JW273 宴で歌えば
【疫病混乱編】エピソード25 宴で歌えば
第十代天皇、崇神天皇(すじんてんのう)の御世。
紀元前90年、皇紀571年(崇神天皇8)4月16日、活日(いくひ)が掌酒(さかびと)に任命された。
そして、あっという間に、12月を迎え、大物主神(おおものぬしのかみ)に神酒(みき)を捧げる日が、やって来た。
12月20日のことである。
ここは三輪山(みわやま)の麓、大神神社(おおみわじんじゃ)。
満足気な様子で、崇神天皇こと、御間城入彦五十瓊殖尊(みまきいりひこいにえ・のみこと)(以下、ミマキ)が、神事の開催を宣言する。
ミマキ「これより、大物主神に神酒を捧げる儀式をおこなう!」
活日「これが神酒にございます。」
ミマキ「うむ。では、大田田根子(おおたたねこ)こと『田根子』よ。大物主様に祝詞(のりと)を奏上(そうじょう)すべし。」
田根子「かしこまりました。大物主大神、我(われ)らの申し述べることを聞食(きこしめ)せと恐(かしこ)み恐みも申(まを)す・・・。以下、割愛(かつあい)致します。」
ミマキ「では、神酒を捧げんっ。受け給えぇ。」
活日「大物主様は、喜んでくださるでしょうか・・・。」
ミマキ「喜んでくれているはずじゃ。」
田根子「そうであってほしいですね。」
するとここで、中臣神聞勝(なかとみ・の・かみききかつ)(以下、ミッキー)が、傍に寄ってきた。
ミッキー「じゃあ、大王(おおきみ)! 歌を詠(よ)んでね。ハハッ。」
ミマキ「歌を詠んだ方が良いのか?」
ミッキー「当たり前じゃないか!」
ミマキ「わ・・・分かった。では、詠むぞ。聞いてくれ。」
此の神酒は 我(わ)が神酒ならず 倭成(やまと・な)す 大物主の 醸(か)みし神酒 幾久(いくひさ) 幾久
ミッキー「歌の意味は、我(われ)の息子、探湯主(くかぬし)こと『クッキー』が解説するよ。」
クッキー「お初にお目にかかりますぅ。『クッキー』にあらしゃいます。では、早速、歌の解説を始めて参りますぅ。」
ミマキ「いちいち解説するのか?」
クッキー「はい。この歌ですが『この神酒は、私が造った酒ではなく、倭(やまと)の大物主様が造られた神酒である。幾(いく)つもの世(よ)を越えて、久しく栄えていけ』という意味にあらしゃいます。」
ミマキ「は・・・恥ずかしいではないか・・・。」
ミッキー「仕方がないと思うよ。ハハッ。」
田根子「では、これより宴(うたげ)と参りましょう。神社の拝殿(はいでん)にて、席を設けております。」
ミマキ「おお! ありがたきかな。」
こうして宴会がおこなわれ、終わった直後には、諸大夫(しょたいふ)による歌が詠まれた。
ミマキ「諸大夫とは、数名の大臣という意であったな? 誰が詠んだのじゃ?」
クッキー「誰が詠んだか分かりませんので、我(われ)が詠みますぅ。」
ミマキ「初登場ゆえ、活躍をしたいのじゃな? よし。許す。」
クッキー「ほな、詠みますぅ。」
味酒(うまさけ) 三輪(みわ)の殿(との)の 朝門(あさと)にも 出(い)でて行かな 三輪の殿門(とのと)を
活日「歌の意は『一晩中、宴会をして、三輪の社殿の朝開く門を通って帰ろう』との由(よし)。何の『ひねり』も有りませぬな。」
クッキー「わ・・・我(われ)が詠んだわけでは、あらしゃいません。だ・・・代表してやなぁ・・・。」
田根子「誰も『クッキー』殿を責めてはおりません。気になさらないでください。」
ミマキ「そうじゃ。気にするでない。そんなに恥ずかしいのなら、わしが、もう一首、詠んでやろうではないかっ!」
味酒 三輪の殿の 朝門にも 押し開かね 三輪の殿門を
ミッキー「一晩中、宴会をして、三輪の社殿の門を、朝になってから、押し開いて、帰りなさい。という意味だね。ハハッ。」
こうして、神酒を捧げる神事は、つつがなく終わったのであった。
一方、丹波(たにわ)では・・・。
出雲君(いずものきみ)の子、出雲振根(いずも・の・ふるね)が、お忍びで来訪していた。
振根「わしが、出雲君の子、振根だに。して、汝(いまし)が、丹波君(たにわのきみ)の陸耳御笠(くがみみのみかさ)こと『みかさ』殿か?」
みかさ「丹波君などと・・・畏(おそ)れ多いことやで。せやけど、いつかは紛(まご)うこと無き、丹波君になりたいと思ってるでぇ。」
振根「我(われ)ら出雲と手を取り合えば、必ずや成し遂げられるっちゃ。」
みかさ「そう言っていただけるんは、ありがたいことなんやけど、振根殿が、丹波に来たやなんて、こんなこと『記紀(きき)』にも『先代旧事本紀(せんだいくじほんぎ)』にも書かれてませんよ?」
振根「作者オリジナルだが、気にせずとも良い。要(よう)は、勝てば良いのだ。夜麻登(やまと)の者を寝返らせる手筈(てはず)も進んどる。」
みかさ「それは心強い。では、オリジナルついでに、吉備(きび)に面白い御仁(ごじん)がいるとか・・・。温羅(うら)という百済人(くだらびと)が暴れてるみたいやで。この者を味方に付けたら、ええと思うんやけど・・・。」
振根「ほう・・・。それは、面白そうだに。」
着々と進む陰謀。
ヤマトは、一体どうなるのであろうか・・・。
次回につづく
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