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短編小説たち

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2020年5月の記事一覧

短編【公園】

短編【公園】

公園には、作業員が日陰で点々と休んでいる。
派遣社員のようなご婦人の真横のベンチが空いてたので、ここいいですか、といって、橋の方に座った。
お昼休み、近くの公園だ。

この公園での数年前の思い出が、ありありと思い出される。
心地よい春もしくは夏のような爽やかな風が耳を通り抜ける。

目の前に立ったエレベーターの動いている深い赤の雑居ビルが、少し神戸の生田川沿いの景色と似ている。
あのエレベーターに

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短編【帰り道】

今日も仕事を終えた。特に何があるわけでもあったわけでもなかったが、急いで帰って、早く一人になりたい、そんな気分だった。

そんなときに限って、やけに信号に止まる。いや、わたしの中で信号に止まった感覚が強く残っているだけなのかもしれない。
かかる時間も止まる回数も、普段と変わらないだろうから、これだけこの感覚になるということは、よっぽどたくさんの信号が不規則なリズムになったか、わたし自身がそうなのか

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短編【ある日常2】

短編【ある日常2】

この世に完璧は存在しない。

それに気づきはじめていても、完璧を求めてしまうのが、僕だった。

何もかもが手元から離れた今、僕は実家のリビングで白い天井を見上げている。

なんの曲だかわからないが、外からは軽やかな野の花畑のようなピアノの音が、新緑の力強さとともにこの部屋に入ってくる。

僕には、何が残っただろうか。

いつしかのあの情熱は、いつか戻ってくるのだろうか。そう信じて、わずかな希望でも

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短編【噛み合う】

短編【噛み合う】

今日は雨の音が響く。

やけに少し明るく、雨音が。

その響きが共鳴したのは、いくつになってもずっと消えない、自分とうまく「噛み合わない」ような感覚は何だろう、という疑問だった。

乗りたいバスが目の前で去って行ってしまう時のように、隣の人との会話が全く成り立たない時のように、いつもよく見かける本なのに借りたいときに限って見つけられない時のように、右手と左手が全く同じではないように、

まるで、噛

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詩【今日1日が】

詩【今日1日が】

 

目が覚めて、重い窓を開けたなら、

流れてくるのは、淡竹のかおり。

真っ青な空を見上げて、

毎朝迎えてくれる、この空を見上げて、

生きていると感じられる今日が、幸せ。

いつもより、1時間も寝過ごした。

それでも出会えたこの生温かい朝が、

私の心をつつんでひらいて、

赤ちゃんの笑顔のような1日になることを、

願っています。