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#006:公共空間と私的空間、ひっくり返すと面白い
モンゴルのパオ、サバンナの住まい。
随分前に読んだ養老孟司さんと隈研吾さんの対談集。モンゴルのパオ(移動式住宅)とアフリカ・サバンナの家の話題が印象に残っています。現代の私たちにとってプライバシーを守ってくれるはずの家が、パオやサバンナの場合は「家そのものが公共空間」になっているというのです。
サバンナの家は土と動物の糞を固めて作られます。私がケニアのマーラ・トライアングル国立保護区のサバンナを訪ねた際、地元のマサイ族の若者に住居を案内してもらったところ、「住居の壁は牛の糞で固めている」と聞きました。小さな住居にもかかわらず、ものすごい数の人が住み、寝起きを共にするそうです。夜間の外敵から身を守るため、集まり固まり「家そのものが公共空間」になったのでしょう。結果、個人の生活やプライベートな営みは家の外で。屋外が私的空間なのです。
チンパンジーなどの類人猿は木の上に住んでいますが、かつて安全な眠りを確保するために木の上を選んだのでしょうか。そうであれば、プライバシーの前に「安全のための公共空間」であることが家の原点なのかもしれません。
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公共空間と私的空間が入り混じる現代。
昨今、私たちの日常では在宅勤務が当たり前となり、公共空間と私的空間が曖昧になってきました。さらに子供たちが巣立った高齢世帯では空き部屋が増え、それをカフェやギャラリーとして地域に開放する「家開き」が拡がってます。私的空間の一部が公共空間化しているのです。
またその逆、公共空間においても私的空間化の例はたくさん見つけられます。航空機のビジネスクラスやファーストクラスの座席は、まるで個室のような場所になりました。新幹線の座席では電話やオンライン会議が可能な車両も出てきています。これまではマナー違反だった行為が許されるようになり、プライバシー優先の空間は拡散しているようです。
私の家の隣は、里山の風景が残る公園ですが、広大な公園のあちこちにポップアップテント(気軽に持ち運べる簡易テント)が目立つようになりました。子ども連れのお母さんが日よけに利用したり、お父さんがお昼寝をしたり、家族みんなでお弁当を食べるなど・・・。公園と言えばみんなで利用する公共空間だったはずが、簡易テントひとつでクローズドなプライベート空間化、マイリビング化を実現しているようです。
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ダイナミックに空間の目的を変えていく。
このように公共空間と私的空間が入り混じっていく背景には、モバイル技術や情報通信技術の登場が大きく影響していると思われます。ウォークマンのン登場により、どんな場所でもヘッドホンと音楽プレーヤーで私的空間に入れるようになりました。オンラインに繋げば誰とでもプライベートな時間を過ごせます。スマホさえあればあらゆる用事ができてしまいます。私たちは今、公共空間にいつでもアクセスでき、どこでも私的空間を持ち歩くようになったのです。
ツールの進歩が「空間の自在化」を促し、どんなことでもできてしまいそうな時代ですから、改めて空間の目的そのものを見直していくことが『未来思考』らしいアプローチだと思います。
オフィス空間、教育空間、商業空間、役所・病院空間、交通空間など、様々な場所があります。これまで公共空間だったものを私的空間へ。私的空間だったものを公共空間へ。いろんな思考実験をしてみると、新しいアイディアがひらめくかもしれませんよ。
<引用文献:養老孟司さんと隈研吾さんの対談集>
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