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学校でも教えてほしいキャリアの見つけ方~伊沢拓司さんの講演から~

いま、10代の若者たちに向けて起業家精神を伸ばすための「アントレプレナーシップ教育」が盛んになっていますね。

全国各地でさまざまな教育プログラムが実施されていますが、関西には大阪・京都・兵庫を中心とした大学や企業、自治体が学生の起業を支援する「関西スタートアップアカデミア・コアリション(KSAC)」という取り組みがあります。

取り組みの中には「DOON Jr.」という高校生を対象にしたアントレプレナーシップ人材育成プログラムもあります。

先日、これらのプログラムの集大成となるイベント「KSACアントレプレナーズデイ」が行われ、多くの中高生が見に来ていました。

イベントでは、関西のアントレプレナーシップ教育の現状に関するトークセッション、プログラムに参加した高校生たちによるピッチ大会、関西圏の大学の起業支援に関するパネル展示などが行われました。

その中で、来場していた中高生たちにとって、おそらく一番の思い出になったのが伊沢拓司さんの基調講演です。

「道なき道の歩き方〜何よりも充実したキャリアのために〜」というタイトルで行われた基調講演は、「将来やりたいことなんて決められない」と悩む中高生にとって、とても分かりやすく考えを整理できるものでした。

将来の夢は「職業名」で考えない

基調講演は伊沢さんから会場の中高生たちへのこんな質問で始まります。
「今の時点で将来の目標が明確に決まっている人はいますか?」
見た感じ、6割くらいが手を上げていました。

そして、いよいよ本題へ。
伊沢さんは中高生たちにスマホを出して、メモ張を開くよう促します。基調講演というより、完全に参加型のワークショップの様相を呈しはじめます。

そして最初のミッションが課されました。
「あなたが将来やりたくないことは何ですか?できるだけ、たくさん書いてみてください」

そして5分ほど時間を取った後、マイク片手に客席を回り、中高生たちに何を書いたか聞いて回ります。

「運動が苦手なので肉体労働は無理」
「起きるのが苦手なので朝早い仕事は無理」
「人をだまして不幸にするような仕事は嫌だ」
「人からの印象を気にしながら生きるのは嫌だ」

などなど、クスっと笑える意見もあれば、心に刺さる意見もありました。

そして次に与えられたミッションは
「あなたが好きな生き方、過ごし方、行動は?」

今回も客席へ下りてきて何を書いたか聞いて回ります。

「人と話すのが好き」
「旅行など楽しいことをたくさんできる生き方」
「人から多くのことを吸収できる生き方」
「たくさん寝たい・・・」

など、今回もバラエティに富んだ意見に会場が盛り上がります。

この2つのミッションが終わったところで伊沢さんは壇上に戻り、この意図を語り始めました。

まず参加者にスマホのメモ帳を使わせた意図について説明。これは頭で答えを考えるよりも、きちんと言葉で表すことが重要だから、という理由でした。その考えの背景には、ご自身がそれをやってこなかったことへの後悔があるのだそうです。

東大王として脚光を浴びる以前、なりたい「職業名」だけが先行し、どういう人間になりたいか分かっていなかったという伊沢さん。その結果、現在の活躍に至るまでにはいろいろと不本意なこともあったそうです。

そこで、自分の希望を言語化することの大切さを改めて実感。
「自分がどうなりたいか、なりたくないかを言葉にして確認し続けることで、その先にある天職が見えてくる」とのことです。

ポイントは「確認し続ける」ということで、一回やればいいというものではなく、定期的に自分に問い続けることが重要なのだそうです。

自分と社会を“つなぐ”

ここから、第2弾のミッションへと移ります。再びスマホのメモ帳を開くよう促し、今度は次の3つの質問を投げかけました。

①あなたはどんな人でありたい?職業名を使わずに書こう。

(会場から出た答え)
「自分自身の美徳、芯がある人、それを強要しない人」
「他の人を安心させられる、背中を押せる人」
「社会課題を解決できる人、地元を活性化できる人」

②上の内容を満たすために、あなたが今後10年でやるべきことは何?

(会場から出た答え)
「本を読んだり、人と関わる」
「好きなことをたくさんして、嫌いなことも少しやる」
「チームワークでたくさん失敗を経験し、失敗から改善を語る」
「社会課題に関する本を読む、歴史を知る」

③これらの達成のために大切にすべきこと、したいことは何?

(会場から出た答え)
「健康を大切にする。心に余裕を持てるように早寝早起き」
「どんな人もフラットに扱う」
「努力を続ける。物事を先延ばしにしない」

このミッションは割と難易度が高かったようで、会場の中高生たちも答えに窮している様子でした。

この第2弾のミッションの意図は「どうやって自分に社会的価値を付けるか」を発見することです。

いくら自分のやりたいこと、やりたくないことを言語化したところで、社会に価値を提供できる人間にならなければ、お金は稼げません。

前半の2つの質問で言語化した“自分”と“社会”をつなぐためには、何を問い続けるべきなのか。
それがこのミッションに込められていたのでした。

この3つの質問に対して、自分以外の人が納得する答えを出せるようになることが、社会とつながる糸口になります。

そして、この3つは企業が掲げる「ビジョン・ミッション・バリュー」に通じている、というタネ明かしもしてくれました。

この3つの問いも、定期的に言語化し続けることが大切とのことです。会場に来ていた中高生にとっては、ただ聞いているだけの基調講演とは異なり、学びと刺激に満ちた経験となりました。


中学・高校で進路に悩む人は多いと思いますが、この「なりたい自分を言語化する→その自分を社会とつなぐ」というアプローチは参考になるのではないでしょうか。

今も進路選択の教材の中には職業カタログのようなものが少なくありません。これも将来を考えるきっかけになりますが、社会に出たことのない中高生が「職業名」から将来の夢を考えるのはいささか無理があるのではないでしょうか。

さらに言うと、ビジネス環境が次々と変わる今の時代、世の中の職業も数年でコロコロと変わっていきます。

そんな時代だからこそ、自分が「何になりたいか」ではなく「どう生きたいか」を明確化し、それと社会的な価値を両立させるマインドやスキルが求められる。そんなことを実感するひと時でした。

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