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Smashing! 佐久間イヌネコ病院

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佐久間鬼丸獣医師(受)と喜多村千弦動物看護士(攻)とその友人達のお話。 どうぞお楽しみ下さい!
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2021年2月の記事一覧

smashing! たいこうぼうなおれ

佐久間イヌネコ病院入り口。丁度午前中の診療を終え、掃き掃除に外に出ていた佐久間獣医師は、医療機器メーカーの営業君に捕まっていた。 こういうことはいつも喜多村千弦動物看護士に任せていたんだった。今日喜多村は実家の用事で夕方の診療時間まで戻れない。断るにもどう伝えるべきか思いあぐねているうちに、いつのまにか両手がリーフレット類で塞がってしまった。 「こちらのタイプですとLEDを兼ね備えて…」 何が苦手って、機器の要不要の判断なんだ。心の中でありったけの召喚魔法を唱える。ヘル

smashing! きみはつるばら

小越優羽。俺は庭師。 庭師と言っても、ほぼ何でも屋。エクステリアから造園まで幅広く、日本庭園はもちろん、英国風でもバリ風でも何でもやらせて貰う。俺は和威じいちゃんが生きていた頃から色んな技術を教えて貰った。庭師は俺にとって、全ての知識を活かすことの出来る天職だと思っている。 家で俺を待つ彼は、結城卓。 ちょっとだけ俺より大人だけど、俺が今まで見た人間の中で一番綺麗で、我が儘で、驚くほど頭が切れて気難しい。けど甘えん坊。どんな樹木や植物よりも手が掛かる。でもそれ以上に俺を心か

smashing! おねだりときみと

佐久間イヌネコ病院。佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が住む二階住居。 二人は診療時間が終わっても大抵は一緒に居る。掃除などの家事をするとき以外はどこかしら無意識に身体を触れあわせながら、黙って各の作業に没頭している。 不意に佐久間が立ち上がり、キッチンに向かう。戻ってきたその手には焼酎の瓶と炭酸水、陶器グラスが2つ、ホワイトチョコレートと燻製ささみジャーキー。 佐久間は無類のチョコレート好きで、よく酒と合わせて食べたりする。肉好きの喜多村はなんとかジャーキーが定番。い

smashing! やさしみのきみたち

税理士・雲母春己。29才。 雲母は独立事務所を持たず、各施設を共有できるコワーキングスペースで仕事をし、一段落したら少し離れた自宅へ帰る。自宅とオフィスを分けるのは面倒にも思えるが、オンオフをはっきりつけたいタイプの雲母にはなにかと都合がいい。 はいその件確かに承り。メールのやりとりも今日はこれにて終了。今日は思ったより早く片付いた。雲母は自宅に向かう途中の繁華街でふと、見慣れない店を見つけた。最近オープンしたのだろうか、バルっぽい外観なのにオープンキッチンに焼き鳥機。面白

smashing! めいどさんとおれ

「どうしたものかと…」 佐久間イヌネコ病院。診療を終えた午後7時。 二階住居部分リビング。雲母春己税理士が相談を持ちかけてきた。本日の手土産はテオブロマのチョコレートケーキ。スイーツブランドに疎いはずの佐久間がロックオンするレベルの味らしい。雲母はチョコレート好きの佐久間の胃袋を鷲掴んでおけば問題なしと踏んだのだ。 「卓さんなんですけど」 「…なんかされました?」 「や、全然。されてなくて、ていうか」 雲母税理士はいろいろな顧客を持つ。商店街の八百屋さんやいかつい不動産

smashing! にいさんとおれと

佐久間と喜多村が暮らす街から出て約3時間。 駅からは地下鉄を乗り継ぎ、大きな招き猫を設えた賑やかなアーケード街を抜け、ひっそりとした静かな裏道に入る。しばらく歩くと目の前に開ける山門。そこには数匹の猫が思い思いに寛ぐ小さな寺があった。掃除をしていた僧侶と思われる一人の青年が、佐久間を見るなり笑顔で駆けよってきた。 「おかえりー鬼丸!」 「ただいま、達丸兄さんっ」 佐久間達丸。鬼丸の兄で、この寺の現住職・妙達である。 鬼丸と同じチョコレートブラウンの癖毛は短く刈り上げら

smashing! ねこのひとおれらと

2/22。 カラカラだのえすくんだのいろいろな語呂合わせで各種ナントカの日が存在するが、その中でダントツに可愛い日。 にゃんにゃんにゃんの日。 元大手不動産会社エリート営業・結城卓は、マンションの1階をワンフロアごと使ったオーナー専用住居を、あらゆるツテを使って格安で購入し、恋人の庭師・小越優羽と雄猫6匹と一緒に住んでいる。 明日は祝日。ということで、佐久間イヌネコ病院獣医師・佐久間鬼丸&動物看護士・喜多村千弦の友人カプ、そして税理士・雲母春己の三人が宅呑みにやってくるのだ

