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インスタグラムの写真

去年の年末、バンコク近郊にあるバンセンという海辺の町に家族で出かけた。その後私達はパタヤに行く予定だった。

翌日朝起きると、パタヤがロックダウンしたというニュースが飛び込んできた。コロナの拡大に伴いレストランもプールもショッピングモールも全て閉鎖されるという事だった。私は前日、寝不足であまり気分が良くなかった。パタヤに行っても何もする事が出来ないので、予定を変更して家に帰ろうと言った。旅行に行っても、ずっとホテルの部屋にいるだけでは面白くない。子供達は家に帰るか、パタヤに行くかで少し迷っているようだったが、私が体調があまり良くないと言うと「分かった。それじゃ家に帰ろう。」と長女は短く言った。

その時、彼女はそれ以上何も言わなかったが、態度がおかしいと気付いたのは翌朝の事だった。彼女は私の事を避け、口をきかなかった。

娘は多分、パタヤに行きたかったのだ。でも、優しい彼女は私の体調を考え、楽しみにしていた旅行を断念したのだった。自分の気持ちを隠して…

数日後、彼女のインスタグラムを見て胸が痛んだ。そこにあったのはコーヒーショップで撮った一枚の写真だけだった。彼女は旅行中、何枚も写真をとっていたが、インスタグラムにあげられるものは他にはなかったのだろう。

去年はコロナの影響で家族で旅行に行く事が出来なかった。久々の旅行だった。ロックダウンなんて気にせずパタヤに行くべきだった。彼女は旅行をあんなに楽しみにしていたのに… 悪い事をした…                              出発前、張り切って車に荷物を積み込む彼女の姿を思い出した。

インスタグラムのその写真を見る度に心が痛む。


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