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メンタルヘルス不調者対応の現場からー休業している部下とどう接するか

以前、メンタルヘルス不調から復帰した部下に対して適切な関わりができるよう、休業中の窓口を上司が担うべきだという話をした。今回は実際に上司が窓口として、休業している部下とどう接するかについて触れたい。

ひとりで抱え込まない

メンタルヘルス不調者への対応は、決して簡単ではない。診断は変わることがよくあるし、再発も多く、療養期間も長い。対応を間違えれば、相手を傷つけてしまうこともあるし、場合によって訴訟にまで発展することもある。だからこそ、部下がメンタルヘルス不調で休業している上司は、まず、一人で抱え込まないことを意識していただきたい。上位職制や、担当人事、産業医や保健師、心理師などと情報を共有し連携しながら進めるのが重要だ。自分の部下が休業してしまったことで、自分の評価を気にしたり、自分で取り返そうという気持ちが湧いてくるかもしれない。しかし、メンタルヘルス不調者対応は、焦ったり、感情的になった時に足元をすくわる。関係者とは密に情報共有できる体制をとり、適宜、相談し意見やアドバイスをもらいながら進めていただきたい。

休業期間を2つに分けて考える

メンタルヘルス不調者で休業中の部下への対応は大きく2段、復帰準備期と、復帰準備準備期に分けて考えて対応することを、提案している。
メンタルヘルス不調で休業し始めたばかりの時は、うつ病などの症状があり、通常の日常生活おくれないこともままある。まずは、しっかり休むことが優先される。一方で職場にいざ職場に戻る際には、休業当初のように、療養を優先した状態のままで、にわかに職場に戻ることは難しい。特にメンタルヘルス不調で休業した場合は、月単位での療養になることもあり、職場に戻るには、それなりの準備が必要になってくる。ある程度、体調が回復して、休業中の部下が、職場復帰を考え始めたら、復帰準備を始めていく。このように、療養中でも対応が変わってくるので、それぞれ分けて考えてみたい。

療養専念期

この時期は、主要なストレス要因の一つである仕事から離れ、療養に専念する時期である。この時期は、仕事や職場から離れることが、病気を改善するためにも重要にある。ついては、会社からは、休業に際して必要な最低限の事務連絡を除き、積極的な接触は不要である。時々、情に厚く、熱心な上司は、積極的に部下に連絡を取り、励ましの言葉をかけたり、療養中の支援を提案したりすることがあるが、これらは、このタイミングでは逆効果のことが多く、避けることが望ましい。
一方で、まったく接触するわけにもいかないので、一定の頻度ごとに、状況は確認しておきたい。この方法も、しっかり顔をみて状況を確認したいと思う上司もいるが、できれば、本人にとって負担が少ない、メール等をすすめたい。それでもやり取りするだけでも、きつい体調の場合もあるので、「変わりない」等の一言をもらって、「わかりました、お大事にしてください」と簡単に変えるやり取りでも構わない。会社の近況や職場の様子を伝えたくなるかもしれないし、本人の状況からアドバイスしたくなるかもしれないが、今の段階ではその種のメッセージは不要だ。もし、部下から質問があれば、聞かれたことに簡潔に答える形で構わない。
なお、メンタルヘルス不調は、場合によって、自傷行為や、失踪などにつながるケースもある。そのため、少なくとも月1度くらいの頻度で何らかのやり取りをして、つながりを作っておきたい。もし、連絡がとれないようであれば、家族等も含め、所在の確認は確実しておくようにしてほしい。
また、休業期間が長くなると、部署の統廃合、組織改正などがあり、部下が休業中に所属が変わるということもある。このような情報を伝えるかどうかの相談もよくいただくが、結論としては必要なことは、事実として伝えていただいて、「詳細は復帰がみえてきたら相談する」と伝えればよい。伝えないでおくことで、会社への不信感や不安感を増長することになる可能性もあるからだ。

復帰準備期

本人が、そろそろ復帰について相談したいとか、日常生活がおちついてきたという情報がはいってきたら、復帰に向けた準備を開始する時期だ。より慎重に進めるなら、主治医や産業医等に、復帰に向けた準備ができる状態かを確認するとよい。この時期になれば、復帰後の業務をイメージを本人と職場ですり合わせて、人事や産業保健職の意見を聞きながら、必要な準備をすすめていく。この時期になれば、積極的に部下とのコミュニケーションをとり、体調を崩した背景をふりかえってもらったり、具体的に復帰後の生活を想定した生活リズムでもどしてもらったりする時期である。

「体調はどう?」
「苦しい時期もあったけど、よく頑張りましたね。」
「仕事についてどう考えている?」
「仕事にもどったら、仕事以外の生活への影響はどう?」
「もし仕事にもどることで不安があれば教えて」

当然、職場に状況や動きについても共有して、復帰後の職場をイメージを膨らませておいてもらう必要がある。もし、具体的に職場のことをイメージして、体調が悪化したり、緊張が強く出るようであれば、もう少し準備が必要かもしれない。また、メンタルヘルス不調は、一本調子で、調子がよくなったり、悪くなったりするわけではない。体調が思わしくない時も、一時的に体調がよく感じるときはあり、そのタイミングで「勢いで戻りたい!」と思う部下もいるが、多くの場合再休業につながるので避けるのが望ましい。復帰是非の判断は、主治医の意見者や、社内の専門職の意見に基づいて進められることが多いと思うが、上司としては、本人が休業からここまで回復してきたことをねぎらいつつ、焦ったり、不安になったりする様子があれば、丁寧に耳を傾けて、必要に応じて、「待っているから、あせらなくていいよ」等の声をかけていくのが望ましい。ここで上司が丁寧に部下の話をきき、関わることが、復帰後に、安心して就業できるかの重要なポイントになる。
なお、この復帰準備期は少なくとも2週間、できれば1か月程度かけ、職場とのやり取りが増え、復帰後の仕事を想定した状態でも、安定した状態が維持できていることを確認していきたい。

ここまで、メンタルヘルス不調で休業した部下への関わり方について述べた。休業中は、上司部下の関係を再構築する絶好の機会でもある。休業という大きな出来事で、お互いに思うこと、考えることはあると思うが、だからこそ、よりよい関係を築くチャンスでもある。上司が全てを対応する必要はないが、上司としても部下と丁寧に関わり、復帰後の活躍につなげてもらいたい。



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<著者について>
野﨑卓朗(Nozaki Takuro)
 
日本産業衛生学会 専門医・指導医
 労働衛生コンサルタント(保健衛生)
 産業医科大学 産業生態科学研究所 産業精神保健学 非常勤助教
 日本産業ストレス学会理事
 日本産業精神保健学会編集委員
 厚生労働省委託事業「働く人のメンタルヘルスポータルサイト『こころの 
 耳』」作業部会委員長
 
 「メンタルヘルス不調になった従業員が当たり前に活躍する会社を作る」



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