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介護に関するリクエスト①「気分転換をしようとしても、悪いことが起きるような気がします。どうしてでしょうか」

「気分転換をしたいと思っても、自分が楽をしてしまった時に、悪いことが起きるんじゃないか、というような落ち着かない気持ちになります。それは、もう介護とは関係なくて、自分の行動力不足の問題なのではないか、とも思うのですが、どうでしょうか、」

 今回、読者の方から、こうしたリクエストをいただきました。というよりは、質問に近いリクエストといったほうが近いかもしれません。
 
 まず、介護者の方から、まさに現場の言葉を届けていただいたことに、感謝しています。ありがとうございました。決意や手間も、かけていただいたとも思いますので、そのことにも、ありがたいと思っています。こうしたリクエストは、読んでもらっている確かな感触を得ることもできますので、うれしく思いました。

 今回は、この質問に近いリクエストに対して、どこまで応えられるか分かりませんが、できる限りお応えするべく、書いていこうと思います。

二つの要素

 こうした気持ちの働きには、大きくいえば、2つの感情がもとになっているように思います。

 一つは、優しさ
 もう一つは、こわさ、です。
 両方の要素が混じり合っていることも少なくないのですが、1つずつ、書いていこうと思っています。

「やさしさ」から生じる、落ち着かなさ

 最初は、やさしさ、から考えていきたいと思います。

 リクエストしていただいた文章を読んだ、最初の印象は、優しい方、というものでした。
 そして、推測で申し訳ないのですが、こんな気持ちの動きがあったのではないでしょうか。

 それは、介護をうけるようになった、ご家族(違っていたら、すみません)に対して、気持ちの深いところで、なんとか、元に戻らないか、といった思いがあるのかもしれません。優しくて、共感力が強い方であれば、介護を受けるようになった方に対して、認知症にしても、身体の麻痺などにしても、我がことのように感じてしまうことも少なくありません。相手の方が、辛そうに見える時は、もっと楽にならないかな、といった気持ちを強く感じながら、介護をされているのかもしれません。

 そうなると、ベースが優しい方ほど、自分自身は、今は健康で、だから、自分は恵まれているのではないか。自分だけ楽をしてはいけないのではないか、自分が楽しい思いをしてはダメなのではないか、といった自責の念や、うしろめたさが芽生えることもあります。
その自責の念が、居心地の悪さにつながったり、うしろめたさが、何か悪いことが起こるのではないか、という予感に変換され、気分転換をすることを、止めようとしているのかもしれません。

 そうした気持ちのつながりは、そんなに単純ではないのかもしれません。
 ただ、どれだけ介護をしても、回復するのが困難なことが多いので、介護をする側の達成感を得ることも難しくなります。そうなると、とにかく、いつも無限に気を配り続ける、ということになりがちです。

 そうなった場合には、気分転換といった、介護以外のことは、気持ちの中で、してはいけないことになる可能性すらあります。介護をしていると、他のことができないくらい、気持ちのエネルギーを使っていることも、少なくありません。

こわさから生じる強い緊張感

 もう一つは、こわさです。

 介護をしていると、その年数なり、時間なりが増えてくるほど、介護を受けている方への意識の持ち方が、細やかになり、そして、小さい変化にも気がつくようになっていくのではないかと思います。そうした介護があってこそ、介護を受けている方の状況も、良好に保てているでしょうし、おそらく元気でいられるのだと思います。

 だけど、その介護状況を成立させている介護者は、ずっと気を配っている緊張感のために、介護者ご自身の消耗は避けられなくなってしまうと思います。だからといって、消耗されるから、気分転換をしませんか?とお誘いしても、目を離した時に、なにかが起こりそうで怖い気持ちが抜けないかもしれません。

 おそらくは実際にも、ちょっと目を離した時に、何かが起こってしまう経験は、介護をしている人にとっては、よくあることだと思います。それもたとえば年末年始や、誰かがきた時とか、自分が出かけていた時などに、介護を受けている方が、いつもと違うことをすることも、少なくないのでは、と思います。

それが、たとえば、とても冷静に統計的に見たら、1年のうちに3日だけだったりしても、その何か起こった時の記憶は、おそらくはとても鮮明に刻み込まれ、恐怖まであるかもしれません。さらには、「自分があの時に気がついていれば…」といった後悔があると、「これからは、そんなことがないようにしよう」と意識的だけでなく、無意識に近いレベルでの誓いも、自分自身にしている可能性もあります。

 そうなると、気分転換は難しくなり、目を離したスキに何か起こるのではないか、といった思いも強くなります。こうした気持ちになると、気分転換をすると、その間に何か悪ことが起きるのではないか、というような思いにまでも、つながりやすくなると思います。

 ただ、これは、介護者であって、介護を受けている方を大事にしたいと思っている方でしたら、ある意味では自然な気持ちの流れでもあると思います。こうした何かがあった時の記憶というのは、介護が終わっても、その時の気持ちとともに、ずっと残り続けるようなことでもあると思います。

