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記事を読んで頂き有難うございます。タイのバンコクで教員をしています。日常生活で気付いた…

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記事を読んで頂き有難うございます。タイのバンコクで教員をしています。日常生活で気付いた事を短文で綴っています。 記事を楽しんで頂けたら嬉しいです。

最近の記事

「もっと人の気持ちを考えなさい」祖母が教えてくれた最後のレッスン

私が祖母の家に着いた時、祖母は庭の花に水をあげていた。彼女は私を見ると少し驚いたようだったが、すぐに大きな笑顔を浮かべた。久しぶりに会った祖母は何故か小さく見えた。濡れた花に夕日があたり、やさしく光った。 両親が共働きだったので、小さ

    • 20代の若手が教えてくれた仕事について大切な事

      M君は若手のホープだった。まだ20代だが、経営の勉強をする為、東京の本社からバンコクに送り込まれた。任されたのは赤字会社の再建。会社はこの経験が彼の将来の為になると考えているようだった。タイ語も全く話す事が出来ず、文字通りゼロからのスタートだったが、彼はその仕事に懸命に取り組んだ。 M君の本社の社長がバンコクにやって来た時、一度、私は食事を共にした。社長と話していると、彼がM君の事を高く評価しているのが良く分かった。仕事を終えたM君が後から食事に加わった。しばらく世間話をし

      • コロナ禍に病院で働くという事

        妻の携帯が鳴った。時刻は夜の11時。今晩4度目の電話だ。寝ていた妻は手探りで携帯を取り、話を聞くと、何か短く応えた。病院にコロナ患者が急増し、他の重病患者が入院出来ないそうだ。彼女は電話を切ると、携帯を置いて、再び眠りについた。枕元にある彼女の携帯電話が赤いライトが静かに点滅した。 妻はバンコク市内の病院で、患者の受け入れを担当している。最近は、休日や夜中にも電話がかかってくるようになった。勤務先の病院のスタッフの幾人かがコロナに感染し、人手が足りないそうだ。彼女の健康が心

        • コロナに感染 ? (2) コロナが深刻化しているタイから伝えたい事

          金曜日にコロナの検査キットが届いた。 検査するのが怖かった。「もしコロナに感染していたらどうしよう? 接触した友人達に何て説明したらいいだろう?」。この2週間に私は年配の方とも話をしている。 昨日のタイの1日のコロナ感染者の数は14150人 (日本の約2倍)。病床は逼迫していて、現在、バンコクの病院に入院する事はとても難しい。実際、コロナに感染した私の友人は入院する事が出来ず、今 自宅療養を続けている。 「もし、予防接種を受けていない次女が感染したらどうすれば良いだろう?」

        「もっと人の気持ちを考えなさい」祖母が教えてくれた最後のレッスン

        • 20代の若手が教えてくれた仕事について大切な事

        • コロナ禍に病院で働くという事

        • コロナに感染 ? (2) コロナが深刻化しているタイから伝えたい事

          コロナに感染?(1)

          月曜日, 朝起きると、頭が重く喉が痛かった。熱はなかったが、体が少しだるい。コロナのデルタ株の初期症状と似ていた。単なる被害妄想だと一笑したかったが、コロナだったら面倒だ。「週末は、外出しない方がいい」という妻の声を聞いておけば良かった。

          コロナに感染?(1)

          パートナーを亡くした友人からの   メッセージ

          誕生日に古い友人から短いメールを受け取った。御礼を述べると、彼女から折り返し、返信が来た。 「夫が癌で亡くなりました。」とそこには書いてあった。膵臓(すいぞう)癌が見つかり、その9か月後に亡くなったそうだ。人づてに「彼女の夫が亡くなったらしい。」とは聞いていたが、それは本当だったのだ。「夫を亡くして、数年間は辛かった。」という短い一文に、彼女の深い喪失感を感じた。 生前、彼女の夫は旅行会社を営んでいたが、あまり上手くいっていなかった。彼女がある時「夫が 貸したお金が戻って

          パートナーを亡くした友人からの   メッセージ

          妻の入院

          担架に乗せられて、妻は病室に戻ってきた。彼女の顔は青白かった。看護婦達はまだ昏睡状態の妻を手際よくベッドに載せると、ベッドサイトモニターのスイッチを入れた。暗い病室の中で心拍数を測る赤と緑のランプが静かに光った。 六時間に渡る腎臓の手術に妻は本当に良く耐えた。病室に戻って数時間後、ベッドの上で横たわっていた彼女が突然、私に言った。              「御飯食べた?」                           自分の命がどうなるか分からないのに、私の事を気

          妻の入院

          小さなカップケーキ         ー誕生日に気付いた大切な事ー

          誕生日が今年も突然やってきた。                        朝家を出る時、下の娘が眠そうな目で「お父さん、誕生日おめでとう。」と小さく呟いた。寝不足で朝はいつも不機嫌な彼女はそれ以上は話したくないようで、それだけ言うと、足早にスクールバスの中に消えていった。彼女の最大限の「思いやり」が何だかおかしかった。 職場では同僚が昼休みに、アイスクリーム ケーキで誕生日を祝ってくれた。彼らが多忙な事を知っているので、時間を割いてもらって、何だか申し訳ない気がした。

