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ごはんを炊く気軽さでそばを茹でよう

(2020.5.2  修正しました。ほうれん草はつゆと一緒に茹でるのではなく、下茹でしてつゆと合わせるのが良いそうです)


私の実家では、年越しのときくらいしか、家でそばを食べる習慣がなかった。

しかし私は、小さい頃から、外食などで食べるそばが好きだった。おいしいからだ。
実家を出て自分で料理するようになったとき、(別にそばはもっと日常的に作っても良いのではないか?)とふと思い立ち、乾麺のそばをスーパーで買ってみた。

実家で食べていなかったものを作るのは、ちょっとした冒険である。
母はうどんやそうめんは日常的に茹でていたのだから、蕎麦だけ家で茹でられないということはないだろう、とは思うものの、
逆に、蕎麦だけ茹でなかったということは、
蕎麦を茹でるのには何か非常に失敗しやすい行程があって、実は袋に書いてある手順よりもはるかに難しい料理なのかもしれない、
という想像もはたらいた。

袋の裏に書いてあるままに、4分茹でて、水で締める。
きゅっと締まったそばを、傍らの小鍋で温めておいたつゆに入れて少し温めなおし、器に盛る。
一見何の問題もなさそうだ。茶色いつゆに浮かぶ、弾力のある細い麺。
駅前のそば屋で食べられる中で、一番シンプルなメニューの見た目をしている。匂いもおいしそう。
ひと束手繰って、啜ってみる。
あれ?

普通においし〜〜!

最初からおいしいそばができたので、拍子抜けしてしまった。
つゆに冷凍のまま投入して煮るだけのうどんと比べたら確かに手間だけど、
手順としては、そうめんを温めて食べるときと変わらない。
なぜ母はそばを茹でなかったのだろう?

この文章を書いている今、母にLINEで聞いてみたら、
「ごめんね😅私が特にそばを好きじゃなかったから。あと、そばを茹でるのは難しいのかと思ってた」
と返ってきた。
単なる食の好みの違いと、母の中で
「そばに興味がない→茹で方を調べない→難しいんじゃないかと敬遠する→そばに興味が湧かない」
という、誰にでも起こるループが起きていたというだけだった。

一方私はそばが大好きなので、一度茹でてみてその簡単さに味をしめてからというもの、
週に3回は茹でるようになった。

回数を重ねると徐々に横着が身についてしまうもので、
麺を水で締めることによって一度ぬるくなるのを面倒に感じ、締めずにそのままつゆに放り込んだこともある。
もちろん締めたほうが食感は洗練されるが、柔らかいそばが好きであれば、締めなくても大きな問題はないように感じた。

しかし、手抜きをどんどん重ねていくうちに、
あるとき、茹でた麺がぬるぬると互いにくっつき、麺から溶け出した成分でつゆまでどろどろになり、
とても食べられたものではないそばができてしまったことがあった。

同居人に自分が茹でる過程を見てもらって分かった原因は、
水で締めなかったからではなく、
早く食べたいあまりに、お湯が完全に沸騰する前に麺を入れてしまったからだと判明した。
あとは、おそらく、小鍋で茹でたせいで、麺同士の距離が近すぎたのも理由の一つだった。
いずれも、麺が芯まで充分に熱されない状況を作っていたのだと思う。

私はその失敗以来、鍋の中がぼこぼこと騒ぎ出してから麺を入れることだけは守っている。
麺が鍋の中で一本一本ぐるぐると踊り回っていれば、成功の合図だ。
とはいえ、気をつけることはそれくらいだ。
それさえ守れば家で美味しく作れるのが、そばだ。

私は、家庭料理として、そばは完璧だと思っている。

お湯を沸かせばすぐにできるし、つゆで体も温まる。
相性の良い具材が多く、いろんな野菜や肉類を入れられるので、栄養バランスも取りやすい上に、
だいたいの具材はつゆと一緒に煮込むだけで良いため、味付けに頭を悩ますこともない。
油で炒めてソースを作る必要がないので、油分が抑えられてヘルシーでもある。
仮にご飯を主食に据えて献立を組み立てようとすると、他におかず一品と汁物一品くらい用意したくなり、その分工程が増えるが、
そばであれば主食もおかずも汁物もそれだけで賄うことができる上、お腹もいっぱいになる。

