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#004:「調理」という発明が 人間らしさを誕生させた

文明を興こす「フィクション(虚想力)」。

世界をフィクションで捉えてきたからこそ、ホモ・サピエンスは無二の人類に進化してきたと、「サピエンス全史」のユヴァル・ノア・ハラリ氏は言います。

「貨幣」による価値の交換を発明し、国境という線が存在しない地球上に「国家」という枠を生み出し、さらに多くの人を束ねるための神々を構想することで「宗教」を拡げてきました。「貨幣」「国家」「宗教」。これらは人々が信じているから成立するのであり、それ自体はフィクションの産物である、というのがハラリ氏の主張です。

なるほど、フィクションの想像力が人類の進むベクトルを創造し、文化・文明をここまでドライブしてきたというわけですね。そう言われるとフィクションは人間らしさの特長かもしれません。私はこれを「虚構を想像する」という意味で「虚想力」と呼びたいと思います。

なぜ「虚想力」を持つことができたのか。

哺乳類ヒト族は、文化・文明社会を生み出したという点で他の生物の中では異質な存在です。そして、異質たらしめたものが「フィクション(虚想力)」であれば、どうやってそれを持ちえたのでしょうか。

リオデジャネイロ連邦大学 生物医科学研究所の神経科学者、スザーナ・エルクラーノ=アウゼル(Suzana Herculano-Houzel)氏は、「真に人間を人間たらしめたものは、“火の利用”ではなく“火を使った調理”だ」と語っています。

簡単にまとめると「150万年前に加熱調理が登場し、生の食事が熱で調理されたものに変わった。それによりたくさんの栄養素を効率よく摂取できるようになり、その後の60万年で脳が2倍に進化し、大きな脳と考える時間を持つことができた」というのです。

加熱された食材は消化を助けます。

そもそも消化とは、人間にとって多くのエネルギーを消費する活動です。食べれば食べるほど、消化のためにエネルギーが使われ、身体には負担がかかります。少食にすると身体が軽くなり、頭がすっきりすると言われるのは、その負担が軽減されるためです。

生の植物を食べるチンパンジーは、自身の体重と脳を維持するために1日8時間の食事が必要で、食材を探す時間を加えると、創造的な時間の余裕は生まれそうにありません。

消化を助ける加熱調理は、食べる量を増やし、栄養吸収をスムーズにし、しかもそれらを短時間で実現可能にしたのです。「火の発見」を調理に昇華させたことが、私たちの「人間らしさ」を育む要因になったというわけです。

脳と腸、これからの進化を妄想してみるのもおもしろい。

もともと人は1日2食の習慣だったそうです。それが1日3食になったのは、エジソンがインタビューで「私は1日3食だから、次々と発明ができるのだ」と発言したことがきっかけのようです。一説には、エジソンのトースターの売り上げを伸ばすためだったとも言われており、これもフィクションの力なのかと考えると、なんだか複雑な気持ちになってしまいます。

最近、腸の活動を休める空腹時間を長くすれば、若返り酵素が働いて健康効果が高まることが話題に上がりました。腸内フローラの解明や、腸が第二の脳と呼ばれるほど多くの神経細胞を有していることもこれからの進化につながるヒントでしょう。

「フィクションは常にアップデートし、人類の進化を促す」とハラリ氏。先の空腹時間や腸の活動については以前からわかっていたことですが、なかなか日常には浸透しませんでした。フィクションには成立する時期があるのかもしれません。そして、私たちが常識だと信じていることが、満を持して未来では全く違うものに変わっていくのでしょう。

未来思考による新しい「フィクション(虚想力)」で、今の常識を塗り替えていきたいものです。

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