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草の根広告社/父子手帖(ニコニコチャンネル復旧までの臨時更新)

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「だけじゃない生き方」

 朝起きて窓の外を見たら、海の上をたくさんの人が散歩していた。ロングボードに立って凪の海面を気持ち良さそうに滑っていく。娘が数え始める。ぜんぶで14艇だった。平日の朝7時。首都圏のターミナル駅では人波に溺れそうになる時間帯だ。朝の陽射しの下、額に汗して満員電車に乗客を押し込める駅員さんの姿が浮かんだ。受験戦争。就職戦線。出世競争。そういう時代を生きてきたひとりとして思う。人生には「だけじゃない」生き方の選択肢もあるということをどうして学校では教えてくれなかったんだろう。

「朝ごはんできてるよ」
 妻の声が聞こえた。海を見ていた娘が慌てて食卓につく。以前はぼくも平日の朝からSUPこそせずともランニングをしたりしていた。が、娘が小学校に入学した辺りから我が家の朝の風景は大きく変わった。

「休みたいときは休んでもいいんだよ」
 毎朝、登校班との待ち合わせ場所まで娘を送るとき口癖のようにそう伝えている。
「うん、わかってる」
 娘はいつも頷くけれど「休みたいから」という理由で休んだことはまだ一度もない。困りごとがないんだなと安心する反面、毎朝学校に行くのが当たり前になっていくうちに「だけじゃない」生き方があることを忘れてしまったのではないかと少しだけ心配になる。何より、親であるぼくら自身も毎朝子供を学校に通わせることが当たり前になってしまっているのではないかと自分で自分が怖くなる。

 娘は今朝、久し振りに袖を通したお気に入りのワンピースが小さくなったと泣いていた。また背が伸びていた。4センチも伸びていた。
「大きくなりたくないな」と娘は淋しそうに言った。
「どうして?」
「パパとママは大きくなったからパパとママと一緒に暮らしてないでしょ? 大きくなったらパパやママと一緒に暮らせなくなるから大きくなりたくない」
 保育園に通っている頃は「大きくなってもずっとパパやママと暮らす」と言っていた。いつの間にか「大人になったら親元を離れていく」というのが娘の中ではルールになっていることに驚いた。
 何より「大人になっても親と一緒に暮らしている人もいるよ」と言おうとして、その言葉を飲み込んでいる自分に驚いていた。

 娘が学校に到着するのをスマホのGPSで確認してから、里山の菜園に行く。ナスとピーマンを初収穫する。トマトはまだ赤く色づいていない。不意に昔テレビで見た四角いスイカのことを思い出した。本来丸いスイカを四角い型の中で育てることで成形された四角いスイカだ。自分がいつの間にか親という型の中で役割を果たすうちに型通りの親になっているのではないかと怖くなる。娘が型通りの小学生になっているのではないかと怖くなる。

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