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コンテスト投稿作品

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コンテストへの投稿作品をまとめました。
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回り回って白米/人生さいごに食べるもの

回り回って白米/人生さいごに食べるもの

「最後に食べるなら、白米かな」
そう言ったのは母だった。

いつの日だったか忘れてしまったが、最後の晩餐に何食べるか、という話を家族でしていた時のことだ。晩餐というからには、やっぱり贅沢なものがいいんじゃないか。それならお寿司か、焼肉かな。そんなふうに僕らは話していたけれど、母は白米の一点張り。その理由は、と聞くと、
「結局、白米が1番美味しいと思うのよね」
とのこと。美味しいものは人それぞれだよ

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たとえ、形は変わっても。/かつての教え子から、コーチングを受けた話

たとえ、形は変わっても。/かつての教え子から、コーチングを受けた話

彼女と初めて出会ったのは12年前。大学生の僕は塾講師のアルバイトをしていた。彼女はそこの生徒だった。当時の彼女の印象は、勉強はまあまあできるけど、勉強することはそんなに好きじゃなさそうな子。中学生になったばかりの彼女は、少し難しくなった勉強というものが少し嫌になっているように見えた。

彼女が高校生になったころ、僕は塾講師を辞めた。それから、彼女と交流することは殆どなかった。

***

2021

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ショートショート:2人の灯り

ショートショート:2人の灯り

ばあちゃんちの台所に灯りがついた。僕はいそいでジャンバーを羽織って、徒歩5秒のばあちゃんちに向かう。

「ばあちゃん、今日のご飯は?」
「親子丼ときんぴらごぼうにするよ。ひろちゃん、宿題は終わったの」
「ううん、これから」

ばあちゃんと僕ら家族は隣同士に住んでいる。僕の父さんと母さんは共働きで、帰ってくるのがいつも遅い。だから僕はばあちゃんちで毎日ご飯を食べる。ご飯を作るばあちゃんのそばで、宿題

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自分の時間を取り戻す場所。

自分の時間を取り戻す場所。

駅前のマクドナルドの、窓際のカウンター席。なにかに集中したくなったとき、僕はそこへと向かう。

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去年の春から、僕の仕事はほぼフルリモートになり、家で仕事をする機会が格段に増えた。朝起きてご飯を食べて、子どもを保育園に送ったら、洗い物をして、コーヒー片手に仕事を始める。仕事が終わったら、保育園に子どもを迎えに行って、ご飯を食べる。お風呂に入って子どもを寝かしつけて、残っていた仕事を片付ける

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私より幸せになってほしい、息子たちへできること。

私より幸せになってほしい、息子たちへできること。

正直なところ、私はお金に困らずに今まで生きてきました。
小さな頃のことを思い出すと、年に1回は家族で旅行に行っていたし、必要なものはたいてい買ってもらえていたと思います。保育園の頃から習い事もたくさんさせてもらったし、大学まで学費も生活費も出してもらっていました。

結婚して、家族ができて、私と同じような生活を子供に与えてあげられるかと考えたときに、両親の偉大さを知りました。大学生活の6年間だけを

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小説:ばあちゃんの字

小説:ばあちゃんの字

「やばいなぁ」

高校1年生、初めてのテスト結果が返ってきて、僕は手元の紙を見つめた。300人中、150位。これが僕の順位だった。地元の中学校では勉強ができる方で、たいてい10位以内には入っていた。進学校であるこの高校にも、好成績で入ってきたはず、それなのに。
「私はね、31位!割と良くない??」
前の方で、女子たちが騒いでいる。自分の順位を大きな声で話しているのは、スポーツ推薦で入ってきた晴香(

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