弁護士服部啓一郎

弁護士(東京弁護士会)。 刑事弁護、ネット上の表現トラブル(発信者情報開示請求など)を…

弁護士服部啓一郎

弁護士(東京弁護士会)。 刑事弁護、ネット上の表現トラブル(発信者情報開示請求など)を中心としています。 共編著『先を見通す捜査弁護術』(第一法規)など。 ご連絡はh@hklaw.jp 事務所 http://hklaw.jp

最近の記事

【肖像権】電車内での撮影・SNSアップの問題点

電車内での迷惑行為を撮影した動画がSNSに公開されることがあります。また、優先席に座っている若者を撮影し、ルール違反と指摘する写真がアップロードされることもあります。 このような写真・動画に対して、「肖像権侵害ではないか」「名誉毀損ではないか」という反論がなされることもあります。 肖像権の概要を説明し、いくつかのケースを検討します。 肖像権とは肖像権とは、その承諾なしに、みだりに自己の容ぼう等を撮影等されず、又は自己の容ぼう等を撮影等された写真等をみだりに公表されない権利で

    • 松本人志さん、伊東純也さんの法的措置を考察する

      2023年末、週刊文春は、松本人志さんが過去に性加害をしたと報じました。2024年1月、デイリー新潮は、伊東純也さんが性加害をしたとして刑事告訴されていることを報じました。 松本さん、伊東さんは争う姿勢を見せ、それぞれ弁護士の代理人を立てて法的措置をとりました。両者を比較しながら、特徴を検討します。 ※ 本記事は、報道を前提にするものであり、松本さん、伊東さんの性加害の有無や法的措置の正当性等を論じるものではありません。 法的措置の内容松本人志さんは、2024年(令和6年)

      • 異父母きょうだいの法定相続分・条文では結論が出ない問題

        このnoteの1つの目的は、比較的レアな法律問題や新たな論点を紹介することだと思っています。実務では珍しくないのに、基本書や注釈書に説明が載っていない論点が、意外とあるのです。 今回も、裁判所と見解が食い違ったものの、多くの教科書や注釈書には解説が載ってなかった問題を経験したので、紹介します。 異父母兄弟姉妹の法定相続分とは ある人が死ぬと相続が始まります。 日本の民法では、故人の遺産について、相続人の間での原則的な取り分を定めています。これが法定相続分です。 今回の問

        • 有名人の保釈金を考察する

          芸能人、スポーツ選手、経営者などの著名人・有名人が保釈されるとき、保釈金(保釈保証金)の金額によく注目が集まります。 この記事では約15年間(2008~2023年)の事例をピックアップしました。 前提知識~保釈と保釈金日本の保釈制度 犯罪を実行したとして検察官に起訴された人を、被告人と言います。 保釈は、勾留されている被告人が請求できます(刑事訴訟法88条)。 国によっては、まだ起訴されていない人(被疑者)も保釈請求できますが、日本ではそうなっていません。 保釈請求がな

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          2023年ステマ規制① 親会社・株主によるステマは?

          2023年(令和5年)3月28日、景品表示法5条3項の告示として「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」が指定されました。 いわゆるステルスマーケティングを正面から規制するものです。 2023年10月1日から施行され、規制が始まります。 すでに広い関心を集めていますが、気になる論点の1つを取り上げます。 1 2023年導入のステマ規制⑴ 以前は直接のステマ規制なし ステルスマーケティング(ステマ)とは、宣伝とは気付かれないように、商品・サービス

          2023年ステマ規制① 親会社・株主によるステマは?

          弁護人・代理人は本人に代わって謝罪すべきか【示談・和解】

          謝罪の意思を被害者に伝えることは、弁護士の活動でも重要なものです。 クライアントである加害者本人が被害者に謝罪することが困難な場合(本人が勾留されている、被害者が拒否しているなど)、弁護士は、本人に代わって謝罪すべきでしょうか。 1  弁護士が謝罪すべきか?依頼者が被害者に直接謝罪できないとき、弁護士が本人に代わって被害者に謝罪すべきでしょうか。大きくは2つの立場が考えられます。 ⑴ 本人に代わって謝罪するケース 筆者(服部)は、基本的にA説に立って弁護活動をしています

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          ポリコレ・キャンセルカルチャーに関する論考3本を読む(2023春)

          ポリティカルコレクトネス(「政治的正しさ」)やキャンセルカルチャーを巡る議論が、世界的に活発です。 2023年3月の法学セミナー「差別問題のいま」特集の論考では、新井誠・広島大教授「ルッキズムと憲法学」、森悠一郎・北海道大准教授「ポリティカル・コレクトネスの意義と限界」が特に目を引きました。 また、2022年12月には成原慧・九州大准教授「キャンセルカルチャーと表現の自由」(法政研究89巻3号)が発表され、こちらも注目されます。 以下、法学者による論文3本のご紹介と雑感を

          ポリコレ・キャンセルカルチャーに関する論考3本を読む(2023春)

          「勾留中の被告人と接見する方が、保釈された被告人との打合せより(弁護人は)楽である」という意見があります。 私自身は保釈された方が「楽」であることがほとんどです。 ともかく、保釈は被告人の権利・利益であるという前提を置き去りにして議論せぬよう気をつけたいですね。

          「勾留中の被告人と接見する方が、保釈された被告人との打合せより(弁護人は)楽である」という意見があります。 私自身は保釈された方が「楽」であることがほとんどです。 ともかく、保釈は被告人の権利・利益であるという前提を置き去りにして議論せぬよう気をつけたいですね。

