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smashing! ねこのひとおれらと

2/22。
カラカラだのえすくんだのいろいろな語呂合わせで各種ナントカの日が存在するが、その中でダントツに可愛い日。
にゃんにゃんにゃんの日。

元大手不動産会社エリート営業・結城卓は、マンションの1階をワンフロアごと使ったオーナー専用住居を、あらゆるツテを使って格安で購入し、恋人の庭師・小越優羽と雄猫6匹と一緒に住んでいる。
明日は祝日。ということで、佐久間イヌネコ病院獣医師・佐久間鬼丸&動物看護士・喜多村千弦の友人カプ、そして税理士・雲母春己の三人が宅呑みにやってくるのだった。ウチは広いから好きに呑めるし大きなバスタブにはお花浮かべたげるし泊まるにしてもどこで寝てもらっても全然かまわない。ただし結城宅では高い確率で大きな雄猫が無制限に乗っかってくるのだが。


全員プラス犬も無事集まり「さあ宴会」と思いきや、何故かその中の3名の顔に異変。待って、目と眉が近すぎる。

「…え、顔いかつ…」

「ギアが切り替わってなくて…」(変態2)
「顔が固まって戻らないんよ…」(鈍乙女)
「けっこうぶっ通しでキツかっ…」(変態1)

上から雲母税理士、佐久間獣医師、喜多村看護士の順である。税理士である雲母はまだ税務署関係の追い込み時期ではないが、かなりのイレギュラー案件処理に追われていた。そして佐久間イヌネコ病院の二人は朝イチから立て続けに患畜が訪れ、いまだ眉間のタテスジが取れないでいるのだった。
このままではお通夜または愚痴こぼし会になってしまう恐れがある。ここは皆の緊張を解くという選択肢を取ろう。小越は隠し持っていた紙袋を結城に渡した。

「なにこれ?」
「卓にしか、できない癒し!」

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「じゃーーーーん!!癒し隊長スグルくんだよ☆
 今日はニャンニャンニャンの日!
 みんなで盛り上がろうにゃーーん!♡」

ネコミミ、ネコシッポ、ふわふわノースリ&ショーパン(もちろん各所の毛は処☆理☆済!)全てを装着した癒し隊長☆スグルくん(四捨五入するとアラフォー)があらわれた!

「うわあ~可愛いなああああ~♡」

拍手しながらうっとりと眺めているのは恋人の小越。結城アニキの想定外の痛コスに対するツッコミが先だって、残りの3人は能面のような表情で結城を見つめる。可愛いっちゃ可愛い。確かに。その辺の嬢なんて足下にも及ばない。でもなんだろうこの感じ、全然萌えない。癒やされない。

【【【 チェンジで 】】】

(っきしょぉ…空気読むとかスキル発動しろし!)

結城は思った。こいつらの表情には覚えがある。あれだ、水族館にいるあの大きい奴。エイ。エイだ。あれの正面顔。やめろおお!表情筋を殺すな!頼むから人間として笑ってえええ!結城の叫びが届いたのかは定かでないが、三人の眉間から渋いタテスジが消えたのは確かだった。


繁華街を経由するため買い出しに向く雲母税理士。彼が持ち込んだたくさんのデパ地下袋にはローストビーフ、自分で作ると途方も無く高価になるサラダ惣菜(鰆のフリッターと水菜のコチュジャン和え等)、ヱビスビール1ケース、点天餃子。中華系に目がない小越の目が光る。
病院でギリまで患畜を診ていた二人組。ロースハム、焼豚、京鴨の燻製…のめちゃ高級ギフトは、毎度牛尾さんからの差し入れ。そして佐久間秘蔵の美麗ボトルは徹宵。キレカワ好きな結城の目が光る。
本日の宴の肴勢。相手にとって不足なし。

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「え!動物集めてどうするの?戦うの?」
「これは戦わないやつです!服作ったり、家具を…」
「あっカブトムシちょっ怖…あ、これと戦うの?」

小越の指導を受けながら佐久間と喜多村は初見のゲームに没頭している。雲母税理士はその様子を眺めながら結城に酌をする。

「それにしても結城さん、いい物件ですねここ」
「すぐる」
「卓、さん。僕は税金と戦うのが自分の天職だと思ってます」
「そうね。ハルちゃん最強よ!でも外貨はお勧めしないかな…」
「僕もですが、卓さんも、投資はしない派ですか?」

雲母はスウェットに着替えているが結城はネコミミショーパン痛コスのまま。なので専門的なはずの内容が全く伝わってこない。焼酎の水割りとビールを交互に舐めながら、結城は鴨の燻製を指でつまんで口に入れた。

「やっぱ土地転がさないと。俺、現場主義なんだ」

その言葉の重さに、そこにいた全員が響めいた。
結城を見つめる熱い眼差し。不動産会社営業時代にとんでもない業績を残したエリートビジネスマン結城卓。結果を数字に残せた男。
男前。男前や。痛コス癒し隊長☆スグルくんだけど、アンチエイジングぱねぇけど、この中の誰よりも侠気ある、漢の中の漢・結城卓。

「社長やん…」
「マ………社長…」
「社長…」
「社長可愛い…」

「ちょお待て。可愛い知ってる優羽ちゅき。
 てか今マ………言ったん誰!マ………何!」

佐久間がおずおずと挙手。病院の常連さんの中でちょっとした噂になってる年齢不詳の男の娘。ちっちゃくて可愛くて、でもけっこう声はハスキー。俺ら卓のこといろいろ聞かれちゃってるんだよ、佐久間がニコニコして言う。その中で付けられたニックネーム。

「マッシュ君」

まんまだけど愛がある。可愛いよな「マッシュ君」。でもな、常連さんがおっしゃるのは正直嬉しいラヴューン。でもなんかお前らが言うと微妙に腹立つ。さ、宴もたけなわ、まだまだ酒も食い物も尽きない。呑んで食べて、なんなら通信カラオケできるから!好きな舞台あったらアーカイヴ観れるし!ただしこの家の…ごめ、俺まだ言ってなかった掟あるから!聞いて!

「乱交防止のため、大勢集まるときはえち禁止」

掟だからね!マッシュ君は何故かプンスコしながら雲母に酒を強請る。雲母は無表情で酌をしながら脳内妄想を始めた。

(それはヒトとして友人同士として守るべき最低限だと思うんですけどね…ていうか卓、あ、マッシュ君はそりゃ可愛いけど僕、君じゃたたないなあ抜けないんだなあだってそれじゃ百合じゃん百合ンフフフフ…)

「あれがなきゃ、漢の中の漢なんだけどな…」

ゲーム組の、結城マッシュを見る目がスン…と沈む。全員の顔が「エイ」になってしまっていることを、ご機嫌でお酒をたしなむ癒し隊長☆スグルくんは最後まで気付けないのだった。





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