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三浦半島の秋谷という海辺の町で徒然なるままに言の葉を紡いでいます。 執筆する人 青…

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三浦半島の秋谷という海辺の町で徒然なるままに言の葉を紡いでいます。 執筆する人 青葉薫(ライター)小原信治(放送作家・脚本家)藤村公洋(バーテンダー・料理家)

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  • 美しき老いの羅針盤

    渋谷のラジオで毎週火曜21時から放送中「渋谷のラジオの惑星」のパーソナリティー小原信治(放送作家・脚本家)と藤村公洋(バーテンダー・料理家)が番組の放送後記も兼ねて50代から考えておきたい「老い」について綴っていく往復書簡です。毎月第二週火曜(小原分)と木曜(藤村分)を定期更新していきます。 すべて見る

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  • Hyper Audio Drama『CQ』第一話

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老いても答えが出ないことはなんですか?(藤村公洋)

なんといっても薪割りの上手さでしょ 今回の映画メシで取りあげた濱口竜介監督最新作『悪は存在しない』の素晴らしさ、その大きな要因が主人公たくみ役の大美賀均さんの顔や語り口を含む存在感であるのは間違いないでしょうな。彼が冒頭で画面に登場してから数分のあいだワンカットで映される薪割りがね、スコーンスコーンと気持ちいいのですよ。役者のそれには見えない。 かつて『ハッピーアワー』で職業俳優でない女性を主人公に据えた濱口作品を観ていたこともあって「ああ、今回もそれだな。現地で実際に暮ら

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    • 老いても答えが出ないことはなんですか?(小原信治)

      答えが出ていることはなんですか?  藤村くんと「老い」にまつわる質問を出し合って書いている往復書簡。今回の質問者はぼくだ。質問しておいて何だけど、答えが出たことなんて今まであっただろうか。  常々「トランクひとつで身軽に生きていきたい」を信条に、物質的なものは最小限に切り捨てている。服はコレ、靴はアレと答えを出している。にもかかわらず、それ以外の答えに関してはそううまくはいっていない。自分の答えに自信がなくて、いつも懐に代案を忍ばせている。何なら代案の代案くらいまで用意し

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      • 老いて思いだすのは、いつのどんな夜ですか?(小原信治)

        喪失感と目が合う夜  誰もがきっと喪失感を抱えて生きている。郵便配達のおじさんも、店先で世間話しているおばさんも、ぼくも、藤村くんも、そしてこれを読んで下さっているあなたも。それなりに長く人間をやっていると人は大切なものを失った哀しみをひとつやふたつは抱えている。底無し沼のようなその深い穴は何かに没頭することで忘れることはあっても、決して別の何かで埋めることはできない。たとえ同じ喪失感を抱えた者同士であっても。「×0」は「0」にしかならない。その間違いと痛みを若い時分に何度

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        • 老いて思いだすのは、いつのどんな夜ですか(藤村公洋)

          多くの幸福が思い込みの産物であったとしても 恋人のどんなところが好き?と聞かれて「顔が好き」と答える人ってたまにいますね。 「優しいところ」「家族を大事にするところ」「仕事に一生懸命なところ」などと答える人が(圧倒的に)多いなかで少数派だとは思いますが、そこをあえて顔と答える人は正直で信頼できるなと思うのですよ。 だってね、こう言っちゃ何だけど顔が好きなんて明言するのは「ちょっとバカっぽい」じゃないですか。軽薄っていうかね。一目惚れなんてその最たるもので、見た目だけでや

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          老いて飲みたいのはどんなスープですか?(藤村公洋)

          映画メシとスープの関係 映画の中にスープが出てきたらそれは大事なシーンである。さらに言えば、そんなスープのシーンが印象的な作品、それは決まって良作なのだ。 「本当に言いたいことは最初に書きましょう」という文章指南書やネット記事に従って簡潔に表現してみましたよ。今回お伝えしたいことは実に↑これだけでありまする。 もうひとつだけ付け加えるならば、ラジオの企画前から映画メシ探偵として活動するなかで多く作った食事、それは断トツでスープなのですよ。中国のスープ、アイスランドのスー

