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奇縁堂だより 36【本の紹介 : 吉川英治文学新人賞】

 前回の"奇縁堂だより35"は吉川英治と彼の名を冠した文学賞「吉川英治文学賞」を紹介しました。今回の"奇縁堂だより36"は,「吉川英治文学新人賞」とその受賞者(受賞作)を紹介します。

 歴代の受賞者を見ると,人気作家がずらりと並んでおり,まさにこの賞が意図するところの「最も将来性のある作家」が受賞していると言えます。

吉川英治文学新人賞

 「吉川英治文学新人賞」は1980年から開催されており,年に1回受賞作が発表されます。
 対象となるのは,1月1日から12月31日までに新聞や単行本などに"小説"を発表した新人作家です。(吉川英治文学賞は小説だけでなく,評論,その他の文学作品も対象しており,そこがこの賞と異なります。)

 候補作家は,吉川英治文学賞と同様に「作家、画家、批評家、および各出版社の編集長、新聞社学芸部長・文化部長、ラジオ・テレビ・映画関係者、一般文化人等数百名」(講談社HPから引用)から推薦されます。

 実施委員会で人数を絞った後,選考委員会の合議によって「最も将来性のある作家」として受賞者を決定します。

 2024年(第45回)の受賞作品には藤岡陽子『リラの花咲くけものみち』(光文社)が選ばれています。
 過去には,椎名誠(第10回),伊坂幸太郎(第25回),瀬尾まいこ(第26回),辻村深月(第32回),薬丸岳(第37回),今村翔吾(第41回)などといった人気作家たちが,この賞を受賞しています。まさに人気作家への登竜門といって良い文学賞だと思います。

 ちなみに,北方謙三,伊集院静,宮部みゆき,浅田次郎,大沢在昌,帚木蓬生の6人は「吉川英治文学賞」と「吉川英治文学新人賞」の両方を受賞しています。

 奇縁堂に在庫のある「吉川英治文学新人賞」の作品を紹介します。

紹介作品一覧

○『大砲松』 東郷隆
○『皆月』 花村萬月
○『終戦のローレライ』 福井晴敏
○『天地明察』 冲方丁
○『鉄の骨』 池井戸潤
○『村上海賊の娘』 和田竜

作品紹介

○『大砲松』 東郷隆 文庫 ¥450(税込)
 第15回受賞
 神田和泉橋(現在の昭和通りの秋葉原駅と岩本町駅の間)にある長屋に住みながらも,贅沢な暮らしをする松三,人呼んで"締出しの松"。
 松三の背中には刺青がある。この刺青がきっかけで,松三は徳川慶喜などの警護を目的に作られた"彰義隊"に入隊することになり,そして大砲掛の任につく。
 ただ時は幕末,京都で始まった戊辰戦争が江戸まで到達し,松三の所属する彰義隊は上野山での戦いに破れ敗走することになり…

 徳川を江戸を守るはずだった男たちが,江戸の街を逃げ回る!
 松三を含め彰義隊の隊士たちの,情けなくも人情味溢れる姿が描かれている時代小説です。


○『皆月』 花村萬月 文庫 ¥150(税込)
 
第19回受賞
 PCオタクのブサイク中年男・諏訪徳雄,ある日彼に悲劇が訪れる。
 なんと妻・小夜子が突然蒸発してしまったのである。しかもそれまでコツコツと貯めていた1千万円の貯金とともに!
 妻を失くし,お金も失くし,仕事までも失くした徳雄。四十路の男はもう生きる希望すら失くしてしまう…
 それでも徳雄は,姿を消した妻の行方を探すことを決意する。
  絶望の淵に追い込まれながらも妻を探す徳雄を救った?のが,ヤクザな義弟・アキラとソープ嬢・由美だった。
 アキラや由美と関わり,これまでとは全く異なるアウトローな世界に触れる,いや浸かることで,徳雄が"自分"や"生き方"について向き合っていく作品です。

 1999年に奥田瑛二が主演し,北村一輝なども出演し映画化されています。


○『終戦のローレライ (全4巻)』 福井晴敏 文庫 ¥450(税込)
 
