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隣家の老人が教えたくれた事

家の窓越しから何か音が聞こえたので、外を見ると、隣家の老人が庭の手入れをしていた。彼は数年前に妻を亡くし、一人でそこに住んでいた。

彼は犬が大好きで子犬を4匹飼っていた。ある晴れた夏の日、彼は自宅の庭に私の子供達を招くと、子犬と遊ばせてくれた。犬を欲しがっていた子供達は小さな子犬と遊ぶ事が出来て大喜びだった。下の子供は、白い子犬を胸に抱くと、何度もその頭を撫ぜた。

彼は朝晩、近所を一人でよく散歩していた。犬がいる家の前を通ると、彼は決まって何か犬に話しかけながら、小さなお菓子を与えた。近所の犬は彼を見るといつも尻尾を振って、家の柵超しに近寄って来た。食べ物をあげると彼はしばらく、犬の持ち主と何か談笑していた。

ある曇り空の日、金属がたたきつけられる鈍い音が家の外から聞こえた。 それは歩行器がアスファルトを打つ音だった。彼は数週間前に脳溢血で倒れたのだった。それでも幸いな事に、一命をとりとめ、リハビリを始めたのだった。彼は歩行器を強く握りしめ、前に向かって懸命に歩いていた。

それからしばらくすると、隣家からは犬の鳴き声が聞こえなくなった。彼は犬を手放したのだった。四匹の子犬を自分ではもう面倒を見る事が出来ないと判断したのだろう。彼が一番必要の時に犬達がいなくなってしまったのは残念だった。

リハビリをしている彼を見ると、「毎日を楽しみなさい。」と彼が言っているような気がした。人生で何が起こるか分からないのだから、一日一日をしっかり生きて、楽しむ事が大事なのだろう。なぜなら人にはいずれ自分の好きな事が出来なくなる日が来るのだから...                                    私が彼の年になった時、どんな日々を過ごしているのだろう?何を楽しみに生きているのだろうか?

夕方、近所の家の犬小屋の前で、ひとり座っている犬を見た。犬は彼が来るのを待っているようだった。



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