以下に、我が家流のそばの作り方を書いていきたい。
とは言っても、とことん楽をするための作り方である。

温かいそばの場合、つゆは、市販のめんつゆをお湯で伸ばすことが一番多い。
関東のどこででも食べられるような、真っ黒で甘みの強いつゆになる。
ただし、めんつゆのパッケージに「かけつゆの場合:5〜6倍希釈」と書いてある場合、
そのまま従うと自分には味が濃すぎるので、よく7〜8倍程度に薄めている。
もっとあっさりしたものが食べたいときは、うどん用の顆粒出汁(ヒガシマルのうどんスープ)をお湯で溶かす。

冷やしそばのときは、ただめんつゆを伸ばしてもりそばとして食べても良いが、
豆板醤やにんにくなんかを加えてラー油を垂らし、焼いた豚肉やネギを合わせてつけそば風にすると、夏の食欲を増進させてくれる。

でも家庭料理としてのそばが本領を発揮するのは、何と言っても温そばだと私は思う。
何せ、具材の懐が深いのだ。

冷蔵庫の中の何を乗せてもだいたいおいしくなる。
白菜、水菜、レタス、長ねぎ、小ねぎ、かぶ、ゆず、きのこ、油揚げ、かまぼこ、肉、納豆、卵、キムチ、わかめ、麩……。
中でも、私の一押しはほうれん草だ。
ほうれん草は、茹で時間も短いし、具材に味が染み込むまでも早い。
さっと茹でて、温めている最中のつゆに加えれば、つゆを含んで艶々とした存在感の強い具材がすぐにできてしまう。
白菜やかぶより調理時間が短いし、水菜やレタスよりつゆのうまみを吸ってくれるのだ。

我が家では、ほうれん草と何らかのきのこを具材にすることが多い。
合わせるきのこは、えのき、エリンギ、椎茸、なめこ辺りをよく使う。
このとき、具材自体の味は控えめなので、つゆはうどんスープでなく、めんつゆベースで作ると味がはっきりしておいしくなりやすい。

逆に、かまぼこや卵や肉などの動物性蛋白を使うときや、油揚げなどうまみの強い食材を入れるとき、
または水菜のように、つゆを吸わせるというよりも食感を楽しむ野菜を入れたときは、
うどんスープのあっさりした味をベースにして、それぞれの具材の良さを引き立たせる楽しみ方もお勧めである。

肉の中でも特に、鶏ささみを入れるときには、
めんつゆでもうどんスープでもなく、鶏がらスープをベースにしたつゆも試してみてほしい。
スープとして飲んでおいしい濃さの鶏がらスープに、好みの量の醤油を足せば鶏出汁のそばつゆになる。
これに生姜やわさびを添えると、ささみの淡白な味にぴりりとアクセントがついて楽しい一品になるのだ。
この鶏そばにほうれん草を加えても、実によく合う。

ところで、乾麺のそばは、他の多くの麺類と同じく、100gごとに一人分を想定して束ねられていることが多いが、
そば100gは、具材をふんだんに乗せて食べると、結構な量になる。
パスタやうどんの100gよりも、なぜか、多いように感じられるのだ。
これは完全に主観の話であるが、しかし私の家族も同意見であった。

そのため私は、いつも二人用で1.5人分を茹でている。
これに、例えばほうれん草を半束と、えのきを一束入れる。
こうして具材の量を増やして麺を減らすと、そばは緩やかなダイエット食にもなるのではないかと思う。

我が家で普段食べているそばはだいたいこんな感じだ。
私は食後にそば湯気分を味わいたいがためにただのお湯を沸かしてつゆを割って飲むこともあるのだが、
どう自分に言い聞かせようとこれは完全にただの薄くて熱いそばつゆになるので、全くお勧めできない。
食べながら普通につゆをちょっと飲めばいいのだ。

一品で一汁一菜、温かくて簡単で美味しくて豊かなそばを、ぜひあなたの日常にも。
そしてほうれん草を入れよう。

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