夢で流れていた美しいクラシックが誰の何の曲なのか調べる。
名曲は歳を取らない。
それはいつ、誰が聴いても新しく聴こえ、時空を超えて新たな人を魅了していく…らしい。
いつだったか忘れたけど、夢の中でクラシックの曲がかかっていた日があった。ゆったりしたピアノの美しい旋律。どこかで聴いたことがあるんだけど、誰の何という曲なのか判然としない。目が覚めてから「あれは何て曲なんだろう?」と思うと同時に、
「夢の中で、名前もわからないクラシックがかかってるなんて、俺ってすごいぜ」
こう思ってしまうんですね、私は。
あぁ、ダメだ、まだまだ若い。
青二才。おしりが青い。
カス。ヌルい。
論外。
ともあれ、なんやかんや調べを進めると、夢の中で流れていた曲はどうやら、ドビュッシーの『月の光』であることを突き止めた。
きっとどこかで聴いたんだろう。みなさんもきっとどこかで聴かれたことがあるはずだ。夢の中でかかってもおかしくない曲だ。
逆に言えば、夢でこの曲がかかって「あ、なぜかドビュッシーの『月の光』が流れてるなぁ」と言える自分じゃないのが論外だ。
さて、
ここから先は、ドビュッシーの『月の光』を聴いてから是非読み進めていただきたい。じゃないとここから先の文章は見えてこない。
曲の長さは約4分。たったの4分である。あぁ、なんて美しい調なんだろう。まずは下のリンクをタップしてYouTubeに飛んで、冒頭20秒でもいいから、月の光を聴いてからここに戻ってきてほしい。
…
(月の光、リスニング中)
(…キーーーン)
(…み…な…ん、聴こえますか)
(今みなさんの頭に直接呼びかけています)
(…月の光を…聴いて…ださい)
(キーーーン…)
(…ありがとう)
…
『月の光』、ちゃんと聴かれましたか?
聴かれましたね?
美しいですよね。
ドビュッシーの月の光。
さて、先日は中秋の名月でした。
そんなことはすっかり知らなくて、自宅の窓から見える月を見て「おや?なんだか今日の月はやけにデカいなあ」「うーん、デカいねぇ」と妻と話してたわけ。
私は31歳、妻は35歳。
私はドビュッシーの月の光を口ずさむわけ。
インテリぶってやるわけ。
そして私は言うわけ。
「この曲はドビュッシーの月の光だけどさ、曲だけで情景が浮かんでくるのってすごいよね」
「浮かぶね」
「この曲を聴いて浮かぶ情景って、朝か昼か夜かで言えば、完全に『夜』だよね」
「うん、夜ね」
「草原か水辺かで言えば、これは『水辺』じゃない?」
「水辺だね」
「悲しみか哀しみかで言ったら、違いは分かんないけど『哀しみ』だね」
「分かんないけど、ぽいね」
「月が水辺の向こうの夜空に浮かんでて、水面に月の光が反射して、自分のところまでスッと伸びてきてるのを見ている感覚になるよね」
「あー、あたしはそうじゃないな」
「えっ」
「あたしがこの曲を聴くと思い浮かぶ情景はね…」
この曲を聴いた時、人それぞれで浮かぶ情景はこうも違うのかと思い知らされた。
うちの妻は、ドビュッシーの月の光を聴くと、こんな情景を思い浮かべるらしい。
「あたしがこの曲を聴くと思い浮かぶ情景はね」
「うん」
「まずスーツを着た長身の男の人」
「へ?男の人?」
「で、むかし家族を殺されて復讐しようと計画して、家のダイニングに座って、刃物か銃をメンテしてる。時間は夜ね」
「ふ、復讐?メンテ?」
「なんかの金属がシャリンってなる音がして、車に乗り込む。『よしこれから狩るぞ』って決意を固めてんのよ」
「狩るの?レクター博士みたいなこと?」
「そう。で、車のルームミラーには少し笑った顔が映るの」
「韓国ドラマかアメリカドラマじゃん」
「月の光を聴くと、そんな景色があたしは浮かぶなぁ〜(しみじみ)」
ニヤニヤしながら、私の発言の意図を汲んであえて逆を行こうと、めちゃめちゃにしようとしてくる妻である。
いいね、悪くない。
事実、爆笑したし。
最高だ、うちの妻は。
前々からうちの妻は、サイコキラーが登場する映画やドラマを好んで見ていることは知っていた。やけにサイコな奴が出てくる作品ばっかり見てるなぁと思ってはいた。
たしかにサイコキラーが活躍するシーンのバックにはクラシックが流れていることが多い。レクター博士が料理してるシーンでドビュッシーが流れていそうなのも分かる。
名曲は歳を取らない。
それはいつ、誰が聴いても新しく聴こえ、時空を超えて新たな人を魅了していく…らしい。
まさかドビュッシーも、現代の日本、北海道は札幌で2人暮らしをする夫婦が、中秋の名月を見ながらサイコキラーの話をすることになるとは想像もしてなかっただろうな。
時空を超えてるもんなぁ。
音楽はすげえや。
▶︎もう一回『月の光』
ドビュッシーの月の光を聴いて、夜空の月以外の情景ではなく、サイコキラーが連想されるという、それはそれで新しい魅力を思い知った夜だった。
それではまた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?