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          老いて飲みたいのはどんなスープですか?(藤村公洋)

          老いて飲みたいのはどんなスープですか?(小原信治)

          「Here」\「ゴースト・トロピック」  たとえば、静かな森の木陰で古い書物を読み耽っている男の映像を想像して欲しい。男は名残惜しそうにページを捲る。しばらくして一旦本を閉じて立ち上がる。傍らのバスケットに入っていたミルに豆を入れて丁寧に曳く。ポットの熱い湯でコーヒーを淹れる。コーヒーが落ちている間、空を見上げる。雲が流れていく。草むらに寝そべってまた本の続きを読み始める。白い湯気とともにコーヒーがゆっくりと抽出されていく―――表層的にはその程度の変化しか見えない。何も起こ

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          老いてのひとり旅、鞄の中に入れておきたいものは何ですか?(藤村公洋)

          ラジオから流れてくる声 「フジムラさん、声がいいですね」 冒頭で小原くんが言ってくれたように、マイクを通した自分の声は電話でのリモート収録とは大違いにクリアで親密な温もりを持った音としてラジオから流れてきた。 2024年最初の放送は久しぶりのスタジオ収録だったのですよ。2020年の春からは基本リモートですし、その間に生放送は1回2回あったかしら。でも僕としては生で使うメインスタジオより収録スタジオのほうが音的には好きなんでね、今回の放送は楽しみにしておりました。 遠い

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          老いてのひとり旅、鞄の中に入れておきたいものは何ですか?(小原信治)

          明日を知らずにぼくらは今日を生きている  2024年1月2日午後9時。ラジオで話している自分の声を聴いた。年の瀬のぼくがいた。年明けに何が起きているのか何も知らないぼくだった。今日のぼくは明日のぼくを知らない。未来を知らずにぼくらは今日を生きている。その無力さを改めて思い知った。年明けの重苦しい空気の中でこれを書いているぼくからすると未来を何も知らずに話している脳天気な自分が眩しくもある一方、滑稽にも感じられた。未来に対して無責任に放たれる言の葉の中に今この状況でラジオを聴

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          老いて獲りたい賞は何ですか?(藤村公洋)

          会場より中継 「受賞おめでとうございます!」 「ありがとうございます!」 「2022年に続きなんと2年連続、映画メシ大賞を受賞された今の率直なお気持ちをお聞かせください」 「えー、コホン。まずは今年も聴いてくれたリスナーのかたに感謝です。聴いてくれる人あっての映画メシですからね。投票もありがとう。それと渋ラジスタッフのみなさんや審査委員長でもある小原信治さんにも。リモート収録からの編集、そして当日の放送とお世話になりっぱなし。私なんてメシ作って喋るだけですからね。いつ

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          老いて獲りたい賞は何ですか?(藤村公洋)

          老いて獲りたい賞はなんですか?(小原信治)

          また今年も「クリスマス」を聴いている  54歳。今年もこの歌が沁みる一年の終わりを迎えてしまった。やり場のない憤り。憂鬱さ。無力感。どいつもこいつも本当にバカだな、と一度くらい声に出して言いたくなる。だけど心の中だけにしておく。口に出せば言っている自分が本当のバカになる。いや、とっくにバカなんだけど、まだ救いようのあるバカなんじゃないかと自分では思っている。人の振り見て我が振り直せ。客観視できる冷静さを持てているうちはまだ大丈夫。そう言い聞かせながら壊れそうな自分を保ってい

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          老いて獲りたい賞はなんですか?(小原信治)

          老いて、あとなんど住処を変えますか?(藤村公洋)