          発信者情報開示命令の裁判に併合請求の管轄は認められるか【裁判例】

          2022年(令和4年)10月に施行された、発信者情報開示命令の裁判手続(非訟事件)には未解決の論点があります。 裁判の管轄について東京高等裁判所の決定(確定)がありましたので、裁判例として紹介します。 1 併合請求の管轄がなぜ問題か⑴ 併合請求における管轄(民事訴訟法7条)とは 「併合請求における管轄」は民事訴訟法7条に規定されています。 複数の人を被告として訴えを起こす場合、うち1名について管轄権が認められる裁判所に起こすことができます(細かい要件は割愛します)。 とて

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          国選弁護報酬額とアワリーレート【事例報告】

          弁護士報酬の時間単価(アワリーレート)がたまに話題になります。 最近では、弁護士報酬1時間あたり8000円は「安い」か議論になりました。 企業が支払う場合、8000円は明らかに低い水準でしょう。実際に弁護士が使ったすべての時間を依頼者に請求することは難しい実情もあります。 しかし、依頼者が企業ではなく、かつ公益性のある活動は、弁護士報酬自体が支払われない(無償奉仕)こともあります。類似案件であればアワリーレート8000円でも十分という人もいるでしょう。 弁護士が受任する義務

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          【殺人被告事件】審理不尽の結果、重大な事実誤認をした顕著な事由

          講談社元編集次長が、妻に対する殺人罪で起訴された事件で、最高裁判所は、2022年(令和4年)11月21日、東京高等裁判所の有罪判決を破棄し、審理を差し戻しました。 東京高裁が改めて公判を行うことになります。元編集次長が無罪となる可能性もあります。 今回の最高裁判決はこちらをご覧下さい。 元編集次長を有罪とした第1審判決(東京地裁)と控訴審判決(東京高裁)は第一法規などの判例データベースで見ることができます。 事実関係の争点は多岐にわたるので紹介は最低限とし、この記事では、

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          特定少年の実名公表事例を考察する【解禁6か月】

          2022年(令和4年)4月、特定少年(18歳及び19歳)のうち一定の要件に該当した場合、実名犯罪報道が可能となりました。 実名公表の基準については、5月の記事で取り上げました。 本記事では、約半年間に検察庁が特定少年の実名を公表した事例、公表しなかった事例を紹介し、実際の運用について考察します。 1 特定少年の実名報道の流れ(1) 検察庁は、特定少年の実名を報道機関に公表します。 (2) 報道機関は、実名報道するかどうかを各社の判断で決めています。 検察庁が公表しなくても

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          【施行直前】新たな開示手続にメリットはあるか【令和3年改正②】

          SNSや掲示板の権利侵害に対する「発信者情報開示請求」について、2021年(令和3年)、新たな裁判手続が創設されました。 発信者情報開示命令事件といいます。 いよいよ2022年10月から新手続の運用が開始されます。 新手続にメリットはあるか、5つの観点から検討します。 なお、実際の運用は裁判所やプロバイダの対応で左右されるので、ご注意ください。 プロバイダ責任制限法令和3年改正は、以下の記事でも紹介しています。 重要な前提 ~従来の裁判手続も利用できる新制度は、従来の手

          【施行直前】新たな開示手続にメリットはあるか【令和3年改正②】

          DM晒し行為の何が問題か?

          他人から来たTwitterのDM(ダイレクトメッセージ)やLINEのメッセージを、無断でインターネットに晒す(暴露)行為がよく見られます。 SNSで見かける「晒し」には金銭トラブル、ハラスメント、メディアの取材トラブル(ノーギャラ、依頼方法が無礼など)が多いようです。 弁護士や医師のような専門家がターゲットとなることもあります。 ガーシーこと東谷義和氏が参院選で当選するなど、最近は「暴露」が必ずしもネガティブには捉えられていないようです。 今回は、他人から来たDMを晒す行

          DM晒し行為の何が問題か?

          【無罪】時短協力金詐欺事件判決を公開します

          2022(令和4)年7月5日、東京地方裁判所(榊原敬裁判官)は、東京都の時短協力金を詐取したとして起訴されていたグエン・ズイ・ドン氏(ベトナム国籍)に無罪を言い渡しました。 弁護人は趙誠峰弁護士(主任)、須﨑友里弁護士(副主任)、服部でした。 (※2022年7月22日追記、検察官は控訴せず、本件判決は確定しました) 詐欺容疑での逮捕は2021年6月7日です。当時、メディアは、都の時短協力金詐欺の初摘発ということで大きく報じました。 その事件が無罪となったことは、特筆される

          【無罪】時短協力金詐欺事件判決を公開します

          実名犯罪報道ツイートの削除を命じた最高裁令和4年6月24日判決

          最高裁判所第二小法廷は、2022(令和4)年6月24日、Twitter社に対し、ある一般人の逮捕報道を紹介した投稿14件を削除するよう命じました。 逮捕や刑事処分は、8年以上前のことでした。 実名犯罪報道やこれをインターネットで転載・紹介する行為には、誹謗中傷を招いたり、更生を妨げる弊害があり、深刻な議論が続いています。 Googleの検索結果については、2017(平成29)年1月、厳しい要件を満たした場合に限り削除を認めるという最高裁決定が出ていました。「忘れられる権利」に

          実名犯罪報道ツイートの削除を命じた最高裁令和4年6月24日判決