金になるIPの原理を考える

　日本においてIPはごくありふれた存在である。これは、日本という国の法的、文化的側面から、種々様々なクリエイティブや作品がかなり自由に需要に応え、市場に出られることが関係している。
　このような土壌の中で、ある特定のIPがずっと支配的であるというよりは、ある程度の世代交代をしていったり、同時多発的にIPが出現して人気になったり、形を変えてIPのモチーフが受け継がれたり、ということが良く起こる。

　このような特殊な市場において、新しいIPが、きちんと「ビジネス的に」成功することはある種の賭けとなる。市場に存在する不確定な要因が多く、何をすれば正解かという一定の基準が出しにくい。その上、状況はすぐに変わる。それは人々の流行り廃りに大きく影響され、あるテーマが人気かと思えば、次の瞬間には飽きられている、ということも良くあるからだ。
　だから、新しいIPでお金を稼ぐというのは、中々に挑戦しにくいことなのである。それは個人としての面白さの判断ではなく、法人としてのビジネス的な判断だ。もし、それに合致したIPを「創出」するという場合、まずは以下の3点を確認したい。

・テーマ：生死への追求性と、善悪への態度
・キャラ：応えるのは倫理か市場か、そして拡張性
・ツール：最初に投入する媒体と、世間への伝え方

　テーマとして、そのIPを通して「生死」および「善悪」がどのように扱われていくのか、ということと、どのように見せていくのか、という態度を問う。
　これは、消費者にお金を出してもらわねばならないIPものとして、生死と善悪という誰もが無視できない題材をどのように扱うのかということから、逃げられないからだ。人間の根本的なこの疑問と向き合わないようなIPは不誠実であり、それは消費者に伝わってしまう。そんなものは市場で生き残れないため、この生死と善悪への態度は、テーマとしてどのような態度でいようかというのを、きちんと決めておきたい、ということになる。

　キャラとして、まずそのIPでは社会的な要求つまり倫理に対応して設定などを作っていくのか。それとも単に消費者の要求つまり需要に対応してなのかをはっきりさせるということ。それと同時に、IPに登場するキャラクター達には、きちんと深掘りできる設定が作れるのか、そのような世界観はできるのか、また、キャラクターの数もどこまで増やせるのか、ということを決めておくこと……これらを問う。
　これは、倫理とは法律、人種、性などの法人として求められる倫理的な規範のことであり、需要とは単なる利益となるクリエイティブ上の基準である。人道に従うのか金に従うのかということであるが、この2つは必ずしも相反するばかりではないものの、キャラクターのデザインや設定や言動などに関して方向性を統一しておかなければ、右往左往するばかりで何も作れないことは明白である。また、キャラクターそのものの拡張性に関しては、IPとはその代表であるキャラクターを様々な場所に出張するものであるために、別の世界観や他のIP、カジュアルな場やフォーマルな場など、より多くの場や状況に適応できる引き出しは多い方が、よりビジネスとして成功しやすい、ということである。

　ツールとして、そのIPが何をきっかけとして消費者に気づいてもらうのか、その方法は適切なものを選べるのか、ということを問う。
　IPとは商品である。だからそれを売り出すにはプロモーションが必要なことは当然だ。しかし、このプロモーションが悪ければ、いくら商品そのものがどれだけ価値があろうと手に取ってもらえない。それに、IPのテーマ性や面白さによっては、それを最大限感じられる形というのがある。ゲームに向いているもの、ウェブに向いているもの、イベントに向いているもの、映画に向いているもの……などなど、適切な見え方がある。
　そういったIPの魅力を最大限活かす形と見せ方の工夫について、IPそのものと同時に考えるくらいでなければ、昨今の激動する市場の荒波に飲まれてしまう、ということである。

　以上のように、IPを創り出してお金を稼ぐためには、少なくともテーマとキャラとツールについて、予め考えておかねばならない。これらを考え、適切なゴールに導けた時に、そのIPは更にその先のゴールを目指すことができるようになるはずだ。
　特に日本において、IPはごくありふれた存在で、新しいものもどんどん出てくる。そのような中で「お金を稼ぐ」ということをするのなら、もちろん、こういった原理を考えることは当たり前だろう。
　そして当然、これで終わりではない。IP作りはまだ始まったばかりだし、本当の困難はそこからスタートである。それに、売れるかどうかに絶対というのはないのだから。

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