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コロナ禍に病院で働くという事

妻の携帯が鳴った。時刻は夜の11時。今晩4度目の電話だ。寝ていた妻は手探りで携帯を取り、話を聞くと、何か短く応えた。病院にコロナ患者が急増し、他の重病患者が入院出来ないそうだ。彼女は電話を切ると、携帯を置いて、再び眠りについた。枕元にある彼女の携帯電話が赤いライトが静かに点滅した。

妻はバンコク市内の病院で、患者の受け入れを担当している。最近は、休日や夜中にも電話がかかってくるようになった。勤務先の病院のスタッフの幾人かがコロナに感染し、人手が足りないそうだ。彼女の健康が心配なので「夜は携帯を切って。」と頼んだが、ここ最近、妻は寝る時もその電源を切らない。

院内感染を防ぐ様々な措置がされているとはいえ、毎日のようにコロナ患者が入院してくる場所で働くというのはどういう気持ちなのだろう?    そこでは、ワクチン接種を受けたスタッフでもコロナに感染しているのだ。妻は「感染しないように気を付ける。」と言うが、それには限界がある。 絶対安全な場所は病院には存在しないのだから。

去年手術を受けた妻の体が心配だ。彼女の責任感が強いのは分かるが、毎日無事に家に帰ってきて欲しいというのが私の本音だ。彼女のように現場で懸命に働く人達のおかげで、コロナ渦でも医療体制が存続しているという事は理解しているのだが…

夕方、彼女は帰宅すると、ソファーに座って、目を閉じた。疲れているのか、服も着替えなかった。それから暫くして、妻は子供達とジョギングに出かけた。14歳の下の子は彼女を追いこし、先に走っていったが、二十歳の長女は母親に寄り添うように伴走した。母の事を守っているようだった。彼女達の姿が遠くに小さくなっていったが、2人の笑う声がかすかに聞こえた。毎日、コロナと戦っている妻にとって、子供達と過ごす時間が唯一、心休まる時間なのだろう。

彼女は今日も朝起きると、いつものように職場へ向かった。 

昨日、タイの一日のコロナ感染者数は過去最多の17669人に達した。


短文なのでもし良ければ、以下の文も読んで見て下さい。コロナ2部作です どうぞ、宜しくお願いします。                                                                    

コロナに感染?(No.1) https://note.com/kaz2020/n/n879fd48a7067  
コロナに感染?(No.2) https://note.com/kaz2020/n/ne51ebd855d94

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