?」
ミマキ「そ・・・そう言われると・・・。これまでは、どうだったのであろう?」
活日「今回より、朝廷(ちょうてい)が、神酒を造るようになったのではありませぬか?」
ミマキ「これまでは、朝廷が神酒を造っていなかったと?」
活日「あくまで予測に過ぎませぬが、これまでは、どこの酒とか、誰が造ったとか、全く気にしていなかったのではないでしょうか。」
ガーシー「ほな、今回から、それを改め、朝廷が神事に使う酒を管理するようになったっちゅうこと?」
活日「あくまで予測ですが・・・。疫(やく)の流行(はやり)で、酒造りも大打撃を被(こうむ)り、なかなか手に入らないのでは?」
ミマキ「なるほど・・・。疫の流行で、人の数も減り、作物も限られていることを鑑(かんが)みれば、国家が管理をおこなうは道理じゃ。」
活日「では、これより神酒造りに励(はげ)みまする。」
ミマキ「うむ。頼んだぞ。」
ガーシー「ほな、神酒造りの解説も済んだことやし、次は、活日の故郷(ふるさと)について、解説してもらおか。」
活日「我(われ)の故郷ですか? さきほど、高橋邑と・・・。」
ガーシー「そこが、二千年後の何処(どこ)になるんか、解説せんとあかんやろ!」
活日「め・・・面倒くさいのですな。」
ミマキ「すまぬ。この物語では、そういうモノなのじゃ。」
活日「かしこまりもうした。では、解説致しまする。高橋邑は、奈良県奈良市の杏町(からももちょう)と言われておりまする。かつて、国道24号線沿いに『高橋』という地名が有ったそうでして、そこではないかと・・・。」
ミマキ「はっきりしておらぬのか?」
活日「左様にございます。他にも、奈良県天理市(てんりし)の櫟本町(いちのもとちょう)とも言われておりまして、こちらが有力なんだとか・・・。」
ミマキ「諸説有りか・・・。」
ガーシー「まあ、いつものことでしょ。ロマンやね。」
活日「ロマン?」
ミマキ「分からぬ時の『まじない』のようなモノじゃ。」
活日「さ・・・左様ですか・・・。ちなみに、三輪山を祀(まつ)りし、大神神社(おおみわじんじゃ)に、我(われ)を祀る摂社(せっしゃ)がございます。」
ミマキ「活日を祀る神社が有ると申すか?」
活日「御意。その名も、活日神社(いくひじんじゃ)と申します。」
ガーシー「そのまんまやな・・・。」
活日「高橋活日命(たかはしいくひ・のみこと)として、祀られておりまする。」
ミマキ「汝(いまし)が、造酒司(みき・のつかさ)の初代ゆえ、祀られておるのか?」
活日「酒造を管理する役職の初代長官ということですな? そうだと思いまする。」
ミマキ「されど、なにゆえ、活日でなければならなかったのであろう? 酒造りの職人は、数多(あまた)おるというに・・・。」
ガーシー「大物主神の推薦だったとか?」
活日「その辺は、どの書物にも書かれておりませぬので、はっきりとしたことは分かりませぬ。されど、伝承に、大物主神の神託(しんたく)を受け、一夜のうちに、素晴らしい神酒を造ったという話がございますので、推薦も、あながち、的外(まとはず)れではないかと・・・。」
ミマキ「大物主様に気に入られたのかもしれぬな。」
活日「そうであれば、誉(ほまれ)にございます。」
ガーシー「ほな、解説も済んだことやし、次は、わての息子を紹介しよか。」
ミマキ「ん? ガーシーの子?」
ガーシー「そうですぅ。息子の大新河(おおにいかわ)ですわ。『ニック』と呼んでや!」
ニック「お初にお目にかかりますぅ。わてが『ニック』やで!」
ミマキ「此度(こたび)の疫で、生き残った息子か?」
ニック「まあ、兄貴らは、作者の陰謀で、疫病に罹(かか)ったことにされたんやけどな・・・。」
ガーシー「ホンマやで。思い出したら・・・あかん・・・ちょっ・・・(´;ω;`)ウッ…。」
ニック「おとん・・・(´;ω;`)ウッ…。」
こうして、何はともあれ、掌酒が任命されたのであった。
つづく
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?