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保健師をメンタルヘルス不調者の窓口にしてはいけない

なぜ、メンタルヘルス不調者の窓口は専門家なのか

会社の従業員がプライベートで問題に直面し勤務に影響出そうな場合、まず話を聞いたり、対応するのは、上司であることが一般的ではないだろうか。日々顔を合わせているし、本人がもし働けないようならその職務をマネジメントする役割を担っているので、まずは上司が窓口になるのが自然である。しかし、メンタルヘルス不調になると、事業場の規模にもよるが、保健師(時には産業医)や人事担当者が、休業中の従業員との連絡窓口になることがよくある。心理の専門職がいる場合は、その方が窓口になることもある。メンタルヘルス不調になった従業員とのコミュニケーションは、相手の状況に応じて使う言葉や表現を選ぶ上、時間もかかり、多くの上司がその対応に不慣れであることを考えると、経験や知識がある専門職が対応することがよりメリットがあるようにも見える。

復帰後の上司の関わり方が重要だ

メンタルヘルス不調者対応を、その当事者である従業員や上司、会社を長期的な視点でみたらどうだろうか。メンタルヘルス不調になった従業員もいずれ職場に戻ってくる。職場に戻ってくれば、上司の指揮命令下で働くことになる。もし、別の職場に異動したとしても、異動先の上司の下で働くことには変わりはない。メンタルヘルス不調対応で目指すべきはゴールは、単に会社に所属し続けることではなく、不調になった本人が職場復帰し、本来の期待役割を果たしていくことだと考えれば、復帰後に最も密にかかわる上司の関わり方がとても重要だ。一方で、当の上司は、メンタルヘルス不調者対応に不慣れで不安を持っていることが多い。研修を受けたりしていたとしても、実際にメンタルヘルス不調になった部下を目の当たりにすれば大きな負担感を感じることが多い。知識がなければ、良かれと思ってメンタルヘルス不調の部下をさらに追い込む対応をとってしまうことだってある。せっかく部下が回復して、良い状態で戻ってきても、上司の関わり方次第で、本来の役割を果たせないことだってあり得る。

休業中こそ、上司が成長し適応する絶好の機会

メンタルヘルス不調者への対応に不慣れで不安をもっている上司が、復帰後の部下に対して適切な関わりができるためには、どうしたらよいのか。筆者は、部下の休業中にその窓口を担うことが、その絶好の機会になると考える。メンタルヘルス不調になると、様々な心身の変化を自覚し、それと並行して、様々な感情にも苛まれる。そして、それは必ずしも直線的な変化ではなく、よくなったり、悪くなったり、ポジティブにとらえられる時もあれば、ネガティブな時もある。そういう日々を経験しながら治療し、自分と向きあい、日常を取り戻し、社会復帰に向けて準備を進めていく。決して平たんでも簡単でもない道のりを、いろんな人の力を借りて、成長して乗り越えて職場復帰に至る。上司が、メンタルヘルス不調になった部下のその過程を、言葉やメッセージから感じ取ることは、間違いなく復帰後の関わり方を変化させる。部下の視点で見ても、自分が戦ってきたその経過を見守ってもらえたということは、きっと意味がある。実際、私が経験した事例でも、休業中の関わりを通じて、上司部下の関係が改善してケースはたくさんある。

専門職が果たす役割は、上司の支援

上司が休業中のメンタルヘルス不調者の窓口になることの利点を示したが、メンタルヘルス不調で休業した従業員の対応は簡単ではない。不慣れで不安な上司がどうすれば窓口になれるのだろうか。そこで登場するのが、一般的に窓口役を担っている保健師(産業医)や人事担当者である。保健師や人事が、窓口になる上司の不安や知識不足を把握し、必要な支援を行うのである。そのために、上司から部下とのやり取りを密に共有してもらい、使う言葉や、関わる頻度などをアドバイスする。時には、返信する文案を用意してもよい。私は、休業直後などまだ症状があり、関わる際に専門的な知識が必要なタイミングで会社がやるべきことは、生存確認(受診確認)と療養に専念することを伝える程度だと考えるので、上司には「あなたの復帰を待っているから、今は焦らず療養に専念してください」とのみ伝えればOKとお伝えすることが多い。専門職としては、あえて前にでず、部下の上司の成長を支援し、見守っていくのである。

部下が元気に活躍することがみんなゴール

メンタルヘルス不調対応は、ときに対応が難しく、これ以上悪くならないように、周囲への影響を最小化しようという対応をしがちだが、私はメンタルヘルス不調者対応で目指すべきゴールは、メンタルヘルス不調になった部下が元気に活躍することがゴールだと考えている。そのために、休業中のその時だけでなく、その先の本人の活躍する姿を思い浮かべて、その先に必要な支援を行ってほしいと思っている。だからこそ、保健師や人事担当が一歩引き、上司が窓口になってほしい、そして、部下が職場復帰するときに、上司が自信をもって受け入れられることが当たり前になってほしい。


合同会社活躍研究所では、企業向けに活躍型メンタルヘルス対策の導入支援を行っております。ご興味をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。


<著者について>
野﨑卓朗(Nozaki Takuro)
 
日本産業衛生学会 専門医・指導医
 労働衛生コンサルタント(保健衛生)
 産業医科大学 産業生態科学研究所 産業精神保健学 非常勤助教
 日本産業ストレス学会理事
 日本産業精神保健学会編集委員
 厚生労働省委託事業「働く人のメンタルヘルスポータルサイト『こころの 
 耳』」作業部会委員長
 
 「メンタルヘルス不調になった従業員が当たり前に活躍する会社を作る」


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