 そして、繊細さと優しさが、日々の細やかな介護を支えているのですが、その尊い特質が逆に、こうした「まれな」出来事を、強く心に刻みやすくしてしまう傾向はあると思います。

 同じ状況であっても、そうした出来事を偶然と割り切ることもできるとは思うのですが、こうしたことを、強く覚える方のほうが、おそらくは長い介護生活の中で、こまやかに気を使い続けられる適性があるとも思います。ただ、それは介護者ご本人の消耗につながることでもあります。

 介護に関わってきて、こうした時に私は、支援者としては、ジレンマを感じます。
 介護を細やかに続けることで、介護を受けられている方は穏やかに過ごせて、そして、たとえば認知症だとしても、良質なコミュニケーションが下降線をゆっくりにする、とも言われていますので、そうした穏やかな状況が続く可能性も高くなります。
 ただ、その細やかな介護をされているということは、その家族介護者の消耗が進んでしまうでしょうし、それだけ適切な介護をしているということは、かなりの集中力があるのは間違いなくて、それは、逆に言うと、気分転換が容易に出来なくなりがちなので、難しいと思います。

では、どうすればいいのでしょうか? 

 こうした方に、そして、特に介護に適応し始めた方にとって、気分転換は、そういう集中力のあり方を崩すように感じるのかもしれません。だから、リクエストをいただいた方の気持ちは、介護者にとっては、かなり一般的な感覚なのだと思います。

 それは、行動力が足りない、といったネガティブな方向ではなく、介護に集中していて、そこにエネルギーを注いでいて、それが「通常モード」になっているので、気分転換は、そうとう難しくなっている状態なのだと思います。

 ですので、偉そうな言い方になり、申し訳ないのですが、無理をせず、今はそういう状態だと、いい意味で、あきらめた方が、現時点では楽になるのではないかと思います。

 今は、なるべく体を大事にされてください。
 そのうち、気分転換が「楽をする」というのではなく、「介護をしていくための必要なメンテナンス」として自然に取り入れられる時期が来るのではないかと思います。


 もし、よろしかったら、今のところは、気分転換をあまり意識せず、気持ちはそのままでけっこうですので、深呼吸だけでもしてもらえませんか。吸う時よりも、吐く息を長めにするといいと思います。


 あとは、心身ともに緊張状態でないと出来ないのが介護だと思うのですが、そんな中でも少しでも体の緊張を減らすことは、どうでしょうか。

 たとえば、両肩を首に近づけるように、なるべく力を入れて上げて、何秒間か止めて、急に力をゆるめると、そのあとに、肩のところが少し緩む感覚になると思います。そうした緩む感覚を少しでも味わうだけでも違ってくるかもしれません。

 だけど、これさえも、やる気になれなかったら、忘れてしまっても構いません。
 あくまで無理をせず、自分の体も大事にしよう、という意識を、少しでも持っていただくだけでも、違うと思います。


 「介護の大変さをやわらげる」というシリーズを書いていて、「気分転換をしたくても、できない」状態にいる人への配慮が足りなかったことを、気づかせてもらって、感謝しています。ありがとうございます。

 気分転換をするにもエネルギーが必要で、そこまでいかないほど消耗している人もいること。
 介護を必要とする人への意識がとにかく最優先しているので、そこから気持ちをそらすことができなくなっている優しさのために、また目を逸らしたときに起きた過去の記憶による、こわさもあって、気分転換をするのが難しい状態の方。

 そんな介護者の方がいらっしゃることは、知っていたはずなのに、前回は、そうした方々へ十分に伝えることができていませんでした。すみません。

 ただ、もし、同じように思っている方が、いらっしゃったら、とにかく無理をされないこと。そして、気分転換だけでなく、何かに取り組む気力が出てこないとしても、それは、介護をしていると、誰にでも起きがちなことですし、それだけ介護は大変なことなので、ご自分を責めないようにしていただければ、と思います。

 今回は以上です。
 もし、他にも「こんなことを書いてほしい」というリクエストがあれば、また書かせていただきたいと思っています。


(他にも介護のことで、いろいろと書いています↓。クリックして、読んでいただけると、うれしく思います)。

介護の言葉① 「介護離職」

介護の大変さを、少しでも、やわらげる方法②書くこと

家族介護者の気持ち③「死んでほしいは、殺意ではない」

「介護時間」の光景⑧ 「あかり」 5.6

『家族介護者の気持ち』 ①介護のはじまり・突然始まる混沌


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 この記事を読んでくださり、ありがとうございました。もし、お役に立ったり、面白いと感じたりしたとき、よろしかったら、無理のない範囲でサポートをしていただければ、と思っています。この『家族介護者支援note』を書き続けるための力になります。  よろしくお願いいたします。