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なぜリワークが必要なのか

メンタルヘルス不調者の職場復帰支援において、リワーク(プログラム)の利用はとても重要なポイントであると考える。今回はなぜリワークが必要なのかについてお話したい。

リワークの目的は、仕事に戻ること

リワークとは、return to work を短縮したものと言われており、その目的は
「元の仕事に戻る」ためのものである。仕事に戻るというのは、ただ職場に存在するだけの状態ではなく、賃金に見合った労務提供をすることであり、それを実現するために体調等を自己管理・維持することも含まれる。「リワークが必要かどうか」について議論する時に、その必要性よりも前に、なにをゴールにした支援なのかが曖昧だったり、ずれていることが多い。メンタルヘルス不調になると、本人が思うように気分や感情、行動がコントロールできなくなり、活躍はおろか、もとの状態に戻ることさえも難しく感じてしまうことがある。その結果、いつの間にか、「元の仕事に戻る」ことではないゴールを目指そうとしていることがある。そのため、リワークの利用要否を考える前に、まずは、職場復帰支援にあたり本人を含む、関係者が何を目指すのか(何をゴールにするのか)を確認することが重要である。リワークプログラムの利用は、それなりの期間と労力を伴うものであり、場合によっては病状を悪化させる可能性があることから、「リワークが必要か」を考える前に、何を目指すかを明確にすることが望ましい。

リワークは確実に就労継続率を高める

さきほど、リワークの目的は、元の仕事に戻ることだと書いたが、実際リワークを利用することで、就業継続率を高めることがわかっている。2016年に報告された全国的な大規模調査(https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/26090)によれば、リワーク利用者の復職 1 年後の就労継続推定値は 83.2%であり、非利用者の再休職のハザード比は 2.343 (95%CI: 1.456-3.772)とされている。ほかにも、リワークを利用することで、復帰後の就業継続率を高める研究は多数報告されている。なお、対象が限定的だが、私が担当する事業場でも、リワーク等を利用して復帰した人の復帰後1年後の就業継続率は、92%だが、利用していない人では、23%だった。

裏付けのある自信をもって戻ってくる

実際に、職場復帰の現場で感じるのは、リワーク等を利用した方の多くは、自分自身の理解を深め、具体的に対処方法をしっかりと身に着けた状態で戻ってくる。特に、リワーク等を利用した人は、体調不良に至った理由を、自分自身に見出しているということが多いと考えている。メンタルヘルス不調に至る理由は複数の要因があり、業務の質や量、人間関係の問題や、環境変化など多岐にわたるが、具体的な対処法を学び、自分でコントロールできる範囲が広がることで、自分で対処できると考えるようになり、さらに実際に自分で対処すう方法を身に着けられて戻ってくる。これは、ただ知識が増えたことにとどまらず、プログラムに参加し、他人との関係の中で繰り返しやってみて、失敗したり、成功したりすることで、実際に使えるスキルになっているからこそだと考える。

本気で自分と向か合う環境がある

社会で生活していると、うまくいくことばかりではないし、思い通りにいかないことがたくさんある。しばらく社会生活から離れると、いわば希望的観測というような感情を抱き、職場復帰に対する焦りと相まって、うまくいかないことを忘れてしまいがちである。そして、自分自身に対しても、本当はうまくいっていない自分に向き合わずに、自分で自分を誤魔化しているケースもよくある。リワーク等では、同じように休業して苦しんでいる仲間がおり、専門的なトレーニングをうけたスタッフに関わってもらうことで、一人ではなかなか向かうことのできなかったことにも目を向けることができる。本当の自分を向きあうことは、真に自分自身のストレス要因に気づくことにつながるため、そこへ対応が身に着けられれば、将来的に、体調を崩した時と同様の場面や、それ以上の場面に遭遇しても、体調を崩さずに乗り切れる可能性が高くなる。つまり、安定就業の継続につながり、真の意味で「元の仕事に戻る」状態が作れるのだ。

リワークは「元の仕事に戻る」ための最善策

リワークは、真の意味で「元の仕事に戻る」状態を作るために非常に有効な選択肢だと述べたが、改めてリワークが必要かどうかを考えてみたい。リワークを利用しなくても、同じ結果が得られるなら、必要でないともいえる。しかし、休業を要するようなメンタルヘルス不調に陥る経験は、人生の中でもそれほど多くない。独自での対応を模索することにどれだけ意味があるだろうか。メンタルヘルス不調は再発が多く、再発すれば療養する期間も伸びることになる。人生100年時代ともいわれるが、人生の時間は限られており、その時間を可能な限り謳歌するには、より早期にそして確実に「元の仕事に戻る」ことが重要なのではないだろうか。そう考えれば、メンタルヘルス不調で休業している方には、リワークは必要だといえるのではないだろうか。


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<著者について>
野﨑卓朗(Nozaki Takuro)
 
日本産業衛生学会 専門医・指導医
 労働衛生コンサルタント(保健衛生)
 産業医科大学 産業生態科学研究所 産業精神保健学 非常勤助教
 日本産業ストレス学会理事
 日本産業精神保健学会編集委員
 厚生労働省委託事業「働く人のメンタルヘルスポータルサイト『こころの 
 耳』」作業部会委員長
 
 「メンタルヘルス不調になった従業員が当たり前に活躍する会社を作る」


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