smashing! きみはせんせい

考え得る限りのペインコントロール、皮下点滴を行う、抜糸する、採血する、体温を測る、錠剤を飲ませる、爪を適正な長さに切る…どんな補助処置も、被毛のケアなんてそこらあたりのグルーミング専門店に比べたら段違いの出来映えだと言える。ただし、 「佐久間先生、お願いします」 「…っしゃ」 ここから先は「獣医師」の仕事である。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 佐久間イヌネコ病院動物看護士・喜多村千弦。 大学では成績優秀、全て十二分にこなせていたそんな時。実習用だった犬のリイコを

smashing! せんせいとSSRと

「いかんて!それ見てまったら  俺死んでまうでかんて!」 佐久間が謎の方言に支配されている。 「もいいから行きなよ千弦!  間に合わなくなるよ?」 「うん…じゃ鬼丸のこと頼むなー」 「おっけえー」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「出てっちゃったじゃん千弦かわいそ。最後まで子犬みたいな目してたのに。めちゃ格好良かったし」 「俺は騙されないまだいるんだろそのへんに」 結城は自分の携帯を佐久間に向ける 「ぐあ!!」 「破壊力わらw」 今日、喜多村は父

smashing! こうひととおれと

「しもかもだまもる。  相変わらず「も」多いねー」 「相変わらずもなにも減らんでしょ。  名前なんだから」 スノースポーツの穴場で、リゾート地よろしく賑わう温泉街。 この街の大きな総合病院。湯治も兼ねているため、あちこちの病院から引き抜かれた腕のいい医者も集まっているらしい。評判はすこぶる良く、町民の信頼も厚い。 結城卓と小越優羽。佐久間イヌネコ病院・佐久間鬼丸獣医師の友人。そして同性で恋人同士。家には6匹の雄猫がいる。先日から猫の世話を佐久間の恋人である喜多村千弦に任せ

smashing! せんせいのおひげ

佐久間イヌネコ病院・喜多村千弦動物看護士。 彼が物心ついた頃、家には高校で教鞭を執っていた父だけがいた。当時喜多村家で働いていた家政夫は喜多村を可愛がってくれ、喜多村は彼に倣ううちに喜多村家の家事全般を一通りこなせるようになった。 佐久間イヌネコ病院院長である佐久間鬼丸獣医師とは大学時代の同輩。喜多村は実習用の犬だったリイコを引き取り、大学を中退した。佐久間とは当時親友だったのだが、縁あって今は恋人同士だ。 喜多村は佐久間の作る料理がなによりも好きだ。あまり他の家庭の味を知

smashing! あびじごくとおれ

「千弦さんさ、僕のこと最初警戒してたでしょ」 「してた。鬼丸に色目使ったらその場で殺す思てた」 「わかるわー。僕ね初見ほんっと警戒されるんですよカップルさんに。こんな成りですからほとんどの方は僕をタチと思っておられる。だがしかし僕は生粋のネコなんですよ可愛い可愛いネコちゃんなの。わかる?千弦さん!僕はまごう事なき右側なんですよ人を見かけで判断したらダメゼッタイ!」(ノンブレス) 喜多村千弦と雲母春己。今日の二人の服装は申し合わせたように似通ったパーカーとジョガーパンツの

smashing! ちぃたんとぱぱと

佐久間イヌネコ病院・喜多村千弦動物看護士は愛犬リイコとともに、緩やかな坂の上にある彼の実家に向かっていた。 大学を中退してからしばらくはリイコと実家の世話になっていたので、懐かしさ反面、心臓破りにも甚だしいわ、なんかじわじわくる、などの愚痴も出る。リイコはこの坂を見るなり動かなくなった。仕方なく喜多村はリイコを抱え坂を登る。ただ、リイコがここから動きたくない理由は他にもあった。というか、思い当たりすぎてそれしか考えられないのだが。 門柱の側に人影。喜多村に向かって手を振るその

smashing! ぜいりしとおれと

季節は春。佐久間イヌネコ病院の鉢植えの紅梅は満開だ。 けれどもこの時期は何故だか心晴れないことが多い。寒の戻りやら別れやら出会いやら。要因は数限りないけれども、今、獣医師・佐久間鬼丸の心を重くさせているもの。それは。 三月中旬締め切り。魔の確定申告である。 「わけわかめ…」 「鬼丸、そっち仕分けできた?」 「ううん。わけわかんないこんぶ。がごめ。あかもく。あ、売上げはサンゴの保護基金になるんだってーーーアハハハハ千弦う俺さ明るい農村呑みたいな呑んでもい?」 作業開始