          足の痛みは放送に影響するのか? まずは近況報告。 足の親指が痛くて腫れております。はいはい、そう、あれです。「風が痛い♪」と書くネーミングが実にはっぴいえんど的詩心に溢れたあの病でございますよ。 先日の放送はね、発作の発症から2日目だったのです。右足の先に心臓があるかのごとくジンジンと脈打つ中での収録でしたぞ。正直言ってお喋りどころじゃない(笑)。 小原くんには言わなかったし気付いてないと思うけど、もしかしたらリスナーの中には「あれ、今日のフジムラさんいつもと違くない?もし

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          老いて、あとなんど住処を変えますか?(藤村公洋)

          老いて、あとなんど住処を変えますか?(小原信治)

          恋するヤドカリ  隣りの家のベランダで飼われていた雛がある日突然グロテスクな生き物になっていた朝の光景が瞼の裏に焼き付いて離れない。動物図鑑でも見たことのないその生き物があの雛であり、数日後には雞という人間に命を差し出す宿命を背負った成鳥になると知って、大好きだったフライドチキンが食べられなくなった。  それから10数年後。ぼくは大学のある多摩センターに行くためにラッシュアワーの電車に揺られていた。車内の湿度は高く不快な汗を掻いていた。窓に映る自分の姿が、あの雛でも雞でも

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          老いて運転したいのはオートバイ、クルマ、それとも?(藤村公洋)

          ルーマニア、ハンガリーについて知っている2、3の事柄 ハンガリーは姓名がひっくり返らない西欧唯一の国だとか。 つまり、僕らは英語で名乗るときにマイ・ネーム・イズ・キミヒロフジムラって姓と名前をひっくり返すもんだと教育を受けているけども、彼の地ではそのままフジムラキミヒロでよろしいのですよ。ハンガリー出身で『悪童日記』の著者アゴタ・クリストフも母国ではクリストフ・アゴタが正式な順番。いつだったかラジオで聞いて知ったことではありますが、それ以来ハンガリーという国にシンパシーを

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          老いて運転したいのはオートバイ、クルマ、それとも?(小原信治)

          誰が握ったおにぎりでも食べることができますか?  シンプルで芯を食った表現に脱帽した。素晴らしい映画メシだった。藤村くんが握ったおにぎりの写真。過去の映画メシの中でも料理としてはもっとも手の込んでいない一品だったのではないだろうか。にもかかわらず、あの写真一枚で「ヨーロッパ新世紀」という映画を完全にリメイクできていると感じた。スタジオでの生放送じゃなかったので食べられなかったのが悔やまれて仕方がない。ちなみに具は何だったのだろう。 「あなたは誰が握ったおにぎりでも食べるこ

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          老いて、みんなに知られているのと知られていないの、どっちがいい?(藤村公洋)

          ちょっと昔の9月の話 2012年の9月、幸運にして初めての料理本が発売されたとき僕はまるっきりの無職だった。 その年の2月いっぱいで勤めていたレストランが閉店(事業縮小のため)となり、いい機会だからと独立の準備を始めるシェフやイタリアへ料理留学を考えるスタッフがいるなか、僕は自著のための執筆や料理撮影で春と夏を過ごした。 体の不調もあったし、会社都合での退職だったことで失業保険もすぐに貰えた。身の振り方を考えるのは本が出てからでもいいだろうとノンキに構えていたところでひ

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          老いて、みんなに知られているのと知られていないの、どっ…

          老いて、みんなに知られているのと知られていないの、どっちがいい?(小原信治)

          わからないことはわからないままでいい 「わからないことはわからないままでいい」と藤村くんは言った。それが映画「#ミトヤマネ」の感想でもあった。ゲストには監督の宮崎大祐さんがいらしていた。聞く気にさえなれば(放送できないことも含めて)何でも質問できる。それでも藤村くんは「監督に聞きたことはないです」と言い切った。「わからないことはわからないままでいい」と。そこに彼の生き様というか、世界との向き合い方が現れていると感じた。  白黒はっきりしなければいけないという空気が蔓延して

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