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国選弁護報酬額とアワリーレート【事例報告】

弁護士報酬の時間単価(アワリーレート)がたまに話題になります。
最近では、弁護士報酬1時間あたり8000円は「安い」か議論になりました。

企業が支払う場合、8000円は明らかに低い水準でしょう。実際に弁護士が使ったすべての時間を依頼者に請求することは難しい実情もあります。
しかし、依頼者が企業ではなく、かつ公益性のある活動は、弁護士報酬自体が支払われない(無償奉仕)こともあります。類似案件であればアワリーレート8000円でも十分という人もいるでしょう。
弁護士が受任する義務のない事件のアワリーレートは、当該弁護士が納得していれば基本的に問題はないのです。

では、受任を断ることが事実上困難である事件はどうでしょうか。
その典型例が、刑事事件の国選弁護活動です。

各地の弁護士会でルールは異なりますが、弁護士は、国選弁護活動を含めた一定の公益活動を義務づけられています。
そして国選弁護名簿に登録した弁護士は、日本司法支援センター(法テラス)から国選弁護人候補としての指名を打診された場合、承諾するように努めなければなりません(国選弁護人の事務に関する契約約款7条3項)。

以下、実際の事件で国選弁護報酬のアワリーレートを計算してみます。
ただし、国選弁護報酬は、時間単価で支払われるのではなく、活動内容と結果によって決まるので、あくまで時間単価に「換算」したものです。
また、時間の測定はざっくりしたもので、厳密ではありません。

被疑者国選弁護のアワリーレート

国選弁護報酬は、大きくわけて、①被疑者段階、②公判段階があります。
被疑者が不起訴だったら、①だけで終わります。
いずれの段階でも、報酬額は法テラスが定めた基準で決定され、弁護人が決めることはできません。

以下は、詐欺被疑事件の、国選弁護報酬額(被疑者段階)決定です(※一部マスキング)。

被疑者段階では、弁護期間と接見回数に応じて基礎報酬が決まっており、上記は10万6400円は、5回接見したことを前提とした金額です。
また、報酬額は、原則として交通実費や印刷費用も含まれています。

つづいて被疑者段階で弁護活動に要した時間をざっくり計算してみます。
(※事務員の稼働は含んでいません)
・被疑者との接見(移動含む) 合計15時間
・関係者との交渉、打合せ 合計10時間
・書面作成、提出 合計4時間

以上をアワリーレートに換算します。
報酬総額  14万2895円
活動時間  合計29時間
アワリーレート 約4927円

アワリーレート4927円だと月160時間稼働で78万8320円の売上です(ただし経費込み)。

国選弁護(公判・無罪)のアワリーレート

つづいて以下は、公判段階での弁護報酬額です(※一部マスキング)。
公判の結果、被告人は無罪となり、昨年12月に確定しました。

公判に入ってからは、接見回数に応じた報酬はなくなります。
そのかわり出頭した公判回数に応じた加算報酬が入ります。
また、無罪判決だったので特別成果報酬が入ります。
特別成果報酬は、基礎報酬と公判加算報酬の合計と同額でした。

では、公判に入ってからの弁護活動に要した時間をざっくり計算します。
(※事務員の稼働は含めていません)
・公判出頭(移動含まず) 14回合計10.5時間
・被告人との接見(移動含む)及び通信  合計60時間
・現地調査等 合計4.5時間
・証人との打合せ 合計4時間
・書面作成、提出 合計35時間
・裁判所、検察庁等との事務連絡等 合計4時間

以上をアワリーレートに換算します。
報酬総額  32万9790円
活動時間  合計118時間
アワリーレート 約2795円

アワリーレート2795円だと月160時間稼働で44万7200円の売上です(ただし経費込み)。

他の事例では「最低賃金割れ」も

少し古いですが、2004年5月の愛知県弁護士会会報「SOPHIA」が掲載した「【特集】どうなってるの?国選報酬」では、激しく無罪を争って一定の成果が出た事件であっても、国選弁護人の報酬額が
「時給487円」
「時給換算すれば約840円」
と報告されています。

成果が出た事件でも最低賃金割れ水準であり、結果が出なかった事件ではもっと悲惨な水準の事件もあると思われます。

たとえ低水準のアワリーレートであっても、弁護士本人が納得して受任したのであれば問題はありませんが、国選弁護は、弁護士側で報酬額を決めることはできず、受任するかどうかも前記のとおり半強制的です。
国選弁護報酬をまともな水準に引き上げることが必要です。

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