渡邊 和久(元・未来創造研究所_所長)

パナソニックデザイン所属。異種異能集団『未来創造研究所』を立ち上げ、未来構想コンサルテ…

渡邊 和久(元・未来創造研究所_所長)

パナソニックデザイン所属。異種異能集団『未来創造研究所』を立ち上げ、未来構想コンサルティング、コンセプトダイナミクス戦略を展開してきました。同研究所は2023年3月末で解消しましたが、これまでのプロジェクトを通じて学んだこと、感じたことを、私個人の意見としてつぶやいていきます。

最近の記事

【出版体験裏話#03】 ゴールは霧の中

提出したサンプル原稿に指摘はなく、 前向きでいい感じのコメントをいただきました。 50個の目次と同様、 まずは、方向性の確認だったのでしょう。 そして、その後、 「原稿はいつまでにできますか?」 と言われた時、 実はちょっと不思議な気分になりました。 というのも、私が日常で扱う家電などのモノづくりは 企画が決まれば最終のゴールを先に決めるからです。 「いつまでに達成する」という大きなマイルストーンがあって、 工程を細かく刻んでいきます。 これが私の常識でした。 で

    • 【出版体験裏話#02】 サンプルを書こう

      1番目のミッション、 " 50個 "をクリアしたのは10月末でした。 目次となるメニューが50個並ぶと我ながら壮観で 「おお、なんかすごいな!」 「こりゃ何か動き出す予感がするぞ!」 と、勝手に盛り上がっていました。 そして、次は目次の構成や章立てを議論して あーでもない、こーでもないと言いながら 目指す方向性をビシッと決めるんだろうなと思いきや そんなことは全くありませんでした。 企画会議らしきものといえば 類書(競合となる別の書籍)をいくつか見ながら こんな感じかな

      • 【出版体験裏話#01】 50個、考えなさい!

        出版オファーをいただいた時点(2022年秋)では 「未来思考スイッチ」の記事は note 上で20個まで揃っていました。 そもそも、私の構想では20個でワンパッケージ。 各々3,500〜4,000文字なので合計すると約7〜8万文字、 多くの図表もあり、コンテンツとしては十分なボリュームでした。 しかし、編集者から最初のミーティングでさらりと言われたのは、 「50個まで増やしてください」 の一言。 「えぇーっ、50個ですか?」 25個とか、30個とかではないんです。

        • noteに綴ってきた記事が本になりました!(飛鳥新社より、4月26日発売)

          note に記事を書き始めたのは、2021年の東京オリンピック開幕日。 あれから3年近くが経ちます。 この記事をきっかけに、 2022年秋に出版オファーをいただき、 本格的な執筆が始まり、 そこから1年半ほどの時間をかけ、 ようやく本ができました。 その間、note 記事の更新がなかったのは、 執筆にシフトしたからでした。 タイトルは「大手メーカーの 未来研究者による 門外不出の 企画思考トレーニング」。 クイズ形式で様々な例題を一緒に考えながら読み進めることで、 企

        【出版体験裏話#03】 ゴールは霧の中

          #007:アナグラム、順番次第で意味が変わる

          マイケル・ジャクソンのデンジャラス・ツアー。 1992年12月、東京ドームにマイケル・ジャクソンがやってきました。マイケルファンの私は居ても立ってもいられず、チケットを入手し、当時暮らしていた関西から駆け付けました。このライブ、私にとってはいろんな意味で忘れられないものなのです。 冒頭、マイケルはステージ下からピンポン玉のように飛び出してきます。突然現れたマイケルに会場は騒然。もちろん、私も「わぁ---!」となったわけですが、その登場以上に衝撃的だったのは、マイケルの衣装

          #007:アナグラム、順番次第で意味が変わる

          #006:公共空間と私的空間、ひっくり返すと面白い

          モンゴルのパオ、サバンナの住まい。 随分前に読んだ養老孟司さんと隈研吾さんの対談集。モンゴルのパオ(移動式住宅)とアフリカ・サバンナの家の話題が印象に残っています。現代の私たちにとってプライバシーを守ってくれるはずの家が、パオやサバンナの場合は「家そのものが公共空間」になっているというのです。 サバンナの家は土と動物の糞を固めて作られます。私がケニアのマーラ・トライアングル国立保護区のサバンナを訪ねた際、地元のマサイ族の若者に住居を案内してもらったところ、「住居の壁は牛の

          #006:公共空間と私的空間、ひっくり返すと面白い

          #005:ドレミと螺旋(らせん)、不思議な関係

          対数螺旋(たいすうらせん)。 自然界には、対数螺旋というパターンがあります。オウムガイの殻や台風、銀河系に見られる「渦巻き形状」がその代表例です。渦巻きですから、身近な環境でその形は見つけやすいと思います。しかし、音階の「ドレミ」と対数螺旋(渦巻き)が関係していることを皆さんはご存知でしょうか。 ドレミファソラシドという音の並びはどこまでも繰り返しながら、「ドから次のドの音まで、1オクターブ上の音は周波数比が2倍になる」という規則性を持っています。ドより5音上の「ラ」の音

          #005:ドレミと螺旋(らせん)、不思議な関係

          #004:「調理」という発明が 人間らしさを誕生させた

          文明を興こす「フィクション(虚想力)」。 世界をフィクションで捉えてきたからこそ、ホモ・サピエンスは無二の人類に進化してきたと、「サピエンス全史」のユヴァル・ノア・ハラリ氏は言います。 「貨幣」による価値の交換を発明し、国境という線が存在しない地球上に「国家」という枠を生み出し、さらに多くの人を束ねるための神々を構想することで「宗教」を拡げてきました。「貨幣」「国家」「宗教」。これらは人々が信じているから成立するのであり、それ自体はフィクションの産物である、というのがハラ

