見出し画像

2023年ステマ規制① 親会社・株主によるステマは?

2023年(令和5年)3月28日、景品表示法5条3項の告示として「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」が指定されました。
いわゆるステルスマーケティングを正面から規制するものです。
2023年10月1日から施行され、規制が始まります。
すでに広い関心を集めていますが、気になる論点の1つを取り上げます。

1 2023年導入のステマ規制

⑴ 以前は直接のステマ規制なし

ステルスマーケティング(ステマ)とは、宣伝とは気付かれないように、商品・サービスを宣伝する手法です。

日本では従来、「ステマを直接規制する法律はない」と言われてきました。
間接的に規制することはありました。

景品表示法(正式名「不当景品類及び不当表示防止法」)では、優良誤認(同法5条1号)、有利誤認(5条2号)にあたる表示が規制されています。ざっくりいうと、商品・サービスの誇大広告や表示が規制されています。
たとえば、SNSのインフルエンサーが、実際には依頼を受けての宣伝であるにもかかわらず、何らその事実を表示しないまま、とある商品について誇大広告をしたとします。この場合は、従来も、規制対象になってきました。
つまり、ステマである上、優良誤認・有利誤認にあたる行為がなされた場合は、景品表示法の規制対象となっていました。

⑵ 10月からステマ自体が規制

景品表示法5条3号は、優良誤認及び有利誤認でなくても、「商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの」を規制します。
今回、その内閣総理大臣の指定として、ステルスマーケティングにあたる行為が指定されたのです。

これによって、商品やサービスの内容について誇大広告をしたとはいえなくても、ステマであるだけで、景品表示法による規制(措置命令)の対象となり得ることとなりました。
指定告示によるステマの定義は、以下のとおりです。

事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの

一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示(内閣府告示第19号)

2 親会社・株主によるステマは?

⑴ 消費者庁の「運用基準」

2023年ステマ規制(指定告示)については、上記のとおり定義が抽象的であり、様々な事業活動上の広告・表示が対象になり得るため、各業界で幅広い関心と懸念が喚起されています。
景品表示法を所管する消費者庁は、運用基準の案を公表し、パブリックコメントを踏まえて、2023年3月28日に正式版の運用基準を公表しました。

運用基準が言及する事項は幅広いですが、かなり具体的な例を取り上げて、ステマ該当性・非該当性を説明しています。
もっとも、ケースバイケースになる広告・表示の類型も多いです。

また、「動画において事業者の表示である旨の表示を行う際に、一般消費者が認識できないほど短い時間において当該事業者の表示であることを示す場合」(第3・1⑵ウ)にはステマになり得るが、「事業者の協力を得て制作される番組放送や映画等において当該事業者の名称等をエンドロール等を通じて表示を行う場合」にはステマに該当しない(第3・2⑵イ)とされるなど、やや首をひねるような説明もあります。

⑵ 親会社・株主によるステマ―問題の所在―

では、本稿の主題です。
前記運用基準によれば、規制対象となるステマとは、「事業者(=広告主)が表示内容の決定に関与した」にも関わらず、その点が表示されていない(消費者にとって判別困難)ものです。

そして、運用基準によれば「事業者と一定の関係性を有し、事業者と一体と認められる従業員や、事業者の子会社等の従業員が行った」表示は、「事業者が自ら行った表示」であって、ステマ該当の可能性が出てきます。
運用基準では、さらに具体的な従業員の地位や立場に応じたステマ該当性や非該当性を述べています。

ただ、疑問が生じるのは、ある事業者の『親会社(の従業員)』や『株主』が、当該事業者と何ら協議することなく、当該事業者の商品・サービスを紹介した場合、これがステマに該当するのか、ということです。
運用基準では、「事業者と一体と認められる従業員」や「事業者の子会社等の従業員」の広告表示はステマになり得るということは書いてありますが、親会社のことは明示していないのです。

