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#001:お小遣いの使い方、ひと工夫

今回からの『未来思考スイッチ【番外編】』では、忘れられない過去の体験や日々の気づきをミニコラムとしてつぶやいていきます。

「今年の目標は何だい?」。

30歳の頃、私はシステムデザイナーとして、映像や音響を組み合わせた空間演出システムの企画を担当していました。当時の映像機器はブラウン管が主流でしたので、箱のようなテレビを何十個も並べて大きな映像装置を作ったり、音響技術を駆使した臨場感演出などを考えていました。

技術は詳しい人が身近にいます。でも、演出に関しては十分な知見がありませんでした。そこで「プロの意見を聞こう」と私の上司が社外のコンセプターを紹介してくれました。髭をたくわえ、ロン毛で帽子をかぶるちょっぴり怪しい感じの人で、正直に言えば、その方との仕事はほとんど実績が出ず、何をやったかは全く憶えていません。しかし、ずっと記憶に残り、今でも実践していることがひとつだけあります。

ある日、その方と雑談をしていると突然、「君の今年の目標は何だい?」と尋ねられました。他愛もない普通の会話です。私は「スペースデザインの専門学校に通いたい」とか、「アイディア発想とスケッチのレベルを上げたい」みたいなことを返したように思います。すると、そのコンセプターはにっこり笑いながら「ボクは『庭』なんだ」と言うのです。

「え?『庭』ですか?」

「そう、ボクの今年の目標は『庭』。本屋に行けば、庭の専門書をいつでも探している。暇さえあれば、庭園巡りをしている。地域を歩けば、いろんな住まいの庭をのぞいているよ。今年のお小遣いは『庭』に使うと決めている。1年間、お金も時間も『庭』に投資をするんだよ。すると、1年後にはその辺の人よりもボクの方が『庭』には詳しくなってるね。テーマは毎年変えている。そして今年は『庭』なんだ。」

・・・ な、なるほど。

『庭』と言われ、最初は意味不明でしたが、話を聞いていくうちに、なんだかすごい人生の知恵を授かっているような気になってきました。やりたいテーマを決め、お小遣いとスキマ時間を優先してつぎ込むだけで、その道に詳しくなっていくというわけです。

例えば『美術館』と決めてみる。

この記憶から、私はできるだけ年間テーマを決め、その年のお小遣いの使い方を意識するようにしています。例えば、ある年は『美術館』。休みの日はできるだけ美術館に出かけ、遠方出張の時はスキマ時間を作って地元の美術館や博物館を訪ねます。休暇を使い、東北や北海道、瀬戸内にも足を運びました。その数、1年間で40館以上。それでも飽き足らず、翌年も『美術館』巡りを続けました。

ひとつのテーマに集中すると、美術館を見る目が「天井高は6メートル以上あるか?」「採光の工夫は個性的か?」「鑑賞時の歩きやすさは?」「キュレーターや職員の情熱と資金のバランスは?」「地域と溶け込んでる?」など、自分なりの見方が生まれてきます。うまく言葉にできませんが、魂が宿る生き生きとした館もあれば、その逆もあり、価値判断の軸が明らかになっていきます。このような自分流の観察眼が1~2年で養われるって、すごいことだと思いませんか。

そろそろ年末ですね。

来年の目標を決めましたか。騙されたと思ってお小遣いの使い方を変えてみてください。とても簡単ですよ。その習慣を何年も続けたら、あなたの引き出しは魅力的になり、きっと違う未来が開けてくるでしょう。

私もそろそろ、来年の目標を決めたいと思っています。

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PS 香川県高松市のイサム・ノグチ庭園美術館を訪ねた際、その作品集を購入しました。企画・監修は三宅一生さん、写真は篠山紀信さん、アートディレクションは佐藤卓さん。とても贅沢な一冊です。

この本を脇に抱え、高松を歩くと「庭園美術館に行ってきたの?いいところでしょ。私も好きよ。」とご婦人に声をかけられました。「あ、地域に溶け込んでる!」と感じました。

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