          小さなカップケーキ         ー誕生日に気付いた大切な事ー

          隣家の老人が教えたくれた事

          家の窓越しから何か音が聞こえたので、外を見ると、隣家の老人が庭の手入れをしていた。彼は数年前に妻を亡くし、一人でそこに住んでいた。 彼は犬が大好きで子犬を4匹飼っていた。ある晴れた夏の日、彼は自宅の庭に私の子供達を招くと、子犬と遊ばせてくれた。犬を欲しがっていた子供達は小さな子犬と遊ぶ事が出来て大喜びだった。下の子供は、白い子犬を胸に抱くと、何度もその頭を撫ぜた。 彼は朝晩、近所を一人でよく散歩していた。犬がいる家の前を通ると、彼は決まって何か犬に話しかけながら、小さなお

          隣家の老人が教えたくれた事

          父の背中

          先週、実家の近くに住んでいる妹から連絡があった。「父親の持病が悪化して手術を受けるかもしれない。」との事だった。すぐ母親に連絡を取ったが、返信がない。私に心配をかけたくないのだろう。祖母が亡くなった時も事後報告だった。海外に住んでいるとこうやって家族を少しずつ失っていく 父親は現在82歳で、仕事を引退してからはずっと家にいる。これといった趣味もなく、友達もいないので 朝、庭の植木の手入れをするともうする事がなくなり、一日中家でテレビを見ている。 父はお酒を飲んで話をするの

          父の背中

          転職

          「インターナショナル スクールで働いている教員は皆、いつかは辞表を出さなければならない。それが早いか遅いかの違いはあるけれど…」 送別スピーチに感情が入り、彼女の声が少しだけ高くなった。 同僚だったKは、こうして2019年の6月、14年間教えた学校を去っていった。 「自分の担任のクラスの学生も来年、卒業するから、私も学校を去る事に決めました。新しいチャレンジに向かう時が来ました。」というメールをKから受け取ったのはその前年の9月の事だった。彼女は60歳を過ぎていたから、契

          転職

          インスタグラムの写真

          去年の年末、バンコク近郊にあるバンセンという海辺の町に家族で出かけた。その後私達はパタヤに行く予定だった。 翌日朝起きると、パタヤがロックダウンしたというニュースが飛び込んできた。コロナの拡大に伴いレストランもプールもショッピングモールも全て閉鎖されるという事だった。私は前日、寝不足であまり気分が良くなかった。パタヤに行っても何もする事が出来ないので、予定を変更して家に帰ろうと言った。旅行に行っても、ずっとホテルの部屋にいるだけでは面白くない。子供達は家に帰るか、パタヤに行

          インスタグラムの写真

          旧友からのメッセージ

          昨年の10月、妻が入院した。手術は5時間近くに及び、いつもは快活な妻が担架で病室のベッドに運ばれてきた。麻酔で眠っている彼女の顔は真っ白だった。看護婦は点滴の用意を終えると、部屋から出て行った。薄暗い病室の中では心電図モニターの赤い光が妻の顔を照らしていた。              幸いな事に彼女は病気から回復し、2か月後には職場に復帰する事が出来たのだが… 先日、職場の昔の同僚からメールをもらった。彼女は今、故郷のベルギーに住んでいる。                

          旧友からのメッセージ

          娘の優しさ

          3週間ぶりに上の娘が家に帰ってきた。彼女は今、大学2年生で、いつもは学校の近くのアパートで独り暮らしをしている。久しぶりに帰宅しても、 自分の部屋にこもり、いつもパソコンに向かい何かしている。彼女の行動は高校生の時から何も変わっていない。時折、彼女の笑い声が部屋から聞こえる。 その日は今にも泣きだしそうな空模様だった。それでもちょっと、私は近所のコンビニに買い物に行こうと思った。歩いて5、6分だから、急いで行けば雨が降りだす前に帰ってこられるだろう。            

          娘の優しさ

          #8月31日の夜に/彼女の胸の痛み

          今回は学生の痛みに寄り添う事が出来なかった話を書きます。 試験会場は静寂に包まれ、テストをめくる音以外は何も聞こえなかった。試験監督をするためその部屋に入ると、すぐに学生の緊張感とため息が伝わって来た。中を見渡すと前方にSが座っているのが見えた。真剣な表情で試験の問題を読んでいた。目が合ったような気がしたが、彼女は表情を変えず、 解答用紙に何か一心に書き込んでいた。 私の勤務しているバンコクのインターナショナルスクールでは13年生(高校3年生)になると全ての学生がIBの試

          #8月31日の夜に/彼女の胸の痛み

          高校生からもらった最後のメッセージ

          コロナウイルスの影響で、私の勤務しているバンコクのインターナショナルスクールも学校が閉鎖されました。 今回は高校3年生からもらった最後のメッセージについて書きます。 最後の登校日 「タイの教育省の要請により、学校は明日から閉鎖されます。」という短いメールを私達が受け取ったのは3月17日の事でした。この通知により、その日が高校3年生の最後の登校日となりました。学生達も自分の高校生活がこんな風に終わってしまうなんて予想もしなかったと思います。 彼らはその日の授業が終わると、納

          高校生からもらった最後のメッセージ