⑶ 消費者庁の見解

筆者と同じ疑問を持つ人がいて、パブリックコメントで指摘しています
それに対して、消費者庁も一定の回答をしております。

(意見)事業者の子会社等やその従業者への規制はあるが、収益により利益を得る事業者の親会社(持株会社を含む)やその従業者に対しては事業者の指示ではないことから対象外とするなど、根本的な制度設計の欠陥がある。不均衡を生じないよう、事業者性については何人規制を導入するなど、法改正で対応されたい。
(消費者庁の回答)御指摘の「事業者の子会社等」には、当該事業者の親会社(持株会社)も含みます。

「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」告示案及び「一般消費者が事業者の表示であることを判別する ことが困難である表示」運用基準案に関する御意見の概要及び当該御意見に対する考え方 No.48

上記回答によると、ある事業者の親会社(持分会社)やその従業員が広告表示をした場合は、ステマ規制の対象となり得る、ということのようです。
※ 「必ず規制対象」となると言っているのではなく、地位や立場や関与の状況等に応じて該当し得る、という意味です。

⑷ 曖昧な部分

ただ、上記の回答は、文言をよく読むと、曖昧な部分があります。

まず、当該事業者の株主(個人)は除外されているように思います。
たとえば、A社の大株主である個人(B)がいて、そのBが、(A社からの依頼は一切受けずに)関係を伏せてA社の商品をSNSで宣伝したとしても、ステマ非該当のように読めます。

また、あるA社に親会社C社があり、C社やその従業員が(A社側とは何ら協議することなく)A社の商品を紹介したからといって、常にステマ対象とはいえない。
上記消費者庁の回答では、「親会社(持分会社)」とわざわざ記載されています。意図は不明ですが、C社が純粋持株会社でなく、事業持株会社である場合は除外されるようにも読めます。

⑸ 消費者庁見解の根拠と妥当性

消費者庁は、運用基準において「事業者の子会社等」という表現を使っています。「子会社等」に『親会社』も含まれるというのは分かりにくく、問題ありです。
そして、消費者庁の回答には、理論的な問題もあります。

一般論として、ある事業者にとって、その子会社や従業員の行為については、命令・監督が容易であるといえます(「表示内容の決定に関与」することが容易といえる。)。ですから、ある事業者A社の子会社の従業員が、A社の商品・サービスを宣伝した場合、A社自身の広告表示とみなす余地があるわけです。
しかし、A社にとっての親会社や株主が、子会社と同様の関係であるとは、ただちに言えないでしょう。

「親会社は子会社の売上によって利益を得るから、子会社の商品の宣伝についてはステマ対象とすべきである」という考えもあるかもしれません。
しかし、2023年導入のステマ規制は、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」について規制しています。
たとえば、A社が、インフルエンサーに報酬を渡して自社商品をステマしてもらった場合、規制されるのはA社であって、インフルエンサーではないのです。インフルエンサーも利益を得ているにもかかわらず、です。
仮にA社に親会社があったとして、その親会社の役員や従業員が(A社側とは一切協議することなく)A社商品をSNSで取り上げた場合、A社をステマ規制違反に問うかどうかは、慎重に判断すべきです。規制の要件は、商品・役務を提供している事業者が、その「表示内容の決定に関与」したといえるかどうかだからです。
前記運用基準では、「事業者と一体」の場合はステマ対象になり得るとの見解のようですが、親会社であれば常に一体というのは乱暴でしょう(純粋持株会社の場合は、一体とみなされやすいのは理解できます。)。

また、消費者庁は、景品表示法5条3号にいう事業者(表示の主体)は、いわゆるベイクルーズ事件判決(東京高判平成20年5月23日)で示された解釈に沿うものだとしています。
しかし、同事件では、親会社・株主による表示は論じられていません。

消費者庁の歴代表示対策課長が編者を務める「景品表示法」(商事法務)の第6版(編著:西川康一)も読んでみました。
表示主体の関係箇所を通読する限り、ある事業者の親会社(の従業員)や株主による表示の問題は、明確に論じられていません。
ただし、A社が、B社と一緒に自社の商品・サービスを販売していたり、A社がB社の一部門と消費者に誤認されるような状況で商品・サービスを提供している場合、B社(やその従業員)によるA社商品の宣伝行為が、A社及びB社両者によるステマに該当し得ます(百貨店及び小売業者に対する排除命令事件、平成14年(排)第27号、同年10月25日参照)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?