          #004:「調理」という発明が 人間らしさを誕生させた

          #003:原油の中に潜む かくれた次元

          モノの内部の世界。 たくさんのモノに囲まれて、私たちは暮らしています。そのモノには内部があり、目に映る表相だけではわからないことがほとんどです。例えば、身近なスマートホン。半導体やカメラ、センサーなどの精密部品が詰まっており、ナノメートルという微細なサイズがこの世界のものさしです。 美しい自然の植物や生物も、小さな細胞や繊維で構成され、常に新しく生まれ変わりながらも一定の状態を維持するという「動的平衡」の状態にあります。部品の集まりではなく、流動性の中にこそ生命が存在して

          #003:原油の中に潜む かくれた次元

          #002:小松さんと米朝さん、忘れられない銀河の夜

          ホテルのラウンジに呼ばれて。 1995年頃だったでしょうか。知り合いの演出プランナーから、「大阪の〇〇ホテルで合わせたい人がいるから来ない?」とお誘いを受けたことがあります。そのホテルのラウンジは天井が高く、キャンドルを灯す程度の薄暗い場所でした。 ラウンジで待っていると、目の前に現れたのは小松左京さんでした。 私の小松さんのイメージは「SF作家」「日本沈没」「博覧会プロデューサー」です。1990年の国際花と緑の博覧会では、いのちの塔という施設のシステムデザインを私が担

          #002:小松さんと米朝さん、忘れられない銀河の夜

          #001:お小遣いの使い方、ひと工夫

          今回からの『未来思考スイッチ【番外編】』では、忘れられない過去の体験や日々の気づきをミニコラムとしてつぶやいていきます。 「今年の目標は何だい?」。 30歳の頃、私はシステムデザイナーとして、映像や音響を組み合わせた空間演出システムの企画を担当していました。当時の映像機器はブラウン管が主流でしたので、箱のようなテレビを何十個も並べて大きな映像装置を作ったり、音響技術を駆使した臨場感演出などを考えていました。 技術は詳しい人が身近にいます。でも、演出に関しては十分な知見が

          #001:お小遣いの使い方、ひと工夫

          未来思考スイッチ#21 「ミライベクトル」を描く旅に出よう

          『未来思考』、20のスイッチ。 ここまでのコラムでは、私が考える『未来思考』に至るヒントを綴ってきました。それらを大まかに分類すれば、「モノサシ軸」「主客の視点」「意識の力学」といったところでしょうか。 「モノサシ軸」は、座標やスケールを活用して新たな視座を考えるスイッチです。「#01 こころの直径」では、人が中心の距離で価値観が変わることを示しました。例えば、この距離を時間の大小に変えてみると、時間の利便性について分析ができます。直径のモノサシはいろんな尺度に入れ替え可

          未来思考スイッチ#21 「ミライベクトル」を描く旅に出よう

          未来思考スイッチ#20 「クエスチョニング」、問うことを楽しむ

          「検索」に見る、科学のパラドックス。 ケビン・ケリーの著書「<インターネット>の次に来るもの -未来を決める12の法則- (服部桂 訳)」は、私の大好きな未来考察本のひとつです。その中でグーグルなどの「検索」について語る箇所があります。 私たちは日々、検索サイトで「質問」をし、検索サイトから即座に「答え」を返してもらいます。検索サイトには広告が表示され、裏では検索語の学習で精度が高まるというしくみがあるものの、考えてみれば無料で膨大なインテリジェンスを与えてくれるインター

          未来思考スイッチ#20 「クエスチョニング」、問うことを楽しむ

          未来思考スイッチ#19 「12感覚」、常識を変える視点を持つ

          ユクスキュルの環世界(Umwelt/ウンベルト)。 環世界とは、ドイツの生物学者であり哲学者でもあったヤーコプ・ヨハン・バロン・フォン・ユクスキュル(1864〜1944)が唱えた概念です。簡単に言えば、あらゆる生物はそれ自身が持つ知覚で世界を理解しており、この世は客観的なものではなく、それぞれの生物が独自の時間や空間を知覚しているという考え方です。 例えば、人間は周囲の情報を視覚から8割以上得ていると言われます。犬であれば、嗅覚4割、聴覚3割、視覚1割。当然ながら、受け取

          未来思考スイッチ#19 「12感覚」、常識を変える視点を持つ

          未来思考スイッチ#18 「つくる・つかう・かたる」の進化形を意識する

          「建てない建築家」という仕事。 10年ほど前でしょうか。建築家・坂口恭平氏の展示会がワタリウム美術館で開催され、坂口氏が「建てない建築家」について語っているのを見て、私は何とも言えない衝撃を受けました。建築家とは「建物を建てる人」という固定観念があったから、「建てないってどういうこと?」と頭の中が混乱したのです。 フランク・ロイド・ライトの「建築家というのは建てる人のことではなく、建築を考える人のことを指すのだ」という言葉を引き合いに出しながら、ホームレスの暮らしの観察か

          未来思考スイッチ#18 「つくる・つかう・かたる」の進化形を意識する

          未来思考スイッチ#17 「ジンテーゼ」で未来構想を磨く

          和を以って貴しとなす。 聖徳太子の十七条憲法、私たちが出会うのは小学校の歴史の授業でしょうか。制定は604年、貴族や官僚など、政治に関わる人々を対象に道徳や心がけを示したものです。 その第一条にあたるものが「和を以って貴しとなす」です。「何をするにもみんな仲良く争わないのがいいね」「人は調和していくことが最も大事なことだよ」という内容を誰もが教わったことでしょう。私もそうでしたし、ずっとそれが正しい解釈だと思っていました。ところがこの条文、それだけの意味ではなかったのです

          未来思考スイッチ#17 「ジンテーゼ」で未来構想を磨く