第24回受賞
 日本が敗戦に瀕していた1945年(昭和20年)夏。
 ナチス・ドイツからもたらされた戦利潜水艦・伊507が日本の運命を変える。
 
 伊507に日本軍の浅倉大佐から秘密任務が与えられる。それは,五島列島沖に沈む特殊兵器・ローレライを回収するということ。
 浅倉大佐は「あるべき終戦の形」のために,特殊兵器・ローレライを手に入れようとしていた。そして,少年兵・折笠征人は"ある理由"から伊507の乗組員に選ばれる。
 
 伊507はローレライの回収を目指し,瀬戸内の港を出港する。しかし,日本軍だけでなく米軍もローレライの回収を目論んでおり,伊507は米軍の潜水艦との死闘を繰り広げることになる。
 日本軍とアメリカ軍が競って手に入れようとする「ローレライ」とは、果たして如何なる兵器なのか?ローレライの正体がわかった時、折笠そして伊507の乗組員達は…
 そして、浅倉大佐が云う「あるべき終戦の形」とは?


○『天地明察 (上下巻)』 冲方丁 文庫 ¥350(税込)
 第31回受賞
 江戸時代、暦として使われていたのが中国で生まれた暦法・”宣明暦”。
 しかし、この宣明暦にズレが生じ始めていた。そこで、4代将軍・家綱の時代に「日本独自の暦」を作る改暦プロジェクトが立ち上がる!

 このプロジェクトの実行者に選ばれたのが、渋川春海である。春海は碁打ちの名門の家に生まれたものの、現在は算術にどっぷりとハマっていた。
 春海はこの算術を駆使して正確な「暦」を作ることを求められたのである。

「暦」は、身分関係なく全ての人の生活に関わるもの。
 それを新しく作るのだから一筋縄でいくはずもなく、さまざまな困難や苦労が春海を待ち受けていた!
 一大事業である「改暦」に挑んだ渋沢春海の20年にわたる物語です。


○『鉄の骨』 池井戸潤 文庫 ¥350(税込)
 第31回受賞
 中堅ゼネコンの一松組に勤める富島平太は,人事異動で部署が変わることになる。平太が移動した先の部署は,大型の公共事業を受注する部署だった。平太が移動となったこの部署は,公共事業を取り扱っているからなのか”談合課”と呼ばれていた。

 そんな中,地下鉄工事に関する入札が行われることが決まる。一松組にとって,この工事を取ることは必須!取れなければ会社が傾くかも…
 平太たち一松組は看板である”技術力”を武器に入札に挑む!
 しかし、そこに大きな大きな壁が出現する。
 「談合」である。

 「談合」を行う側には行う側のもっともらしい理論がある。だが法律(ルール)違反である。今回の入札関わることで平太は,自分の所属する課がなぜ「談合課」と揶揄されるのかを,そして建設業界の裏までを理解する。
 そして以外にも?平太が今回の入札と談合のキーパーソンになっていく。

 果たして、平太は公平な"正義”を選ぶのか、それとも組織という”体制の理論”に与するのか。平太と一松組の運命は!?


○『村上海賊の娘 (全4巻)』 和田竜 文庫 ¥770(税込)
 第35回受賞
 戦国時代,瀬戸内の海を根城にその名を轟かせた海賊がいた。それが「村上海賊」である。当主・村上武吉は荒々しくも剛勇な人物であった。この武吉によく似たのが娘の景であった。

 織田信長は満を辞して天下統一に乗り出す。信長は大阪の本願寺を攻め,一向宗の門徒たちを籠城に追い込む。
 一向宗方は毛利家に対し海路からの支援を要請する。そこで,毛利は村上海賊に頼る。一方で,織田方は泉州の海賊・真鍋海賊を使いそれを阻もうとする。
 
 難波海でついに両軍の海賊が激突する「木津川合戦」の火蓋を切られる!
 この「海の戦い」を制するのは,村上海賊を有する毛利家と一向宗か,それとも真鍋海賊を有する織田方か。


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