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娘の優しさ


3週間ぶりに上の娘が家に帰ってきた。彼女は今、大学2年生で、いつもは学校の近くのアパートで独り暮らしをしている。久しぶりに帰宅しても、 自分の部屋にこもり、いつもパソコンに向かい何かしている。彼女の行動は高校生の時から何も変わっていない。時折、彼女の笑い声が部屋から聞こえる。

その日は今にも泣きだしそうな空模様だった。それでもちょっと、私は近所のコンビニに買い物に行こうと思った。歩いて5、6分だから、急いで行けば雨が降りだす前に帰ってこられるだろう。                  「コンビニに一緒に行く?」と言うと娘は笑顔で頷いた。                     「雨が降るから車で行こう。」と彼女。                 外を少し歩きたかったので「歩いていこう」と言うと、「それじゃ行かない。」とへそを曲げてしまった。彼女には一度言い出すとそれを曲げない ようなところがある。「何もいらない」と言う娘の捨て台詞に苦笑しながら、私は1人で家を出た。

歩き出して2~3分もすると、ポツリ、ポツリと灰色の雨粒が落ちてきた。それを避けるように小走りに走ったが、雨は見る見るうちに大粒になり、路上の全ての物を飲み込んだ。スコールだった。近くの店の軒先に逃げ込んだが、雨脚がひどく、しぶきで背中が濡れた。

仕方なくそこで雨宿りをしていると携帯が鳴った。娘だった。         「大丈夫だよ」と言ったが、その後も数回、電話をかけてきて「雨ひどいでしょ?車で迎えに行くよ」と彼女。                         

すこし戸惑った。今まで迎えに行くのは私の仕事で、学校や駅で待っているのはいつも彼女だったからだ。一度、学校に迎えに行くのが遅くなり、広い教室に娘が1人ぽつんと座っていた事があった。窓越しに見た彼女の後姿はとても小さかった。彼女は私の顔を見ると、少し微笑み、それから泣き出した。

コンビニから家に戻り、買ってきた飲み物を渡すと、娘は「ありがとう」と言って、笑顔を見せた。優しいところは母親に似てきたなと思った。どうして今まで、彼女の小さな優しさに気付かなかったのだろう...



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