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smashing! めいどさんとおれ

「どうしたものかと…」

佐久間イヌネコ病院。診療を終えた午後7時。
二階住居部分リビング。雲母春己税理士が相談を持ちかけてきた。本日の手土産はテオブロマのチョコレートケーキ。スイーツブランドに疎いはずの佐久間がロックオンするレベルの味らしい。雲母はチョコレート好きの佐久間の胃袋を鷲掴んでおけば問題なしと踏んだのだ。

「卓さんなんですけど」
「…なんかされました?」
「や、全然。されてなくて、ていうか」

雲母税理士はいろいろな顧客を持つ。商店街の八百屋さんやいかつい不動産屋、高級スイーツショップ。そのなかで異彩を放つのは、健全がウリの怪しいメイドカフェ。

「怪しいの?」
「怪しいていうか、そこの女の子があまりにも普通で一体どうやって数字取ってるのかなって」」
「いいじゃん、普通に可愛いの問題ないじゃん」
「それが、そこのオープニングの時にですね、卓さんがたまたまその…オーナーと知り合いで」
「……フラグキタ」
「なんかヤな予感キタ」
「ヘルプの嬢が急に来られなくなって、そんで」

「…着せたな?奴に」

「その通り」

つまり、メイドカフェオープニングアクトにいた助っ人・「SSR・メイドver.結城卓」に釣られしモノノフたちがいたわけだ。いざ開店してみると結城は当然店にいるわけがない。そのことで少し雰囲気が悪くなったと、オーナーにぼやかれてしまったのだった。他にももちろん嬢は大勢いるのだけど、あのチートキャラを持ってしてはハードル上がりすぎて逆に天井知らずなんだけど。

「あんなんだけどけっこう…なのにな」
「そこで、ちょっと様子見に行きませんか?」
「え?どこに?」

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この街の繁華街。ちょっと大人向けの通りにそのメイドカフェはあった。想像していたよりも可愛らしく、白を基調に何色かのスモーキーカラーで彩られている。入り口にはかなりの長蛇の列が続いており、なんらかのイベントが行われているようだった。

「カフェ…なのかな?」
「客とのコミュニケーションの一環としてイベント等も開催するそうで…おそらくそれが主な収入源のようですね。まずは行ってみましょう」

雲母が先導し、喜多村と佐久間が続く。いきなり現れたイケメン勢にちょっとしたどよめきが起こったが、二人は気にせず店内へと入る。残り一人は喜多村の後ろに隠れてステルスを決め込む佐久間であった。

ーおかえりなさいませ〜ご主人サマッー

不思議の国のアリスワールドを彷彿とさせながらも、ハンバーガーなんかが出てきそうなアメリカンダイナー風の店内。数人のキラキラメイドさんが出迎えてくださった。
イベント内容は大抵が個人的なもので、メイドさんと一対一でチェキ撮れたり、数分間お話しできたり。各嬢がそんな行動制限の付いた券をモノノフ君に販売する。それがこの店のバックマージンとなっているようだった。

「そういう絡繰りでしたか。了解」

妙に納得して頷く雲母税理士。不正はない。それがわかれば長居する必要はない。三人は目配せしてこの場を去ろうとした。その時。イベントスペースに違和感。長蛇の列を次々蹴散らし、ステージでポージングするキレカワメイド。どう見てもどこから見ても…我らが結城卓(四捨五入するとアラフォー)。その最前列で2ショットチェキ撮りまくる姿には見覚えがありすぎる。おい何やってんだおい庭師おい。

「小越くん…」
「優羽おまえほんと…」
「…いいなあなんか混ざりたなってきた」(佐久間?)

本日のスゥちゃんチェキ撮影券は販売終了しました。貼り紙を無視してチェキを撮る小越の肩を叩く。小越は幸せそうに笑いながら三人に沢山のチェキ券を差しだした。

「あ!皆さんいらっしゃってたんですか!かわいいでしょスゥちゃん!!一緒にどうですか?俺チェキ券全部買ったんでよかったら!!」
「…みんな来てたんだ…あ、一緒に撮る?それかささやきボイスやる?お前らなら特別にZoomトーク権あげちゃうけど」

「SSR・メイドver.結城卓」は流石に少し疲れているようだった。それでも疲労度が美貌を邪魔してないのは流石だ。己の限界を超えて相手に対して愛を注ぎ続ける。よくわからないが、卓を応援しようとする小越の心意気は理解できた。チェキ券買い占めるとかおい何やってんだおい。

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「なんか…感動的でしたね」
「優羽ほんと卓好きな」

愛の形は、己の想像を超えて行く。あの二人が幸せならそれでいい。けれど、あのコスが一般人を巻き込むほどの威力を携えているとしたら。

「卓が大人しくしてるのが一番じゃないかな」

三人の結論は、その域に至ったのだった。



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