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弁護人・代理人は本人に代わって謝罪すべきか【示談・和解】

謝罪の意思を被害者に伝えることは、弁護士の活動でも重要なものです。
クライアントである加害者本人が被害者に謝罪することが困難な場合(本人が勾留されている、被害者が拒否しているなど)、弁護士は、本人に代わって謝罪すべきでしょうか。

1  弁護士が謝罪すべきか?

依頼者が被害者に直接謝罪できないとき、弁護士が本人に代わって被害者に謝罪すべきでしょうか。大きくは2つの立場が考えられます。

A説 弁護士は加害者の代理人として、本人に代わって謝罪することができる。そのようにする方が示談交渉(和解交渉)がスムーズにいくことは多いので、弁護士自身も謝罪した方が良い。
B説 弁護士自身は加害行為をしていないから、本人に代わって謝罪する必要はない。『本人は謝罪しています』と伝言することになる。

⑴ 本人に代わって謝罪するケース

筆者(服部)は、基本的にA説に立って弁護活動をしています。つまり、依頼者に代わって謝罪することが多いです。
留保があるのは、立場や経緯によって例外があるからです。

弁護士が私選弁護人として、つまり依頼者から弁護士費用をもらって受任した場合、代理人としての性格が強くなります。また、民事事件の場合、弁護士の立場は、ほとんどの場合、文字通り「代理人」となるはずです。
代理人としての性格が強い場合、弁護士が本人に代わって謝罪することに支障はないし、本人の利益を考えると、そのようにすべきと考えられるでしょう。
とくに私選弁護事件では、依頼の段階で「被害者に謝罪して示談したい」と言われることも多いです。被害者に謝罪して示談することが依頼の主目的なのですから、弁護人が被害者に謝罪しないことに違和感はあります。

なお、下記は、もっぱら刑事事件についてですが、弁護士自身が本人に代わって謝罪するという立場の意見です。

被害者によっては弁護人が謝る必要はないとおっしゃる方もいますが、謝罪の弁を伝えることで感情を害する人は多くないので、依頼者の代わりに反省の弁を述べるのが無難です。

服部啓一郎、高木小太郎ほか編著『先を見通す捜査弁護術 犯罪類型別編』13頁(高木小太郎)

中原(潤一) 被害者に謝るときに、自分も謝るという人と、依頼者が謝っている気持ちをお伝えしますという人といると思うんですが、金杉さんはどうですか?
金杉(美和) 私は前者です。自分も謝っちゃいますね。というのも、伝言を伝えるだけですという姿勢は被害者に伝わると思うんですよね。そうすると最初から「弁護士は仕事でやってるだけだから」って感じになっちゃう。(中略)ただ、これは向き不向きもあるし、どちらがいいと一概には言えないと思いますけど。

『季刊刑事弁護増刊 情状弁護Advance』22頁。()内は引用者による補足

⑵ 弁護士の謝罪が不要である(本人の意思の伝達のみで足りる)ケース

同じ私選弁護でも、依頼主である被疑者・被告人の方針が当初から変わった場合はどうでしょうか。たとえば、「依頼者が当初犯行を否認していたが、その後、犯行を認めて被害者への示談を希望した」ケースです。
この場合、弁護人は当初と違う対応方針となったので、辞任しても不当とは言えません。辞任せずに被害者と示談交渉するとしても、当初の方針とは異なることをするのですから、弁護人と被疑者・被告人とは立場が異なることを強調せざるを得ません。よって、弁護人が被疑者・被告人に「代わって」謝罪しないことに、違和感はありません。

つづいて、国選弁護人の場合はどうでしょうか。
国選弁護人は、国から選任されているため、代理人としての側面は私選弁護より後退すると考えます(※代理人としての立場・権限自体はあります)。したがって、弁護人が「本人に代わって」謝罪するかどうかは、より柔軟に状況に応じて考え、実践しています。被疑者・被告人の行った行為の内容や謝罪の意思、その真摯さも踏まえて対処しています。

2 誰が謝罪するかの問題を超えて

筆者の見解・実践は上記のとおりですが、もう少し一般論に触れていきたいと思います。

まず、今回のテーマを否定するような話ですが、法的あるいは(法曹)倫理的な意味で、弁護士が謝罪の義務を負うことはないでしょう。
謝罪は高度の倫理的行為であり、思想・良心の自由(憲法19条)の観点から、強制できないからです。最善弁護義務(弁護士職務基本規程46条)は、謝罪のような倫理的行為を強制する根拠にはならないと考えられます。
弁護士が、依頼者との委任契約で「被害者に弁護人が直接謝罪すること」を義務としてあえて明記した場合、話は違うかもしれません。しかし、弁護士の謝罪が示談に必須とは言い難いので(交渉がスムーズになることはあるという話)、そのような特約は考えにくいでしょう。

いずれにしても、弁護士自身が謝罪するかどうかよりは、本人の謝罪・反省の経緯や内容まで被害者に伝えることが重要と思います。
「本人はあなたにお詫びしています」という言葉だけで納得される被害者は多くありません。
本人の態度、謝罪に至る経緯、「二度と同じ事をしない」といえる根拠があるのかを被害者から細かく聞かれることがあります。いったん弁護人・代理人の冷静な目から見た感想を述べた上で、本人にきちんと謝罪の態度があると考える根拠を示した方が、被害者に信用されるでしょう。

最後に、今回のテーマは、「被疑者・被告人に謝罪文を書いてもらうべきか」という別テーマにも関わります。
機会を改めて論じたいと思います。

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