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ラジオドラマ「青空」を聴いて

8月16日(日)20:00~21:00、TBSラジオで戦後75年特別番組『日能研presents ラジオドラマ「青空」』が放送されました。

TBSラジオの色々な番組の中でも紹介されていて、主人公を務めた宇内梨沙アナウンサーもTwitterやInstagramを通じて紹介。宇内さんが・・・・・・という少々ミーハーな気持ちもありつつ、題材的にも珍しい印象を受け、関心があったため聴きました。

あらすじ

反戦の思いを込めて作り上げられた朗読劇を、ラジオドラマにしたものです。
主人公の少年・大和は父と、犬の麦・猫の小太郎と戦時中の日本で暮らしている。
ある時、戦地に赴く軍のため、毛皮や食料の調達を目的に『犬猫供出命令』が出される。
いざ供出しなければならない場面に出くわしたときに、大和は麦・小太郎とともにその場を逃げ出し・・・・・・というもの。

本来は2時間ほどの朗読劇を、ラジオドラマのために1時間に凝縮した内容となっているそうです。

キャスト

作・演出:樫田正剛さん

樫田さんは作品をつくるきっかけとして、インタビューで次のように言われていました。

親が戦争を経験していて、その話を聞いていたことは大きい。
全部押し殺して「お国のために」という状況になっていた。そういう時代を繰り返してはいけないんだっていう気持ちを伝えたいという気持ちが大きかった。
当時のことを調べていると「供出」という言葉が出てきた。詳しく調べてみると犬や猫の供出もあったということを知り、それが今回の作品につながった。

語り部ほか:向井政生アナウンサー
主人公の少年・大和:宇内梨沙アナウンサー
犬・麦:高畑百合子アナウンサー
猫・小太郎:国山ハセンアナウンサー

大和や麦・小太郎の第一声を聴いたときは、「全然いつも聴いている声と違う!」という印象。時間が経つごとに耳が慣れたのか、声が自分にも馴染んでいった感じでした。

宇内さんはラジオやインタビューで「28年間この声なので、自分の声にしか聞こえない」と言っていましたが、驚くほどそんな風には聴こえない・・・。作品の一つの声としてしっかりと感じられました。
向井さんについては、これを聴いたあとで癌の闘病をされていたことを知りました。ご自身では「今までの完全なイメージどおりの声が出せていない」と言われていて。でも語り部と様々な役の演じ分けは、聴いている自分からすれば全然違和感のないものでした。

「青空」を聴いた感想

まずは当たり前の感想になってしまいますが、戦争の悲惨さが伝わる内容でした。今まで戦争について触れたり学んだりするときには、ほぼ全てに「写真」「映像」などの視覚情報が一緒だった気がします。それがない「音」「言葉」だけでの表現でしたが、自分なりに情景・景色を思い浮かべながら聴くことができていました。

戦争について見たり考えたりするうえで、犬や猫について焦点を当てることが自分のこれまでにはありませんでした。新たな部分に視点を向けられたのも、今回得られたことです。
子ども・犬・猫という、平和な世界なら可愛いものの象徴と言えるような存在すら、生きていくことに精一杯。今では考えられないような判断や行動を強いられる状況だったことが、作品では描かれています。

メインで登場していた大和・父・麦・小太郎、そして若い脱走兵の松原さんは、生きて終戦を迎えます。ドラマの最後としては良かったと思う一方、当時ではこれが特別で、決して全てが無事でいられた例ばかりではないことをひしひしと感じました。

日能研が後押しする意味

実は一番心を動かされたのは、前半に出てくる大和の行動でした。

『金属供出命令』が出されて、父が自身の万年筆を供出しようとしなかった時、「それはお国のためにならないのでは」と投げかける大和。
『犬猫供出命令』が出たときも、この時のことなどを引き合いに、「学校では非国民と言われる」「殴られ、弱虫と言われる」と告白する場面。
麦や小太郎と逃げ出したときも、助けたことで自身を責め続ける大和。

少年だからこその純粋さが気持ちや言動に表れているとも思えます。一方で、こう思わせてしまうのはきっと当時の教育によるところが大きいのではとも感じました。
自分の見ている範囲の中で、学校の占める部分はとても大きくて。学校で教えてくれることはきっと正しくて。「正しい」と思って言ったこと、やったことがやがて自分を一番苦しめていて・・・・・・。

日能研が作品のこういった部分を見て、ラジオドラマ化を後押ししたのか、自分には分かりません。
でもRHYMESTERの宇多丸さんがラジオで「日能研の株がガン上がりしている」と言われたように、自分もこの場面を聴いて、日能研が後押しする意味があるんじゃないかと思いました。
自分も曲がりなりに「教育をする」立場の勉強をしたため、少なからず教育について注目すること、考えることがある。このドラマは、教育が子どもに与える影響の大きさを物語っているものでもあると感じます。


戦争について、実際に経験として語り継ぐことのできる人は年々少なくなってきています。平和な日常を過ごし、戦争が身近なものとして感じられにくい今は本当にありがたい。ただ、危惧されるように戦争の記憶が風化し、もしいつ戦争が起きてもおかしくない状況に進んでいくのなら、本当に恐ろしいです。

戦争を知る世代の記憶を風化させない。
実際に語り継がれた今の世代は、それを語り継ぎ続けていく。
次世代は、戦争があったこと、その恐ろしさを知識として得て、経験しないよう行動していく。
今回の『青空』も、その助けになる作品だと思います。「戦争」と聞いて重く苦しいイメージを持つ人もいるかもしれませんが、1時間があっという間に経つほど聴き入ってしまう作品。

日曜日までは、radikoのタイムフリーで聴くことが出来るので、世代を問わず色々な方に聴いてもらいたいです。

そして、ラジオ好きとしては、今後も色々なラジオドラマを聴いていきたいと思いました。
ラジオドラマは全国にあるラジオ局の数多ある番組の中でも、そう多くないジャンルの印象。毎週のように放送しているラジオドラマは1つくらいしか思い浮かばず、単発で毎年数回放送されるものが多いイメージです。

情報番組やニュース番組だけでなく、ラジオドラマからも学ぶこと・感じる部分が沢山ある。
今後もアンテナを張って、色々なラジオドラマにも注目していきます。


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