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異父母きょうだいの法定相続分・条文では結論が出ない問題

このnoteの1つの目的は、比較的レアな法律問題や新たな論点を紹介することだと思っています。実務では珍しくないのに、基本書や注釈書に説明が載っていない論点が、意外とあるのです。
今回も、裁判所と見解が食い違ったものの、多くの教科書や注釈書には解説が載ってなかった問題を経験したので、紹介します。


異父母兄弟姉妹の法定相続分とは

ある人が死ぬと相続が始まります。
日本の民法では、故人の遺産について、相続人の間での原則的な取り分を定めています。これが法定相続分です。

(法定相続分)
第900条
 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
 (略)
 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

民法

今回の問題は、民法900条4号ただし書の問題です。
上記のとおり、「父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹=異父母兄弟姉妹」の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1と定められています。
(前者を半血兄弟、後者を全血兄弟という言い方もしますが、言葉遣いとして不適切であるとする考えもあるでしょう。)

同じきょうだいでも相続分が半分になったりするのは、(要するに)兄弟間の血の濃さが違うから、という説明があります。それが差別的だという意見もあります。ただ、今のところ違憲判断はなされていません。
なお、著名なことですが、非嫡出子の法定相続分規定については、憲法14条1項違反と判断され、法律でも廃止されました(最大決平成25年9月4日民集67巻6号1320頁)。

民法900条4号但書の基本的な意味

事例1
Xが死亡し、6000万円の遺産がある。
・Xには配偶者Yがいる。
・Xに父母及び子はいない。
・Xの兄Aは、Xと母のみが共通である。
・Xの妹Bは、Xと父母が共通である。

配偶者Yは、遺産の4分の3=4500万円、取得します(900条3号)。
残りの4分の1=1500万円を、きょうだいA・Bで分けます(同上)。
問題は分け方です。民法900条4号ただし書により、Xと父母を同じくする妹Bが、異母兄であるAの2倍もらえるように配分します。つまり、
A=遺産の12分の1=500万円
B=遺産の12分の2=1000万円
となります。

以上の計算は、条文をふつうに読めば、異論のない話です。

あまり教科書に載ってない事例

では、以下の事例はどうでしょうか。

事例2
Xが死亡し、6000万円の遺産がある。
・Xには配偶者Yがいる。
・Xに父母及び子はいない。
・Xの兄Aは、Xと母のみが共通である。
・Xの妹Bと弟Cは、Xと父母が共通である。

この場合もYは遺産4分の3=4500万円を取得します。
A・B・C間の、残り4分の1=1500万円の分け方が問題です。

①説:きょうだいのうち、父又は母が異なる者は1名分と数える。父母の双方が同じ者は2名分と数えて計算する。
A=遺産の20分の1=300万円
B=遺産の20分の2=600万円
C=遺産の20分の2=600万円

②説:きょうだいのうち、父母の片方だけ同じグループ(遺産の12分の1取得)と、父母の双方が同じグループ(遺産の12分の2取得)に分ける。同じグループ内のきょうだいの取り分は、頭数で割る。
A=遺産の12分の1=500万円
B=遺産の12分の1=500万円 ※
C=遺産の12分の1=500万円 ※
※ 父母双方共通グループは遺産の12分の2を取得。さらに頭数の2で割る。

解説の載っている文献と結論は?

事例2は、実務マニュアル的書籍や弁護士のウェブサイトに解説が載っていたりします(いずれも結論は①説)。
ただ、裁判資料として引用できる文献(注釈書、基本書等)では、この問題の解説を省略してしまっているものも多く、意外でした。
解説のある文献では①説で説明されています。
②説では、父母双方を同じくするきょうだいがたくさんいて、異父母きょうだいが少ない場合、後者の取り分が多くなる問題があるからです。

新注釈民法 (19)(有斐閣) 解説無し ※
新版注釈民法(27)(有斐閣) ①説
※ わかりにくいが、新注釈民法が新しい

内田貴『民法Ⅳ 親族・相続〔補訂版〕』 解説なし
大村敦『家族法〔第3版〕』 解説なし
近江幸治『民法講義Ⅶ 親族法・相続法〔第3版〕』 解説なし
二宮周平『家族法〔第5版〕』 解説なし
潮見佳男『詳解相続法〔第2版〕』 ①説

養子になったきょうだいの扱い

ちなみに、実父または実母の再婚を契機に、その配偶者の養子になることがあります(事例2で言えば、Aが、B及びCの父の養子になるなど)。
その場合に民法900条4号但書の適用はどうなるのかというと、なるべく、「父母の双方を同じくする兄弟姉妹」を増やす方向で考えていきます。
相続上は、実親実子関係と、養父養子関係を区別していないからです。

この問題は、上記の「新注釈民法 (19)」が触れておりました。
一方、「新版注釈民法(27)」や潮見「詳解相続法」は触れておりません。

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